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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第五章 暗黒街ドレッダの魔女
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第五話 パーシリス伯爵領への来訪④

 ランベールはしばらくシャルルの後について歩いていた。

 二十分ほどそうしていたところで、遠くに領主の私兵らしき集団が慌ただしく駆けているのが目に付いた。


「脱走は今月で何度目だ!」


「また暗黒街まで行くつもりかもしれぬぞ! 早く見つけて連れ戻さねば……!」


 兵達は皆、必死の形相で誰かを捜しているようであった。


「……事件か?」


 ランベールは訝しんで兵を眺めていた。

 傍らのシャルルは、彼らを見て面倒臭そうに首を竦め「あー……こっちの方まで来てたんだ……」と呟いた。


「それはどういうことだ……?」


 シャルルがランベールの質問へと答える前に、兵達がシャルルとランベールへ気が付いた。

 彼らはランベール達を見ると顔を真っ青にし、集団で駆けつけ、あっという間にランベールとシャルルを囲んだ。

 兵達は各々に武器を構え、ランベールへとその先端を向ける。


「貴様、何者だ!」


 先頭に立つ兵が声を上げる。


「……随分と剣呑な様子だが、俺は怪しい者ではない。ただの旅の剣士だ」


 ランベールは大剣を手に取り、地面へと置いた。


「シャルル様を誘拐しようとしておいて、よくそんなシラが切れたものだな!」


 ランベールは説明を求め、シャルルへと目を向けた。

 シャルルはバツが悪そうにランベールへとぺろりと舌を出し、前へと出た。

 そうしてランベールの腕の鎧を抱き、兵達へと顔を向ける。


「いいの? この人、アタシの命の恩人なんだけど! 市場を歩いていた暴漢に絡まれていたところを助けてくれたのよ!」


「なっ、なんだと!」


 先頭の兵が、シャルルの言葉を聞いて困惑を露にする。


「……暴漢に、絡まれていた……ふむ」


 ランベールはシャルルの言葉を聞き、先程の光景を思い返していた。

 むしろ暴漢二人の方が、シャルルに絡まれていると形容した方が正しそうな状態ではあったが、余計なことは口にせず、ここは黙っておくことにした。


「ハイネさんがアタシの命の恩人に突っかかったーって、パパには説明しておくから」


「う、うぐ……。も、申し訳ございません、どうやら失礼な勘違いをしてしまっていたようで……」


 先頭に立っていた兵はシャルルを横目に確認した後、ランベールへとぺこぺこと頭を下げた。

 シャルルは胸を張り、得意気にランベールの顔を見て笑った。


「随分と兵達が必死にお前を捜していたようだが、何をやらかしたのだ?」


「パパがお前は余計なことをするから家から出るなって煩いから、ちょっと家出してやったのよ」


 シャルルが頬を不機嫌そうに膨らませる。

 ランベールは目前の兵達へと目をやった。

 ランベールの機嫌を恐々と窺う兵達の顔には、疲労の色が見えた。


「……随分と、苦労させられているようだな」


「い、いえ、まあ、それほどでも……ハハハ……」


 ランベールの言葉に兵達が愛想笑いを返す。


「ちょっとアンタ、それってどういう意味よ」


 シャルルが口をへの字に歪める。

 それから兵達に半ばシャルルが連行される形で、ランベールもそこに並んで都市を歩いていた。


「大丈夫よ! ちゃんと帰るって言ってるじゃない! ランベールだってパパに会わせてあげるって約束してるんだから!」


「命の恩人だと自覚しているのなら、呼び捨てにしないでください!」


 シャルルは兵達にがっちりと囲まれており、それが気に入らないのか彼女は不機嫌そうにしていた。


「……申し訳ございません、シャルル様はその……少々我儘なところがありまして」


 ハイネと呼ばれていた中年の兵が、ランベールの横へと並んでいた。


「実は俺は、シャルルの素性をまだ聞かされていない。彼女は隠したがっているようだが、先に聞いておいても構わないか?」


 ハイネはランベールの言葉を聞き、少し驚いたように口を開けた。

 知らなかったことが意外なようであった。


「シャルル様は……この地の領主である、パーシリス伯爵様の娘ですよ」


「む……そ、そうであったのか」


 ランベールが僅かにたじろいだ。

 先程シャルルに向かい、散々パーシリス伯爵についての不満を口にしたばかりであった。

 反応が芳しくなかったのも当然である。

 どうやらパパとは、パーシリス伯爵のことだったらしい。


「あー! ハイネ、今教えたでしょ! 館について、気が付いてびっくりしてるランベールが見たかったのに!」


 シャルルが兵の肩を押し退け、ハイネへと文句を言う。

 だが、すぐに別の兵に宥められていた。


「しかし、パーシリス伯爵には、子供がいないと聞いていたのだが……」


 ランベールは声量を押さえ、シャルルに聞こえないようにハイネへと尋ねた。


「……シャルル様は、養子なのですよ。八年程前……パーシリス伯爵様が孤児院へ視察に出向いたとき、虐待の疑いがありまして……。伯爵様が孤児院へ資金を出して改善を行ったのですが、その際に心の傷が深かったシャルル様を、伯爵様は自身の養子に迎えることにしたのです」


 ハイネが嬉しそうに語る。

 ランベールはちらりとシャルルへ目を向けた。

 シャルルは兵達と言い争っていたが、ランベールと目が合うと、へらへらと笑って手を振っていた。

 ランベールはすぐ前を向き直る。

 シャルルはムッと顔を顰め、頬を膨らませていた。


「美談だが……養子で女では、家督は継げぬのではないのか。なぜパーシリス伯爵には子供がおらんのだ。既に四十代だと聞いていたが……」


 質問の間、ランベールはじっとハイネを睨んでいた。

 実際、部下達やシャルルはパーシリス伯爵を慕っている様に見えるので、彼らの言う通り、優しい人物ではあるのだろう。

 しかし、ランベールは、どうにも貴族としての役目を果たそうとしている様に見えない、というよりは自身の立場への自覚に欠けていそうなパーシリス伯爵に対して、苛立ちを覚えていた。


「は、伯爵様の考えは、俺には何とも……。ただ、普段の言葉を聞くに、結婚する意志はないのかもしれませんね……」


 ハイネが身じろぎながら答える。


「まあ、そうだな。別の者に尋ねても仕方がないか。どの道、今から本人へ顔を合わせることができるのだから」


 ランベールはそう言い、一人で頷いた。


「あ、あまり、問い詰める様なことはしないでくださいね……? その、気の弱い御方なので……」

【他作品情報】

 『暴食妃の剣』第一巻の発売日が確定いたしました!

 表紙、挿絵の一部を活動報告にて公開しております!(2019/4/12)

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