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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第四章 聖都ハインスティアの祈り
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第二十八話 亜界の薔薇④

「……なぜ、我らハインス教徒の中から『笛吹き悪魔』に与する者が現れたというのだ?」


 ゼベダイ枢機卿が、声に怒気を込めてそう口にした。

 襲撃者の生き残り、ザイルは、それを嘲笑う様に鼻を鳴らす。


「何がおかしい、この異端者めが!」


 ゼベダイ枢機卿の恫喝にも、ザイルはさしたる反応を示さない。


「枢機卿よ……どうやらこやつらは、何らかの魔術に掛けられているようですな。凡夫にしては膂力が妙に強く、マナの流れにも妙なところがあります。地下通路の情報が漏れていたことからも、敵方が洗脳に近い手段を持っていることは予測しておりました」


 ザイルを押さえるシモンが、ゼベダイ枢機卿へと推測を話す。


「なるほど……連中が、手軽な洗脳手法を手にしていることが、これで裏付けられたわけであるな。それは、それは……是非とも、捕らえて吾輩の管理下におきたいところだ。この王国の平和ボケした間抜け共に救済を与えるには、そういった手段しかないかもしれぬと、考えておったところだ」


 ゼベダイ枢機卿が楽し気に笑う。


「何も、見えちゃいない……。だから、お前は、それで死ぬんだ」


 ザイルは潰れた眼球を敢えて見開いてゼベダイ枢機卿を睨み、掠れた声で、精一杯強がる様に口にした。


「どうなさいますか、枢機卿。洗脳ならば、拷問は意味はないかと」


「そうであるな、今は時間も惜しい」


 ゼベダイ枢機卿はそう言うと、低く笑った。


「だから、手短に済ませよ。果実の刑でな。拷問が無意味ならば洗脳の裏付けにもなる上に、この吾輩の気も晴れるという者よ。のう、愚かなるザイルよ」


 ゼベダイ枢機卿は、ザイルへと顔を近づけてそう言った。


「……承知致しましたぞ」


 シモンは応えると部下達に目で合図を送り、ザイルを押さえ付ける役割を交代させる。

 そして別の部下より、一本の魔銀ミスリルのナイフを受け取った。


「おい、ローブを剥げ」


 シモンの命令で、部下達がザイルより強引に身に纏っていたものを引き剥がす。

 シモンはナイフの刃で、ザイルの胸部に横の筋を入れる。


「何を、するつもり……」


 そしてあてがったナイフの刃をすっと下ろし、ザイルの肉を剥いだ。

 ザイルの口から絶叫が漏れる。本人の身体から剝がれた皮を、シモンは淡々と摘んで傍らに置いた。

 シモンはザイルの耳へと口を近づける。


「腹と胸が終われば、次は顔を剥ぐ。頬を、瞼を、唇を、耳を、鼻を、だ。その次は頭皮だ。全身をやる猶予はないので、残念だがそこでお終いだ。本来は敢えて時間を掛けるものなのだが、今回はすぐに終わらせる。それだけは君にとって幸いかもしれない。どうだ、ザイルとやらよ? 何か話してみる気にはならないか?」


「話せば、話せば、すぐに、殺してもらえるのか……?」


 ザイルが弱々しく口にする。


「いや、殺さずともよい。身体も、治療してやろうではないか。目も、もしかしたらまだ間に合うかもしれない。すべてそちが望む様にしようとも」


「お、俺は、俺は……」


 ザイルは迷う素振りを見せた。

 だが、すぐに唇を噛みしめ、見えていないはずの眼でシモンを睨んだ。


「だったら、お前ら全員、今すぐ炎の中に飛び込んで死んじまえ! それが俺の望みだ! この悪魔共が!」


「……迷いが見えたのは、収穫ですな。では、二枚目をいただくとしようかの」


 シモンは淡々と言い、ザイルの首元にナイフを当てて下ろし、皮を剥いでいく。

 響くザイルの獣の様な絶叫が、その拷問の恐ろしさを表していた。


 シモンは慣れた手つきで、予告通りにするすると皮を剥いでいく。

 ザイルの上半身と頭部の皮が剥がされるのに、数分と要さなかった。

 潰れた真っ赤な眼球は露出させられ、歯は剥き出しに晒されていた。

 結局、拷問が終わろうとも、ザイルは有益な情報を一つと漏らすことはなかった。


「相変わらず見事な技量であった、シモン。ハインス教会の中で、これほど素早く、精巧な果実の刑を行える者は他におらぬ。芸術と称するべきであろうよ」


 ゼベダイ枢機卿が手を叩く。


「お役に立てずに申し訳ございませぬ、枢機卿よ。この調子であれば、時間を掛けさえすれば何か聞き出せそうではあったのですが……。連中の洗脳の魔術も、完全に精神を支配できる類のものではないのかもしれませぬな」


「よい、それに、気は晴れたのでな」


「出血は抑えております。このままでも半日は生きるでしょうが、どうなさいましょうか?」


「放っておけばよい」


「では、すぐに出発いたしましょうぞ……と言いたいところですが、また追いつかれたようですな」


 通路の前後のそれぞれより、また先程同様のフードを被った五人組が現れる。


「前方は私一人でやる、後方はお前達に任せよう。枢機卿には一人つけよ。それから……もう、捕虜は必要ないぞ」


 シモンは五人を相手に、それでもなお全く苦戦する素振りを見せない。

 持ち前の『神拳』の高速体術により、徒手であるにもかかわらず武器持ちの相手を打ち倒していく。

 顎や頭、心臓部といった人体の急所に強烈な掌底を放って即死させていく。


 ゼベダイ枢機卿の目には、まるでシモンが敵地の中心に飛び込み、その場で回った様にしか見えなかったほどである。

 ただそれだけの一瞬で、その場には血を吹き出した五つの死体ができあがっていた。

 後方はそれほどスムーズではなかったものの、シモンの部下達は襲撃者を無事に殺し終えた。


「数は多く、何らかの魔術で膂力が強化されていることは間違いありませぬ。しかし……やはり、『笛吹き悪魔』の尖兵としてはあまりにお粗末ですな。こんなものが何人来ようが、私の敵ではありませぬ」


「やはりシモンは心強いわい。この吾輩が、教会最強の男と見込んだだけのことはある」


 ゼベダイ枢機卿とシモンが話をしている間、部下達は死体の顔を一人一人確認していた。


「……やはり、教徒や、この都市で暮らしていた者達が多い」


「これほどの人数を、いつ、どうやって、この警戒の厳しい聖都の内部に侵入させたのか疑問だったが……事前に、ここで暮らさせていたのか?」


 部下達が不安げに言葉を交わしている様子を、シモンはじっと観察していた。


「どうしたか、シモン?」


「……いえ、我々は、我々の信じる道を歩むのみ。それが試練の多き道であったことは、とうに承知のこと。私が正しければ道は開け、誤っていれば閉ざされる。それだけの話よ」


「シモン……? どうしたというのだ?」


「何でもありませぬ、老人の独り言でありますよ、枢機卿。さ、早く先へ向かうとしましょう」

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