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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第一章 蘇った英雄
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第十八話 地下迷宮の主④

 ランベール達がアインザス地下迷宮に入った後、入口の周辺に集まり出した集団があった。

 五十人に及ぶ男女は皆一律に白い服に身を包み、目立つ赤いマントを垂らしていた。

 都市アインザスにおける最大手ギルド『魔金の竜』である。

 先頭には、大柄の独眼の男が立っており、その横には身体中の節々に包帯を巻きつけたクレイドルの姿があった。


 迷宮に入る冒険者の管理をしていた役人の一人が、ぺこぺこと頭を下げながら独眼の男へと近づいていく。


「これはこれは! 『魔金の竜』のギルドマスター、タイタン様!」


 役人はそう声を掛けてから周囲の目を窺い、やや声を潜めて続ける。


「……ギルド『精霊の黄昏』の四人組が先ほど、アインザス地下迷宮へと入っていきました」


「ふむ、ぴったりだな。奴らが動くのが、ちょうど我ら『魔金の竜』の地下迷宮攻略と被って幸いであった」


 『魔金の竜』のギルドマスターであるタイタンは、役人の言葉を聞いて厳つい顔面の口許を歪に歪ませ、白々しい調子でそう言った。


「やだなぁ。どうせまた、タイタン様が弱小商会に脅しを掛けて、奴らに仕事を発注させたんでしょ?」


 クレイドルがにやにやと笑いながら尋ねる。

 その問いを受けたタイタンは、クレイドル同様の品のない笑みを浮かべた。


「あそこの馬鹿マスター、大喜びで提携に飛びつきおったそうだ。馬鹿な上を持った下は苦労するなぁ。お前達はその点、恵まれたわけだ。このオレ様の下で働けるのだからな!」


 『魔金の竜』のメンバーは、タイタンの言葉を受けて一斉にどっと笑った。


 オーボック伯爵を後ろ盾に持つ『魔金の竜』は、冒険者ギルドだけではなく、商会に対しても大きな影響力を持っていた。

 商会に脅しを掛けて他ギルドの動きをコントロールすることなどお手のものである。

 適当なギルドを利用して自分達が得をするように仕向けることも可能であるし、気に食わないギルドへ仕事を出さないようにしたり、逆に危険な仕事を押し付けて断らせ、信用を削ぐことだってできる。

 それこそが『魔金の竜』の最大の強みであり、この都市で『魔金の竜』に目を付けられたギルドがまともに活動を続けられない理由である。


「迷宮の中ならば、何が起こっても事故だからな。ガッハッハ! とはいえ、目撃者が出ても事だ。出くわした奴らは、他のギルドでも殺しておけ。なぁーに、変わった魔物でもうろついていたことにすればいい」


「しっかし、伯爵様もどうして、あんな弱小ギルドを壊滅させておけ、だなんて言い出したんでしょうねぇ」


「詮索せん方がよかろう。このタイタン様も伯爵様には逆らえんからな」


 タイタンはガハハと笑い、ややおどけたように言う。

 クレイドルもそれに追従して笑った。


「そう言えばクレイドル、お前が熱を入れていた例の小娘はいいのか? 結局、『精霊の黄昏』から出てはおらんようだが……」


「その話はもういいじゃないですか、ねぇ。どうせぶっ潰すのなら先にちょっとつまみ食いしてやろうと思ってましたけど、ここまで僕に靡かない馬鹿女だとはね! この僕が目を掛けてやったのに!」


 クレイドルは眉間に皺を寄せ、鞘ごと剣を振るって役人の真横の地面へと打ち付けた。

 びゅんと風を斬る低い音が響き、鞘が地面にめり込んで土を飛ばした。


「ひ、ひぃっ!」


 役人は驚きのあまり、その場にすっ転んで尻もちを突いた。

 それから慌てて自らの耳に手を触れ、無事に耳が付いていることを知ってようやく安堵した。

 轟風に耳を削ぎ落とされたかのような思いだったのだ。


「な、な! 何をなさるのですか!」


 クレイドルは役人の言葉には耳を貸さず、ゆっくりと剣を剣帯へと戻しながらタイタンへと向き直る。


「あの女は、いの一番にぶっ殺してやりましょう。あ、僕にやらせてくださいね?」


 目に憎悪を浮かべ、ぺろりと長い赤紫の舌を口の周りに這わせる。


「はっは! お前のその、割り切りの良さは嫌いではないぞ!」


 タイタンはひとしきり笑うと『魔金の竜』のメンバーを率い、すっ転んだままの役人を尻目に地下迷宮へと降りようとした。

 役人が慌ててタイタンへと手を伸ばし、引き留めようとする。


「ちょ、ちょっと待ってくださいタイタン様! あの、一応……手続きを……」


 タイタンがぎろりと役人を振り返った。


「お前如きがオレ様達の手を煩わせるのか?」


「もも、申し訳ございません! タイタン様!」


 役人は地面に伏したままぺこぺこと頭を下げ、そそくさとタイタンから距離を取った。


「フン。馬鹿が、それくらいどうとでもしておかんか。オレ様を誰だと思っている? もう少し若い頃だったら、このまま殴り殺していたぞ?」


「ハハハ……タイタン様はおっかないなぁ。そうそう、タイタン様、さっきも言いましたけど、あの鎧の奴だけは本当に要注意ですよ。油断していたとはいえ、僕が、こんなに手酷くやられたんですから!」


「そっちもお前に任せんでいいのか?」


 タイタンが意地の悪い笑みを浮かべて言うと、クレイドルは引き攣った愛想笑いで返した。


「ぼ、僕一人では、少し不安が……。とどめだけもらえたりしませんかね? 奴だけは、甚振ってたっぷりと後悔させてやらなきゃあ気が済まないんで……」


「駄目だ。鎧男はオレ様が殺す。久し振りに、このオレ様とまともに遊べそうな奴が出てきたのだ。お前達は、出口の見張りと迷宮攻略に専念していることだな」


「で、でも! あいつ! この僕を馬鹿にしやがって……!」


「だから、オレ様が仇を討ってやると言っているのだが? なんだ? 不満かクレイドル?」


 クレイドルはタイタンに睨まれると、口を閉ざして黙り込んだ。


「返事はどうしたクレイドル?」


「は、はい……お願いします、タイタン様」


「ガッハッハッ! それでいいわ。このオレ様に刃向かおうなど、考えるなよ?」


 タイタンに言われ、クレイドルはぺこぺこと頭を下げる。

 クレイドルは内心面白くなかったが、タイタンに逆らうわけにはいかない。

 そんなことをすればどんな目に遭うかわかったものではないからだ。


「……おい、ゴルバ、ドルミラ。そろそろアレを出せ」


 タイタンが呼べば、やや太った二人の男がタイタンの横へと移動し、各々に手にしていた青く光る大きなグローブを、恐る恐るとタイタンへと装着させた。

 クレイドルが目を見張る。


「タイタン様……まさか、それは……」


「ああ、魔金オルガンをふんだんに使った、合金で造られた、オレ様特注のグローブだ。『魔金の竜の鉤爪』……お前らじゃあ、これを手につけてまともに振るうこともできんだろう」


 にやりとタイタンが口元を歪めながら、装着したグローブを横に振るって壁へと殴りつける。

 ギィンと金属音が鳴り響き、周囲に居合わせた者達は、辺りが揺れたかのような錯覚さえ感じた。


「そ、そ、そこまでしなくてもいいのでは……」


「クレイドル……お前がオレ様に、ここまでさせたんだ。大した奴じゃなかったら……わかってるだろうなぁ?」


「う、うう、ううう……」


 顔を青くするクレイドルを鼻で笑い、タイタンは迷宮奥への足を速める。

 それに続いて他の『魔金の竜』のメンバー達も通路を進んだため、クレイドルは慌ててタイタンの横へと駆けて行った。

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