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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第五章 暗黒街ドレッダの魔女
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第十三話 暗黒街ドレッダの探索③

「いやぁ、とてもお強いっすね、鎧の旦那……。まさか、『毒剣のデュドネ』と恐れられていた兄貴を、ああもガキ同然にあっさりと……」


 エリクはへらへらとランベールを諂う様に笑う。


「で……旦那、俺に何か頼みがあるんっすよね? 俺なんかにできることなら、なんでも聞きますよう?」


 エリクは恐ろしく合理主義者であった。

 ランベールが自身を善意で助けたとは全く考えていないようであった。


「……俺が単に正義感から助けたとは思わないのか?」


「へへへ……旦那、何を言っているんですかい? よくわかりませんけど、何処かで流行りのジョークだったりするんですか? 何かあるんでしょ、俺にやって欲しいことが?」


 事実そうであるし話が早くて助かるのだが、ランベールとしてはやや複雑な心境であった。

 しかし、この街ではそれが当たり前なのだろう。


「……お前らの所属している『土蜘蛛』とやらは、『笛吹き悪魔』と繋がっているのか?」


「ふ、『笛吹き悪魔』っすか? それって、あのヤバイ魔術組織の? いやぁ……そんな話は……」


 エリクは『笛吹き悪魔』の名前を聞いた途端、顔を真っ青にして首を振った。

 表情に『あんな連中なんかととても関わりたくない』とはっきり書いてあった。


 エリクが嘘を吐いているようには見えなかった。

 そんな腹芸に長けた人物であるとも思えない。

 エリクはこの街ではありふれた、ただの三流の小悪党だ。


 エリクは見るからに下っ端である。

 仮に『土蜘蛛』が『笛吹き悪魔』の傘下の組織であったとしても、彼が知っているとは元々考え難かった。


「『土蜘蛛』がこの街を牛耳っていると言っていたが、あれは本当か?」


「んん……質問の意図がよくわからないんっすけど……貴方様は、外から来たんっすか? てっきり、揉め事を作りたくてデュドネさんを挑発してるのかと……」


「どういうことだ?」


「あ、いや、ここに明確な支配者とか、そういうのはないんっすよ。こんなの、ぶっちゃけ外の奴でも知ってることかと思いますけど……。まぁ、主要派閥の一つといえばそうなりますし、幹部の方はどいつも自分が一番上だみたいな顔をしてみますが、俺から客観的に見れば三竦みってとこっすかね。こんなの聞かれたらぶっ殺されますけど」


 エリクの言っていることは確かにランベールも既に聞いた通りの話であった。

 だが、それを分かった上で、陰の支配者として『笛吹き悪魔』の関係者がいるのではないかとランベールは考えているのだ。

 それが『土蜘蛛』であれば話は早かったのだが、エリクがそれを知っている、というのは薄い期待であった。


(……だが、それは上に確認すれば済むことか。大規模組織の頭なら、何かしらは知っているであろう)


 ランベールは少し思案していたが、すぐにエリクへと新たな質問をぶつけた。


「人探しをしている。銀髪の、この街には場違いな格好をした娘を知っているか? 剣を腰に差しているはずだ」


「え……? いえ、心当たりがないっすね。申し訳ないですが……。そんな目立つ女がいれば忘れることはないと思いますが……」


「そうか、ならお前から聞けそうな話はなくなってしまったか」


 ランベールが言うと、エリクがびくりと肩を震わせる。


「あ、ひ、ひょっとして、俺、用済みっすかね? 殺していくとか、そういうこと言いませんよね? 鎧の旦那ぁ……?」


「そんなことはせんが……この街ではそれが普通なのか?」


「いや、旦那の圧が凄いもんで、へへへ……」


 エリクが苦笑いしながら頭を掻く。


「少し案内してもらいたい場所があるが、いいか?」


「どこっすか? 鎧の旦那の頼みとあれば、なんでも聞きますよ! ……もっとも、俺が知ってる範囲のことになりやすが……」


「『土蜘蛛』の、頭がいるのはどこだ? そいつに話を聞きに行きたいのだが」


 ランベールの問いを聞き、エリクが顔を真っ青にして震えあがった。


「止めておいた方がいいですよ、旦那ァ……。『土蜘蛛』のボスは、会いたいからって会えるようなお人じゃないんですよ。アラクネ様っていう女の方なんですが……それはそれは恐ろしくて、残酷なお方でして……」


「ほう」


「俺みたいな下っ端の仕事には興味はないでしょうが……万が一目をつけられたら、死ぬことさえできなくなります。呪術の繭に閉じ込められて、木乃伊になったまま、十数年も苦しんで生き続けることになるんです。そうされている奴が、五人はいるって話ですよ」


「十数年か……」


「ね、恐ろしいでしょう? 何を訊きたいのか知りませんけど、やめておきましょう?」


 八国統一戦争中には、その手の拷問の魔術は研究され尽していた。

 木乃伊にして十数年など、ランベールの生前に比べれば随分と生温い拷問だった。


「ああ、そうだな、恐ろしいな。では、案内してくれエリク」


 ランベールがあっさりと返すと、エリクの顔から表情が失せた。


「無茶ですよ旦那! アラクネ様のいる『土蜘蛛』の本部の建物は、凶悪な魔術師や剣士が何人もいるんです! 王国兵団の連中だって殺したことのある、本当にヤバイ人ばっかりなんです! この街には、ここにしか居場所がない俺みたいな奴と、無法地帯のこの街を好んでいる本物がいるんです。本部にいる幹部の連中は、間違いなく後者の人間です!」


「ほう」


「アラクネ様に会いたいなんて言ったって、あの人達が素直に通してくれるわけがない! 確かに旦那は腕が立つようですが、多勢に無勢なんてものじゃありませんよ!」


 エリクは必死に身振り手振りで、ランベールへとアラクネに会いに行くことの無謀さを伝えようとする。

 ランベールは納得した様に頷いた。


「わかった、お前の言葉を信じて気を引き締めて向かわせてもらう。それでは、早く案内してもらっていいか? 知人の捜索もせねばならんため、俺は急いでいるのだ」


 エリクは力なく地面の上へと座り込んだ。


「だ、駄目です! そんな案内させられるくらいなら、デュドネさんに殺されてた方がいくらかマシですよ! 万が一アラクネ様に目をつけられたら、どんな目に遭わされるか……!」


 ランベールは背負っていた大剣を片手で掲げ、勢いをつけて振り下ろした。

 それだけで辺りに衝撃が走り、地面が大きく抉れていた。

 エリクは呆然とした顔で、大剣の残した跡を見つめていた。


「案内よりも……今死ぬ方が、マシだというんだな?」


「そ、そそ、そんなぁ……」


 エリクはがっくりと項垂れた。


「悪いが、俺も手段を選んでいる猶予はあまりないのでな。とっとと案内しろ、後悔はさせん」

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