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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第四章 聖都ハインスティアの祈り
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第十三話 聖都襲撃⑦

 儀式『餓壊暴蟲の餐』によって召喚された、蟲界の精霊、飢える破壊者アバドン。

 その頭部の人頭の髑髏の上で、少年は冷酷な笑みを湛え、目下の異端審問会のフィリポの一派を睨んでいた。


 ランベールは、ここでようやく聖都の破壊に『増魔蟲』が用いられた真の意図に気が付いた。

 蟲界の高位精霊を召喚するための儀式を整えるのに、大量の虫の死骸が必要だったのだ。

 聖都中を『増魔蟲』の死骸だらけにしてしまえば、彼は聖都のどこへ行こうとも、強力な高位精霊を呼び出す条件を簡単に整えることができる。


 狙いは『増魔蟲』による聖都の崩壊ではなく、高位精霊による異端審問会の魔術師、及び四大聖柱の皆殺しだったのだ。


「炎よ、焼き払え!」


 フィリポの部下達が彼女を庇う様に前へ跳び、各々にアバドンの頭部へと魔術を仕掛ける。

 だが、アバドンに触れた炎はすぐに消えてしまった。


「無駄だ無駄ァ、アバドンは蟲界の準最高位精霊! 略式の儀式だからすぐ消えはするが、アンタら程度のチャチな魔術をくらうわけねぇだろうが! アンタらはこいつがいる間は、震えて頭を下げてるべきだったんだよ」


「オォ、オオ……」


 アバドンの髑髏の口から、聞いているだけで背筋が凍り付きそうな、何か不吉な音が漏れる。

 三人の魔術師の身体が黒炎に包まれ、彼らは火だるまになってのた打ち回った。

 炎上する魔術師達越しに、アバドンの髑髏の空虚な眼窩が、フィリポを睨んだ。


「え……え? あ……」


 フィリポが顔を青くして退き、尻もちを突いた。

 無理もない。

 アバドンは準最高位精霊であり、その位置付けはかつてランベールと対峙した、マンジーの操るラウンプゥプよりも一つ上を行く。

 顔の髑髏は人間世界に存在する全ての魔術を乱して無効化する他、黒い炎を狙った位置へとほぼ誤差なく出現させる力を持つ。

 そして何より恐ろしいのは、その巨体から生まれる一点突破の破壊力にある。


 如何にフィリポが四大聖柱の一角として精神的な鍛練を積んでいたとしても、アバドンの放つ圧倒的な威圧感、恐怖へ耐えられるはずがなかった。

 ましてやつい先ほど、頼りの結界魔術を土台から粉砕され、部下を焼き殺され、格の違う暴威を見せつけられたばかりなのだ。

 むしろ常人ならば、とうに恐怖でおかしくなってしまっても不思議ではない。

 正気を失わなかっただけマシだといえた。

 

 アバドンの姿が、ゆっくりと薄れて消える。

 少年が口にした通り、アバドンほどの高位精霊の召喚には、本来もっと手順や大量のマナを必要とする。

 略式の儀式で召喚したため、そう長い間人間の世界に滞在することはできないのだ。


 フィリポは息を乱しながら、しかし目前から絶対破壊者が消えたことを安堵し、部下が惨殺されて間もないというのに深い息を吐いた。

 だが、心は既に折れていた。


「は、はぁ、はぁ、はぁ……神様、私は……」


「何を安堵してるんだ? 一番の貧乏くじを引いたのは、アンタだよフィリポ。特にアンタらは惨く殺せという話になってるんでなァ」


 フィリポからアバドンの視線による恐怖が抜けない内に、少年が彼女の背中側へと回り込み、その肩へと衣服越しに噛みついた。


「痛っ……あ、ああ、あああああ!」


 フィリポの身体中の皮膚が、すぐ下で無数の何かが這い回るように膨れ上がり、赤い線が走る。

 おまけにその腫れの数は時間が経つごとにどんどんと増えていき、動く速度も増していった。


「痒い、痒い、痒い痒い痒い痒い!」


 その場に倒れ、痙攣する。

 身体中の皮膚が破れ、他種の虫が這い出て来る。


「どう、じで……? どうじで、ごんな、ごんなごどに……」


 フィリポの口から途切れ途切れに声が漏れる。

 その口からも虫が漏れ出していく。

 鼻から灰色の液体が吹き出し、中から細い蚯蚓の様な虫が這い出した。

 虫の噴射液によって溶け出した脳髄である。


「どうしてはねぇよ、肉体の死は関係ないんだろ? 自分だけ特別ってそりゃねえだろう、都合のいい。俺は興味ないが、アンタ天国にいけるんだろ? 似たようなこと腐るほどやってきたんだから受け入れろよ。このまま丸一日掛けて、その虫共は加減してアンタの臓器と脳を喰って殺す。どうだ、怖いか?」


「わだ、わだし、悪いごと、やっでない、実験体にざれた人達をごろしたのだって、あ、あが、生きのごっていだら、その身体に残ったまじゅ、痕跡から、魔法陣を割り出されるがもしれな、あ、いがら、そう、ゼベダァ、ザマが……。時間がけるのも、後続を生まないだめの……」


「おいおい、信念くらいは通そうぜ? 活き活きとやっといて、自分の番になったら言い訳だなんて、情けない奴だな」


「わだ、何も、間違ったゴと、じテな……ゼベダァ、サマも、そう言ってくれダ……」


 少年は虫塗れになったフィリポの身体に座り、彼女の鼻に集って溶けた脳を啜っていた羽虫を捕まえ、自身の口内へと放り込んだ。


「はぁぁああっ!」


 ランベールが少年の頭部目掛け、彼の背後から大剣を振るった。

 少年は腰を上げて跳んでその場から回避した。

 刃が瀕死のフィリポの身体を叩き斬った。辺りに彼女の身体に巣食っていた虫が舞う。


「随分とお優しいんだな、最初からそっちのガキを狙ったな?」


 少年が更に背後へと跳んでランベールから充分な距離を取り、からからと笑う。


「アンタ、ホンモンの元四魔将だろ? 動き回ってる変な奴がいるのは知っていたが、ここまでヤバイ奴だとは思ってなかったぜ。今回はあくまで聖地優先で、アンタと遊んでる場合ではないんだが……逃がしてくれる気はなさそうだな」


 ランベールが大剣を構え直すのを見て、口許を歪めて不敵に笑う。


「いいぜ、遅れたが名乗ってやろう。俺は『笛吹き悪魔』の八賢者の一人、『蟲壺』だ。名前は言えないが、アンタの推測通りのヒュード部族の後継だ。……八賢者とはいえ、ルルックや『真理の紡ぎ手』……いや、シャルローベみたいな雑魚と一緒にするんじゃねえぞ? 俺や『亜界の薔薇』や『血霧の騎士』は、あんな奴らほど甘くはねぇからよお」

【活動報告】

 10月6日(土)より、新作の『暴食妃の剣』の投稿を開始します!

 粗筋等は活動報告に既に記載しています。こちらの作品もぜひよろしくお願いいたします!(2018/10/04)

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