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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第五章 暗黒街ドレッダの魔女
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第七話 パーシリス伯爵領への来訪⑥

 パーシリス伯爵は私兵に立たせられてから、ようやくランベールへと目を向けた。


「して……こちらの鎧の方は?」


「……シャルル様を連れていた男だそうです。不審なところもありますので……伯爵様とシャルル様は館へお戻りください」


 トロイニアがパーシリス伯爵へと言う。


「おお、シャルルを保護してくださっていたのですな! いや、私の娘が御迷惑をお掛け致しました。どうお礼をしたものやら……」


 パーシリス伯爵はトロイニアの横を抜けて不用心にランベールに接近し、ぺこぺこと頭を下げる。

 トロイニアがムッと表情を歪めた。


「伯爵様、貴方はいつも無警戒すぎる。こやつが暗黒街ドレッダからの刺客でないという保証も……」


「はっは、トロイニアよ、暗黒街の無法者共も、わざわざこんな無能な老いぼれに刺客を送る程暇ではなかろうよ。悪い奴ほど忙しいものだ」


 パーシリス伯爵は暢気に笑い、トロイニアへとそう返した。

 トロイニアの顔が強張る。

 ランベールもパーシリス伯爵の気質については既に把握しているつもりであったが、実際目前にすれば話以上のお気楽者であるようだった。


「それに、後ろ暗いところのある者が、こんな怪しい恰好をできるものか」


 パーシリス伯爵は軽く笑った後に、ハッとしたようにランベールを振り返ってペコペコと頭を下げ、バツが悪そうに自身の口髭を触っていた。


「とと……娘の恩人に、失礼なことを言ってしまい申し訳ない。その……場がピリピリしていたもので、少し和らげようと思いましてな……」


「……いや、気にしてはいない」


 ランベールの言葉を聞き、パーシリス伯爵が照れ笑いを浮かべる。


「ダメよパパ……ランベール、ちょっと不機嫌そうな声になってる。もうちょっとしっかり謝っといた方がいいんじゃないの?」


 シャルルがぼそぼそと耳打ちすると、パーシリス伯爵はびくりと肩を震わせ、大きく頭を下げようとした。

 私兵達がそれを慌てて止める。


「伯爵様は、ただでさえ威厳がないのですからそう簡単に頭を下げるのを止めてください! なんなら私達が代わりにいくらでも頭を下げますので!」


「し、しかし……」


「……大丈夫だ、気にしていない」


 ランベールはパーシリス伯爵の様子を確認し、この調子であると彼からもあまり有益な情報は得られないかもしれないと考えていた。


「ささ、立ち話も何ですので、館の中へお入りください」


「なりませんよ伯爵様。さすがにそれは許容できませんな。戯れは程々になさってください」


 パーシリス伯爵がぺこぺこ頭を下げながらそう口にしたとき、トロイニアが低い声で、不機嫌そうにそう漏らした。


「お前の気持ちもわかるが、今はそう身構える必要もあるまいて」


 パーシリス伯爵はそう言って下手なウィンクをする。

 トロイニアは目を細めて主を睨み返していた。


「ささ、鎧の御仁よ。ついて来てくだされ」


「……いや、結構だ。今招待していただいても、こちらとて居心地が悪い。ただお礼をしてくださるというならば、この場で少しばかりこの領地の話を聞かせていただきたい」


「そ、そうですか……私に答えられるものなら、何でも答えさせていただきますが……」


 パーシリス伯爵が頭を掻きながら応じる。

 ランベールはトロイニアの様子を観察する。

 依然不機嫌そうな顔は浮かべていたものの、ランベールからの提案には口を挟む気はないようであった。

 下手に話を伸ばせば、自身の主がどのようなことを言い出すのか不安なのかもしれない。


 トロイニアはトロイニアでやや極端ではあるのだが、パーシリス伯爵親子の軽さを思えば、トロイニアの厳しい言動はその反動であるのかもしれない。

 そう考えれば、彼の態度の悪さも一概に責められたものではない。

 トロイニアは、パーシリス伯爵の軽さを知っているからこそ、ランベールとは極力会わせたくなかったのだろう。


 ランベールとしても、パーシリス伯爵の人柄は一個人としては好感を持てるが、貴族としては相応しくないと考えていた。


「パーシリス伯爵、貴方はこの地で魔銀(ミスリル)を集めている何者かがいることはご存知か?」


 パーシリス伯爵はそれを聞いて目を瞬かせ、自身の口髭へと手を移した。


「……それは、把握しております。もしかしたら……あまりよくないものが絡んでいるのではないか、ということも」


 やや答え辛そうにパーシリス伯爵は口にした。

 この調子だと気づいてさえいないのではないかとランベールは怪しんでいたのだが、さすがのパーシリス伯爵もそのことは掴んでいるようであった。


「教えていただきたい。この王都の近くで、強力な武器になり得る魔銀(ミスリル)を買い漁っているのが、何者なのか」


 魔銀(ミスリル)を買い占められれば、相手の戦力となるばかりか、レギオス王国内での魔銀(ミスリル)の価値が上昇し、武器や防具を整えるための費用が跳ね上がってしまう。

 間違いなく『笛吹き悪魔』が絡んでいると見るべきだった。


「……実は、ここ数年の話ではないのです。先代……私の父が当主であった頃、既に奇妙な魔銀(ミスリル)の動きがあったのです。その頃はまだ、微かだったそうですが、傾向と言いますか……」


「……なんだと?」


「どうにも父の調べによりますと……商いの界隈の中でも素行が悪いと評判の商人達が、この領地を中心に魔銀(ミスリル)を買い集め、暗黒街に住まう者達に売っているようなのです。彼らは彼らで、暗黒街を拠点とする錬金術師達の遣いとなって魔銀(ミスリル)を買い集めているようですが……それでも腑に落ちないところがありまして。というのも、錬金術師達がこぞって魔銀(ミスリル)を集めるのが不可解であることと……その集められた膨大な魔銀(ミスリル)がどこへ向かったのか、結局わからず仕舞いで……」


 思ったよりも、魔銀(ミスリル)回収は年月をかけて行われていたようであった。

 もっと早急に、大々的な対策を打つべき案件だったのだ。


「……調査を、なぜそのまま打ち切った?」


「暗黒街の調査に当たっていた父の私兵が、皆殺しにあったのです。……私の父が暗殺されたのも、その直後のことでしたかな」


 パーシリス伯爵が悲し気に口にする。

 そこまで聞いて、ランベールは察した。

 トロイニア曰く、パーシリス伯爵の二人の兄も殺されたという話だったが、恐らく三男であり、さして優秀でなかったパーシリス伯爵だけが見逃されていたのだ。


「……その件について、王家への報告はしているのか?」


「え、ええ……。ただ、代替わりを多く挟んでいるもので、少しばかり有耶無耶になっているところはありますが……」


「な、なんという……」


「最近は魔銀(ミスリル)の買い集めが特に活発化してきておりまして、近辺領地の商人達も皆気が付いているようですね……。対策は色々と試みてはいるのですが、大した結果は出ておらず……いえ、お恥ずかしい話です」


「伯爵様よ、あまり外の者に無暗に話す話ではないように思うが?」


 トロイニアがパーシリス伯爵へと言う。

 パーシリス伯爵の父の代から仕えていたらしいトロイニアの方が、パーシリス伯爵よりもこの件に関しては詳しそうに思えたのだが、トロイニアから協力的な態度を引き出せそうにはなかった。

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