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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第三章 小型都市テトムブルクの狂気
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第四十五話 真理の紡ぎ手⑦

「逃さぬわ!」


 アルアンテがランベールを大回りし、エリーゼの乗る車椅子を押すクロイツを追いかけようとする。

 だが、ランベールはアルアンテに張り付く様に動き、進行方向を大剣で抉る。

 アルアンテが後方へ跳ぶ。

 ランベールは重ねて追撃の剣を振るう。

 アルアンテは地に手を付け、後方へと縦に回転し、器用に刃を回避していく。

 だが、避ければ避ける程、クロイツ達からは引き放されていた。


「邪魔であるぞ、歴史の敗者がァ!」


 アルアンテは逆さの姿勢のまま、自身のローブからフラスコを取り出す。

 フラスコ内は、人造フォーガの種が入った液体で満たされている。

 アルアンテはそれをランベールへと投擲しようとするも、既に頭上まで彼の振るう大剣が接近していため、出鱈目に宙へと投げて、大きく横に跳んでの回避に専念した。


 アルアンテは身体を丸めて素早く起き上がり、ランベールを睨みつける。


「あの娘には、我がどれだけ心血を注いできたか! 仕上げはまだ、これからなのだぞ……!」


 言い終えてから、目を細め、クロイツの逃げた先を睨む。


「フフ……まぁ、よかろう。貴様に二度目の死を与え、それから後を追えばいい。それだけのことだ」


 アルアンテがぺろりと舌を出して笑う。


「貴様……何やら俺のことを知った様に語っていたが、何者だ? 貴様の動きに覚えはないが……」


 ランベールが問う。


 八国統一戦争時代の魔術師の中には、邪法による偏った肉体強化と、圧倒的な戦闘経験、独特の勘より、今のアルアンテの様な奇妙な戦闘スタイルを確立する者は、稀に存在した。

 だが、そうした動きには必ず、誤魔化しの利かない癖や型が生じる。

 しかし、アルアンテの動きに、ランベールは覚えはなかった。

 もっとも、二百年間アルアンテが戦闘スタイルを昇華させ続けてきたのならば、原型が残っていないというのも、考えられることではある。


「貴様とは違うのだ、ランベェル。我は、過去には囚われなどしない。もっとも、自身を尻尾切りした主への忠誠の証の鎧を、その腐った身体に纏う貴様では、到底理解できないことなのかもしれぬがの?」


 アルアンテは二度舌打ちを鳴らし、人差し指を左右に振ってランベールを挑発する。


「それにしても貴様……少々速くて驚かされはしたが、剣の技量は思いの外、粗いではないか。さっきは不覚を受けたが、既に見切ったわ。その剣は、もう我に当たるとは思わぬほうがいいぞ」


 アルアンテが勝ち誇った様に言う。

 ランベールは大剣を構えたまま、微動だにせずアルアンテを睨んでいた。

 少しは動揺するだろうと睨んでいたアルアンテは、不愉快そうに目元に皺を寄せる。


「その虚勢もいつまで続くのか、楽しみなものだな」


 アルアンテは屈み、低姿勢を保ったままランベールへと駆ける。

 ランベールが大剣を横薙ぎに振るったのを、アルアンテは地を蹴って身体を横に倒し、潜る様に回避した。

 そのままランベールの鎧の腕を手で押して、その勢いで自らの着地速度を早める。

 追撃の剣が、彼のすぐ後ろを叩いた。


 アルアンテは身体を翻してランベールへ向き直りながら、足を引き摺り、素早く後方へ下がる。

 

「土よ、崩せ!」


 トンと、アルアンテが地面を足で鳴らす。

 ランベールの立っている地面が割れた。

 ランベールの態勢が崩れると踏んだアルアンテが、続けて地面へ指を向ける。


「偽りの生命よ、芽生えよ!」


 アルアンテが指差す先には、先程アルアンテが投擲にしくじり、我武者羅に投げて地に落とした人造フロッガの種が散らばっていた。

 十ほどの種が膨れ上がり、掌よりも一回りは大きい、人造フロッガの群れへと変わる。


「ヴェッ」「ヴェオッ」


 人造フロッガが各々にランベールへと跳び掛かった。

 一体の人造フロッガの腹が溶け、内部から青白い液体が漏れ出す。

 それを見たランベールにも、些かの驚きがあった。


「これは、魔酸王(アシドレグム)……!」


 人造フロッガは、魔術で錬成された際に、その性質が決定される。

 そのため、臨機応変に、状況に適した特異な性質を持つフロッガを造り出すことができる。

 それこそが人造フロッガの最大の利点であった。


 今回の人造フロッガは、一体一体が、通常の消化液とは比にならない強酸を体内に有していた。

 錬金術によって一時的にのみ生成することができる、この世界最強の酸、魔酸王(アシドレグム)である。

 人造フロッガを利用して錬成された、マナ由来の強酸は、魔銀ミスリルさえも溶解する。


 魔酸王(アシドレグム)を錬成するには、本来膨大なマナと手順が必要となる。

 人造フロッガという疑似生命体(ホムンクルス)を用いた手順の短縮を実現する手腕といい、単独で膨大なマナを賄う能力といい、ランベールから見ても、彼が一流の魔術師であることは疑いようがなかった。


 この人造フロッガは、自身の強すぎる消化液に、胃の内壁が耐えられないため、錬成後すぐに自壊し、最長でも十秒と生きられない。

 そのためこの人造フロッガは、すぐに自爆し、魔酸王(アシドレグム)を周囲にばら撒く性質を持たされていた。


「ヴェグッ」


 宙に跳んだ人造フロッガ達の身体が歪み、肉を散らして爆ぜた。


「グズグズに溶かしてくれるわ!」


 人造フロッガの中身の青白い水……魔酸王(アシドレグム)が、ランベールへと降り注ぐ。

 ランベールの鎧は魔銀ミスリルよりも強い結びつきを持つ魔金オルガンであり、これはマナを通さず、付着した魔酸王(アシドレグム)でさえも分解し、威力を弱めることができる。


 だが、鎧の節々、隙間から侵入する魔酸王(アシドレグム)を防ぐことのできるようなものではない。

 避けようにも、ランベールの足は、地面の罅に囚われていた。

 魔金(オルガン)鎧の超重量は、この手の足場ごと崩す敵の戦法に弱い。

 さすがに足を引き抜いてから人造フロッガの自爆を避ける様な猶予はなかった。


魔酸王(アシドレグム)は、取り扱いには注意せねばならぬからな。土よ、壁となれ!」


 アルアンテの前に、土の壁がせり上がる。

 これで万が一にも、自分へと魔酸王(アシドレグム)が掛かるリスクを大幅に減らすことができる。

 魔酸王(アシドレグム)は武器としては避けるのが難しく威力が高く優秀であるが、一歩間違えれば、その特性はそのまま自分へと牙を剥きかねない。


「はぁぁぁぁぁああ!」


 ランベールが素早く大剣を振るい、宙に舞う人造フロッガの断片を、大剣の風圧だけで尽く弾いていく。


 飛んだ人造フロッガの破片が、魔酸王(アシドレグム)が、土の壁を溶かし、削る。


「危ないところだった。しかし、なんだ今の大剣の動き……さっきまでとは、全く違……うぐっ!」


 アルアンテが膝を突く。

 彼の左の靴は、僅かに被弾した魔酸王(アシドレグム)に濡れて崩れ、左足首の付近が、青白く爛れていた。


「そ、そんな馬鹿なっ! 確かに、間に合っていたはず……!」


 アルアンテは、ランベールが大剣を振るう前から、土の壁をせり上げさせ始めていたのだ。

 確かに最初に跳んできた人造フロッガの破片も、土の壁で防いだはずだった。


(い、いや、初期は、壁の厚みにムラがある……。たまたま土の薄い部位に、勢いの乗ったフロッガの破片がぶつかり、貫通していたというのか。クソ、なんと運のな……)


 そこまで考え、アルアンテは気が付いた。

 土の壁が薄かった部分にピンポイントでフロッガの断片を飛ばして貫通させ、強酸を身体に当てるなど、偶然では決して済まない。


(まさか、狙ったとでもいうのか! あの一瞬で、全てのフロッガを大剣の風圧だけで弾きながら、流動的に変形する土の壁の薄い部分を打ち抜いたのか!?)


 ランベールは土の壁を容易く体当たりで破り、身体目掛けて大剣を斜めに二度振るう。

 アルアンテはそれを、屈みながら左へ、右へと下がりながら回避した。


 続けて放たれた蹴りの一撃に、アルアンテの身体が、大きく弧を描いて宙を舞う。


「……外したか」


 ランベールが呟く。

 アルアンテは身体で宙を回して重心を移動させ、少しでも早く地へと足を付ける。


 アルアンテはランベールの蹴りに対して上に跳んで避け、続けて下に来た鎧の足を蹴ることで、ランベールの蹴りの威力を利用しつつ、彼から距離を取ったのだ。

 着地したアルアンテの身体が、僅かに傾く。

 アルアンテは片目の黒目だけを器用に自身の足許へと向け、自身の爛れた片足を目にし、舌打ちをする。


「……チッ、研究途上の玩具では、無理があったか。もうよい、貴様とのお遊びはここまでだ。流石に四魔将相手は、縛りを付けたままでは難しいか。こだわりは、捨てるとしよう。ここからは本気で行くぞ」


 アルアンテが両腕を伸ばす。


「熱球よ、我が手に宿れ!」


 魔法陣が広がる。

 五つの光を放つ熱球が、アルアンテの周囲に浮かんだ。


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