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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第四章 聖都ハインスティアの祈り
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第二十話 聖都陥落④

 儀式『喰貌哭殲蜘の餐』により浮かんだ『増魔蟲』が、急激に干からびて木乃伊の様に成り果てる。

 

「……最初に近接戦に応じたのは、このタイミングを狙ってか」


 本来、『蟲壺』はランベール相手に近接戦に出ずとも、既に十分に撒いた『増魔蟲』の残骸を用いて高位の精霊を召喚するという術があった。

 すぐにその手を取らなかったのは、高位精霊の連続召喚によって確実にランベールを仕留められるタイミングを狙ってのことであった。


 高位精霊を召喚するための儀式は大量の『増魔蟲』を必要とする。

 連続で行うには、無作為に撒かれた『増魔蟲』だけでは足りなかったのだ。

 狙った場所までランベールを誘導する必要があった。


 そして『蟲壺』は思惑通り、それもランベールが動作の取り辛い、アバドンの髑髏の頭上にいるところを狙っての連続召喚に成功したのだ。


「我が声に応え、蟲界より来たれ、見えざる悪意アトラク・ナチャよ!」


 『蟲壺』とランベールの間に、巨大な蜘蛛の化け物が浮かび上がる。

 同時に、周囲に浮かび上がっていた『増魔蟲』の亡骸が、何かに絡めとられた様に不自然な形で止まる。

 ランベールは咄嗟にその場を離れようとするも、足に何かが絡みついており、持ち上げることができなかった。


「糸か……」


「ご名答! アトラク・ナチャの、不可視の粘糸だ! 宿主が近くにいる間は、この世界のあらゆる糸を凌ぐ強度を誇る!」


 ランベールはすばやく大剣を足場のアバドンへと突き刺す。

 アバドンは大きく頭を跳ね上げさせ、ランベールへとアトラク・ナチャの巣越しに頭突きを放った。

 もしランベールが大剣で衝撃を受けなければ、魔金オルガン鎧越しとはいえど、無事では済まない一撃だった。


 宙に跳ね上げられたランベールだが、まだ足に違和感を覚えていた。

 身体を翻し、足の下を大剣で払う。

 引き延ばされたアトラク・ナチャの巣が、大剣の刃によって断たれた。

 

 ひとまずは解放された。

 だが、落下すればすぐさま再び粘糸の餌食になることは間違いなかった。

 アバドンは強引に巣から顔を引き剥がしているが、アバドンとランベールではさすがに体格に差があり過ぎる。

 おまけにアバドンはしっかりと地面に足を着けているが、ランベールは巣の上に立たざるを得ないのだ。

 これでは力の入れようがない。


 ランベールは着地と同時に大きくその場で跳んで身体を回し、刃で伸ばされた粘糸を断ち、前に進む。

 これを繰り返し、強引に移動する。

 ランベールのすぐ後ろを、再びアバドンの頭突きが強襲した。

 巣が大きく揺れる。


 ランベールが移動に苦難しているところへと、さっきまで動きを止めていたアトラク・ナチャが近づき始める。

 大蜘蛛の八つの目が赤々とした輝きを放つ。

 『蟲壺』はその背後に控えていた。


「ハハハハハ! 来いよ、オラ。この巣の上で、アバドンとアトラク・ナチャを躱して俺のところまで来れるのならよォ!」


 アトラク・ナチャの伸ばした大きな脚がランベールへと伸びる。

 ランベールは大剣を振るい、アトラク・ナチャの脚を弾く。

 僅かに脚が削れるが、まともな外傷とは思えなかった。


(……体表が、いくらなんでも堅すぎる。高位精霊に正面から攻撃を通すのは不可能だな)


 アトラク・ナチャはランベールを脚で往なすのを諦め、大きな口を蠢かし、顔を彼へと伸ばす。


 開いた口へと、ランベールは大剣を投げ入れた。

 アトラク・ナチャの口内に巨大な刃が突き刺さり、顔を大きく天に向け、苦し気に悶える。


「オ、オオ、オ……」


 アトラク・ナチャの口から体液がだらだらと漏れ出し、ランベールへと降り注ぐ。


「なっ……!」


 『蟲壺』が呆然とアトラク・ナチャを見上げる。


「だが、俺の優位は変わらねぇ! 簡易召喚だから長くは持たねぇが、アトラク・ナチャとアバドンが消えるまでの勝負と行こうじゃねぇか! 大剣なしでどこまでやれるもんか、見てやるよ!」


 ランベールが腕を引く。

 アトラク・ナチャの口の中から、大剣が引き摺り出されてランベールの許へと飛来していく。

 投げる前に、大剣で断ったアトラク・ナチャの糸を柄の尾につけていたのだ。


 ランベールは大剣を振るい糸を断ちながら、痛みに無作為に暴れるアトラク・ナチャの背へと強引に跳び移る。 

 そして『蟲壺』へと、大剣を一直線に投げ付けた。


「なぁっ!」


 『蟲壺』が身体を守るため咄嗟に伸ばした腕先へと、大剣の刃が触れる。

 寸前で身体を逸らすも、今の華奢な童女の肩から先が吹き飛び、血が辺りへと吹き出した。

 『蟲壺』の横を突き抜け、高い建物の壁へと刺さる。


「危ねぇ、今ので死ぬところだっ……」


 大剣を追う様に、ランベールが一直線に『蟲壺』へと飛来していく。

 柄の尾についていた糸を引き、壁に固定された大剣へと自身を引き寄せたのだ。

 突如飛来してきた金属塊に対し、『蟲壺』は身体を大きく倒して回避する。


 だが、ランベールが通り過ぎ様に大きく伸ばした手の指が、童女の心臓部を抉り、身軽な身体を吹き飛ばした。

 肩から上と、その下が分断される。

 身体の部分は壁にぶつかって拉げ、頭部はアトラク・ナチャの巣の上に落ちた。


 アトラク・ナチャとアバドンの姿が消え、巣がなくなったことで頭が地面へと落下していく。

 ランベールは壁に突き刺さった大剣に体重を掛け、壁を削りながら下降して『蟲壺』の頭部を追う。


「この俺が、ここまであっさりと何度も追い詰められるとはな。生み出されてから二百年間、こんなことはなかったぜ」


 童女の生首の口が動く。

 目の光は失われており、既に死人のものであることは間違いなかった。

 後頭部を突き破り、大きな羽が広がる。

 細長いひょろりとした身体が伸ばされ、空気を入れた様に膨張する。

 身体の前に、鎌の様な両腕が振り下ろされる。


 異形の化け物が、地面に降り立つ。


 全体としては、紫色に輝く蟻の様な外見をしていた。

 頭部に半端に残された童女の口が動く。

 裂けた顔の端から覗く虫の眼球が、ランベールを睨んでいた。


「ヒュード部族の奴らが滅ぶ前に、見当違いな怨念と、八つ当たり気味の執念、無意味な妄執によって錬成された寄生蟲、それが俺だ。存在そのものが、ヒュード部族の呪術の集大成というわけだ。ビビったか? とっとと来いよ。逃げるのも手だが……あまり長時間、生身で移動はできねぇもんでな。決着をつけようか」

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