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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第五章 暗黒街ドレッダの魔女
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第二話 パーシリス伯爵領への来訪①

 聖都ハインスティアを出たランベールは、頭部のない黒馬ナイトメアに跨り、レギオス王国の地を駆けて王都を目指していた。

 既にレギオス王国の地理に関しては、これまでの情報収集で整理している。

 道中に寄れる都市があればその地でも情報収集を行い、どこかに『笛吹き悪魔』の影がないかを探った。

 

 これまで『笛吹き悪魔』は手際よく、レギオス王国の戦力となり得る都市へと攻撃を行っていた。

 冒険者の都バライラに、異端審問会の本拠地であった聖都ハインスティア。

 また、ランベールが調べた限り、彼が居合わせることができなかった別の地でも、奇妙な魔術師集団に貴族の兵団や名高い冒険者ギルドが壊滅させられたり、貴族や豪商の一家が私兵諸共に惨殺される事件が続いているようだった。


 今、レギオス王国内に『笛吹き悪魔』へと対抗し得る勢力はほとんど残っていないのだ。

 『笛吹き悪魔』の狙いが国家転覆だというのならば、近い内に本格的に勝負を掛けて来ることが想像できた。

 そのためランベールは目的地を王都に定めていた。


 アンデッドである今のランベールに休息は不要である。

 夜通しナイトメアに跨って大地を駆け、都市につけば市場や酒場を巡り、とにかく効率的に情報収集を行った。


 ……ただ、ランベールの外見と世間知らずさ、愚直さは、時折揉め事へと発展することもあった。

 ランベールはある都市の小さな酒場へと訪れた際に、店の客へと順に声を掛け、各領地や貴族に不審な噂はないか、奇妙な魔術師の話を聞かないか、その他何か目立った情報はないかを聞いて回る。


 ……無論邪魔には思われていたが、ランベールの体格と大剣を見れば委縮する者が大半であり、敢えて逆らおうとする者はほとんどいなかった。


「……そうか、特に気に掛かる話はなかったが、協力に感謝する」


 ランベールが一人の客と話し終わった、そのときだった。


「おいテメェ、領主の衛兵か、王家の兵団か?」


 やや顔に赤色の差した、黒髪の中年の男がランベールへと声を掛けて来た。

 男の口調は荒々しく、目には敵意があった。


 彼もランベールには劣るものの体格はよく、大きな斧を背負っていた。

 身なりは整っていなかったため、恐らく冒険者だろうとランベールは見当を付けた。

 

「ふむ……その二択ならば、王家の兵といったところか」


 ランベールは僅かに思案し、そう答えた。


「馬鹿言うんじゃねえ。そんな馬鹿みたいな重鎧の兵団なんざ、見たことがねえ」


 男が一歩ランベールへと詰め寄る。


「お、おい、ペイジ、止めておけよ。そいつ、ちょっと普通じゃねえぞ」


 ランベールへと絡んできた男の知人らしき人物が、彼の背へと手を掛ける。

 どうやら男の名はペイジというようであった。


「馬鹿野郎、こんな奴に偉そうにされてちゃ堪ったもんじゃねえ。なんだ? 酒も飲まずに辛気臭い調子で尋問始めやがって。俺ははい、何でも答えさせていただきます、なんてぺこぺこ頭下げて答えるような無様な真似をするつもりはねえよ」


 ペイジは知人の手を払う。


「お、お前、酔ってるからわからねえんだよ。な? 悪いこと言わないから、下がっておけ」


「うぜぇよ、オイ」


 ペイジはなお言葉を重ねる知人をあしらい、ランベールを睨みつける。


「無粋であったことは謝罪する。だが、こちらもあまり、手段を選んでいる余裕はないのでな」


「せめて酒の一杯でも飲んだらどうだ? おい?」


「……悪いが、今はそういうものは飲めない身でな」


「固いこと言うなよ、奢ってやるよ、オラ」


 ペイジは酒の入ったグラスを手にしたかと思うと、下品な笑みを浮かべ、ランベール目掛けて勢いよく突き出そうとした。

 ペイジは飲みかけの酒をランベールの兜へと被せるつもりであった。

 ペイジの知人の顔が真っ青になる。


 当然、ペイジのグラスから酒が飛び散る前に、ランベールが動いていた。


 鎧籠手の掌底がペイジの手の甲を叩き落とし、そのまま胸部を『ランベールの感覚』で軽く弾いた。

 ペイジは悲鳴を上げながら宙を舞い、壁へと肩を打ち付け、空いた椅子を幾つも倒しながら派手に地面へと落下した。

 落ちたグラスが割れ、ペイジの運動量で巻き込まれた椅子が破損した。

 衝撃で飾られていたボトルが何本が落下した。


 床にたたきつけられたペイジが、弾かれた胸部を押さえて苦し気にもがく。


「すまない、咄嗟だったもので力が入り過ぎた。店主よ……申し訳ないが、今は持ち合わせがないのだ」


 ランベールは壊れた椅子を眺めながら、心底申し訳なさそうにそう言った。


「身勝手で重ね重ね申し訳ないが、店の手伝いか何かで間に合わせてくれるとありがたいのだが……」


「けけ、結構です……。い、椅子も古いものでしたので、壊れる手前だったのでしょう」


 店主は勘弁してくださいという顔で必死に首を振る。


「……気を遣わせたようだ。だが、あまり時間のない身なので本当に助かる。いつの日か、今日の埋め合わせはさせていただこう」


「それも結構です……」


 ランベールは店主とのやり取りが終わったのち、ペイジへと歩み寄った。


「昔、毒酒を浴びせられそうになったことがあってな。過剰反応してしまった、俺もまだまだだな。とはいえ、本当に軽く叩いただけのつもりだったのだが……」


 ペイジは素早く身を起き上がらせて、壁へと張り付くように退いた。

 既に真っ赤だった顔は蒼白になっていた。


「な、何でも答えさせていただきます!」


 ペイジは必死に頭を下げながらそう口にした。


「そ、そうか、それはありがたいが……」


 ペイジに対しての質問でも、『笛吹き悪魔』や貴族の動向については、取り立てて新しい情報を得ることはできなかった。

 だが、ランベールががっかりした様子を見せたときに、ペイジは必死にうんうんと悩み、その果てにこう口にした。


「そうだ……! 魔銀(ミスリル)の値段が上がるかもしれないそうです! 知っていましたか! 今からでも買い集めれば儲かるかもしれない、なんて言ってる商人の知り合いがいまして……。ほら、剣士さんも、買い集めれば今からでも儲かるかもしれませんよ……?」


魔銀(ミスリル)の、高騰……?」


 ランベールの声が険しくなったのを聞き、ペイジは身震いした。


「おい、何故そうなった」


「お、俺のせいじゃありません! 本当に!」


 追及する様なランベールの言い方に、ペイジは必死に首を振る。


「それはわかっている」


「え、えっと……あまり詳しくないはないんですが、買い漁ってからパーシリス伯爵領の方へ持っていく商人が多いそうです。何か……錬金術の研究でもしている人がいるのかもしれませんね」


 ペイジがぺこぺこと頭を下げながら言う。


「価格変動が起きるほどの、大量の魔銀(ミスリル)だと……?」


 魔銀(ミスリル)は武器の生成や、錬金術に用いられることが多い。

 大量消費となると、あまりいい想像はできなかった。


「パーシリス伯爵領の位置は……王都の、すぐ手前だな。妙なところで、魔銀(ミスリル)を集めている」


 ランベールは拳を握る。

 王都の近辺で、魔銀(ミスリル)を集める何者かがいる。

 この事実に、ランベールは胡散臭いものを感じていた。


「ペイジとやらよ、情報感謝する」


「どど、どうも……。お役に立てたのであれば、光栄です……」


 ランベールは最初の調子が嘘だったように卑屈になっていたペイジを後に店を出た。


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