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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第五章 暗黒街ドレッダの魔女
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第十話 パーシリス伯爵領への来訪⑨

 翌日、ランベールは街を巡り、再度情報収集を行っていた。

 暗黒街ドレッダについては勿論のこと、パーシリス伯爵より聞いた話の裏付けや、パウマン伯爵家の評判などにも焦点を当てて聞き込みを行っていた。


 いつものランベールであれば最低限のことさえわかれば、とっとと最終目的地へ向かっていたところだが、今回ばかりは少し引っ掛かるところがあったのだ。

 パーシリス伯爵に聞けば解決するであろう話も多々あったのだが、老私兵トロイニアの非協力的な様子からして、必要以上の接触は避けるべきだと判断していた。

 これ以上下手に関わろうとすれば、本格的に敵対するリスクもあると考えていた。


 それに、もう一つあまりパーシリス伯爵邸に直接乗り込みたくない理由があった。

 ランベールは伯爵家の当主や跡継ぎの暗殺事件についても調べていたのが、聞けば聞く程、あまりに手際が良すぎるのだ。


 パーシリス伯爵の父親が毒殺された際には結局何に毒が仕込まれていたのか分からず仕舞いだったらしく、二人の兄が暗殺された事件に置いてはその下手人は顔さえわからなかったのだという。

 ランベールにはどうにも伯爵家の内部に暗殺の手引きを行った者がいるように思えてならなかった。

 しかし、先日の様に直接伯爵邸へと出向いて根掘り葉掘りと探る姿勢を見せれば、刺客を暴く機会を失う可能性があった。


 刺客は恐らく、パウマン伯爵家をコントロールできる位置にいる人物に違いなかった。

 パーシリス伯爵より信頼を得ており、長年仕えている人物として、真っ先にトロイニアが上がった。

 彼の棘のある言動はパウマン伯爵家の現状を考えれば仕方のないことではあるのだが、それを踏まえてた上でもやや不審なところが残る。


 トロイニアについては、領民への聞き込みですぐに詳細がわかった。

 トロイニアはトラーゴ家の人間であり、トラーゴ家は代々パウマン伯爵家に仕える剣士を輩出している一族なのだという。

 トロイニアはパーシリス伯爵の親の代から仕えているという話であったが、家という単位で見れば更に長い付き合いであるようだった。


 トロイニアは気弱な現当主より発言権を持っているようにさえ見えたが、そういう背景があるならば納得の行く話であった。


(……代々、か)


 この話が本当ならば、トラーゴ家が世代を跨いでパウマン伯爵家を操り、暗黒街の管理が杜撰になるように誘導していた、という可能性も出て来る。


 できればパウマン伯爵家の成り立ちや起源についても知りたかったのだが、それらについてあまり詳しい人物と接触することはできなかった。


 単に暗黒街の首魁『首無し魔女』を討伐するだけでは、どうにもパーシリス伯爵領の事件は解決しないように思えたのだ。


 パーシリス伯爵の話では、暗黒街を中心に行われていた魔銀(ミスリル)の買い占めは、彼が当主になるよりもずっと前から行われていたことのようであった。

 これが本当ならば、買い占められた魔銀(ミスリル)は、容易に隠せる量ではない。

 暗黒街ドレッダから更に別の領地へ運び出されていたとすれば、その痕跡を完璧に誤魔化すことは不可能なはずだったが、それらしい話もまるで得ることができなかった。


 恐らく何か、カラクリがある。

 幾つも不審な点がある場合は、それらは高確率で線で繋がれているものなのだということを、ランベールは知っていた。


 パーシリス伯爵領の闇は、暗黒街ドレッダだけではない。

 この領地を平和へと導き、『笛吹き悪魔』の隠した大量の魔銀(ミスリル)の行き先を暴くためには、この地の闇の全てを晴らす必要があると、ランベールはそう考えていた。


「しかし……憶測が充実するばかりだな。これならもう一度、パーシリス伯爵を問いただした方がいいかもしれん……」


 ランベールが独り言を漏らしながら歩いていると、離れたところでパーシリス伯爵の私兵達が、顔を真っ青にして走り回っているのが目に見えた。

 酷く既視感のある光景であった。


「今回ばかりは冗談では済まないぞ! なぜ外へ出したのだ!」


「こればかりは、伯爵様が悪いのだ! シャルル様をなるべく自由にさせてあげたいなど!」


 ランベールは彼らの声を聞いていて、頭の痛くなる思いであった。

 シャルルはまた伯爵邸を逃げ出したらしい。

 トロイニアの説教も、ランベールの言葉も、あまり響いていなかったようであった。


 ランベールに気が付いた私兵達が、彼の許へと駆けて来た。


「こ、これはこれは、ランベールさん! 先日はシャルル様を助け、伯爵邸へと連れ戻していただき、ありがとうございました!」


 私兵はそこまで言うとバツの悪そうな表情を浮かべる。


「……その、言い辛いのですが、シャルル様を見掛けたりはしていないでしょうか?」


「残念ながら、見ていない」


「そ、そうですよね、ははは……。ランベールさんにすっかりと懐かれていたようでしたので、もしかして……と思ったのですが」


 私兵の男は、疲れ切った顔で苦笑した。

 ランベールは兜を押さえた。


「馬が一頭いなくなっていたという話だ。やはり、既にこの都市を抜けてしまったのではないのか……?」


 別の私兵が、ぽつりと恐ろしいことを口にした。


「……まさか、シャルルは暗黒街へ向かったとでも言うのか?」


 ランベールの問い掛けを受けて、私兵が黙りこくった。

 ランベールも、わざわざ問うまでもなく答えは分かり切っていた。

 シャルルは自分が暗黒街へ向かうことに執着していた。

 そんな彼女と共に馬が消えたのであれば、真っ先に暗黒街へ向かったと考えるべきだった。


「あれほど忠告したというのに、あの娘め……!」


 ランベールは彼らへ背を向けて走り出した。


「あっ! ランベールさん、どちらへ……?」


 ランベールは足を止め、彼らへ僅かに振り返った。


「……どの道、早かれ遅かれ暗黒街には行く必要があった。この地にもう少し確認しておきたいことがあったが、仕方あるまい。だが、パーシリス伯爵にも、もう一つ恩も売っておきたいと考えていたところだ」


 ランベールはそう口にすると再び前を向き、走りを再開した。

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