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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第五章 暗黒街ドレッダの魔女
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第一話 暗黒街の王

 黒魔鋼(ダルライト)の黒鎧を纏う大柄の男が、薄暗い通路を歩いていた。

 彼は『笛吹き悪魔』の幹部である八賢者の一人、『血霧の騎士』である。


 彼は聖都ハインスティアの襲撃においては、ランベールとの斬り合いで片腕を奪われ、ヨハンの決死の行動によって慰霊塔『眠りの塔』の瓦礫の下敷きとなった、はずであった。

 だが、今はもう拉げたはずの身体も、失われたはずの片腕も元通りとなっていた。


 聖都ハインスティアの戦いが終わってから数日が経過していた。

 『血霧の騎士』は現在、王都の近辺にあるパーシリス伯爵領の一部である、暗黒街ドレッダを訪れていた。


 暗黒街ドレッダは遡ること百年前、近隣の山に住まう山賊達が集まって作ったならず者の街であった。

 領有する貴族家の不手際が続いたこともあり、時が経つにつれて他に居場所のない盗賊や禁忌魔術師が集まり、今では暗黒街と称される、レギオス王国内の都市の中で最も治安の悪い地となっている。


 暗黒街ドレッダには領地の衛兵さえ捜査のために入り込むことをしない。

 だが、それも最早仕方のないことである。

 かつてある禁忌魔術師の捜索のために王家の兵団の一部が出向いた際には、その全員が行方不明になった。


 そのため暗黒街は王国法が通用しない、無法地帯となっている。

 人が死のうが、物が盗まれようが、この街ではそんなことは些事でしかないのだ。

 住人達は自衛のために互いに暗黙の了解を守り、時にはそれを破って生きている。

 少しこの街の深部まで向かえば、王国法で禁じられた奴隷や麻薬、禁忌魔術も、そう珍しいものではない。


 この暗黒街ドレッダの中にはいくつもの派閥がある。

 その中で大きな派閥の全てに顔が利く、最も影響力を持つ『首無し魔女ドマ』と恐れられる人物が暗黒街のどこかにいるのだと、まことしやかに囁かれていた。


 『血霧の騎士』は長い通路を抜け、大きく開けた場所へと出ていた。

 ずらりと品のいい椅子が並んでいる。

 観客席の下へ目を向ければ、金属製の大きな試合場が見える。

 大きな闘技場の観客席であった。


 試合場は元は別の色だったのだろうが、一面に血が染み込み、今では赤黒い、おどろおどろしい色へと変わっていた。

 観客席と試合場の間を隔てる高い壁には、人骨や木乃伊が埋め込まれていた。


 現在、試合場には誰も立っておらず、観衆もいない。

 ただ、一番高い位置にある特等席に奇妙な風貌の幼い少女が座っており、その両隣に一人ずつ首のない従者が立っていた。


 少女は袖の長い暗色のドレスに身を包んでおり、顔は一つ目の模様の書かれた大きな紙で隠していた。

 『血霧の騎士』は、二人の従者へと目を向ける。

 どちらも整った礼服に身を包んだ女性であり、血色もいい。

 だが、明らかに生者ではない。二人共、既に自我のない人形のような状態であることが窺えた。


「……相変わらず、趣味のいいことだな。暗黒街の王……『首無し魔女ドマ』よ」


「聖都では、散々だったようですわね。エウテルベ部族の小娘はともかく、あれほどしぶとくあられた『蟲壺』まで失うだなんて……よほどの悪手を打ったのではなくて?」


 紙の奥で、ドマが肩を僅かに揺らして上品に笑う。


「大丈夫なのかしら? 彼やマンジーの小僧が握っていた『ガイロフの書』は、王都を落とす要の一つだったのではなくて?」


「問題はあるまい。彼らは死んだが……我らへの対抗勢力の壊滅に大きく貢献してくれた。この国に残るのは、既に話の通っている貴族に、平和主義者気取りの日和見者ばかりだ。後は最後の準備を整え、王都での決戦を控えるのみだ。ここまで長かった……あまりに長かったが、ついに、我が王の悲願が果たされるのだ」


「ああ、そうかしら。悪いけれどドマには、貴方達のやることなすことに関心がありませんの。研究への出資はありがたいけれど、権力争いは勝手にやって頂戴。何度も言うけれど、八賢者だとかにも入る気はないわ」


「……ああ、それは理解している。生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)さえ量産してくれるのならば、それ以上は言う気はない。言う気はない、のだが……」


 黒鎧の兜を傾かせて周囲を見回す。


「しばらく来ない内に、随分と楽しんでいるらしいな。ここはお前の研究所だったはずだ。まさか、部外者を招いて見世物をやっているわけではあるまいな。この都市は、ただでさえ隠れ住んでいる『笛吹き悪魔』の魔術師が多い。そのことがわかっているのか?」


「これも研究の一環なのですよ。このドマの偉大な研究成果は、多くの人の目に触れて然るべきなの。ドマは、ドマのやりたいようにやらせていただきます。だから貴方達にも所属したつもりはないし、指図も受けつけない。そういう話であったはずよ」


「だが、あまり目立つことをやってくれるなと、何度も言ったはずだ。この地に拠点を置いている以上……ただの協力者を気取っていられる位置ではないのは、お前自身がよく理解しているはずだ」


 彼は警告の意味を込め、自身の大剣へと目を向けた。

 勝手な行動を続けるならばこの場で斬ることも厭わないという警告だった。


 ドマは首のない従者よりコップを受け取り、紅茶を飲んだ。

 そうして一息挟んでから『血霧の騎士』へと顔を戻す。


「フフフ……貴方ならこのドマを斬れるでしょうけれど……そのときは、酷く後悔することになるでしょうね。ドマの生身を纏う人造巨人(フレッシュ・ゴーレム)を、王都攻略の鍵にしているのでしょう? 全てを台無しにしたくないのならば、余計な真似はしない方がよろしくてよ」


「…………」


「そうドマのことを心配してくださらなくても大丈夫ですよ。客人として招くのは、ドマのお友達くらいなのですから。もっとも、誰かが紛れ込んだとしても、このドマをどうこうできるとは思いませんけれど……そのお気持ちだけありがたく受け取っておいてあげましょう」

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