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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第三章 小型都市テトムブルクの狂気
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第四十三話 真理の紡ぎ手⑤

 まさかとは、ランベールも思った。

 だが、しかし、ロビック達の話を聞いている限り、当てはまる人間が一人しかいないのだ。

 それにたまたま条件に当てはまった人間が、偏屈なトニーレイルから唯一好かれていた人物というのも、あまり都合がよすぎる。


 そもそもこれまでに遭遇した『死の天使』の面子を思い返しても、わざわざいうことを聞かないアルアンテを遠くから連れてきて優遇していたことが、あまりにも辻褄に合わないのだ。

 ロビック達から内情を聞けば聞くほど、アルアンテの不自然さが浮き彫りになっていく。


「あの実験体を自身と祀り上げていたのは、自分の研究を他の者にも悟らせないためか? しかし、それだけだとは……」


 ランベール自身、すっかりと騙されていた。

 多くの兵を束ねていた将であった身として、人を見る目には自信があるつもりだったのだ。

 だからこそ、クロイツの兵にアルアンテを任せたともいえる。

 もう少し不審な様子があれば、その場で斬り捨てる様な真似はしなくとも、もう少し保険を掛けるなり、鎌を掛けるなり、他の方法を取っていた。


 ランベールの決断を擁護するならば、正義と勝利を優先する将の在り方と、死地にも遊び心を忘れず、理を放棄した遠回りを選択肢に含める魔術師の思考の差が、裏目に出た結果であった。


「どうしたのだ、鎧の剣士殿?」


 クロイツが固まったまま思案しているランベールへと尋ねる。


「……俺のミスだ、決断を誤った。地上に残った者達が危ない……」


 それだけ言うと、駆け足で施設外へと向かい始めた。


「あ! お、おい、どこへゆくのか!」


 クロイツがランベールへと手を伸ばす。


「お前達は、生き残った者達を探し、他の街へと戻れ!」


 ランベールは駆け去っていく。

 クロイツは一時は足を止めたものの、他の兵達の顔ぶれを見やるとしばし逡巡し、ランベールの背を追いかけて走り出した。


「クロイツ様!?」


「私はあの剣士の後を追う! お前達は撤退し、まともな地へと逃れろ!」


 一団と離れたランベールは研究施設の通路を駆け出し、外へと飛び出し、クロイツの部下達とアルアンテがいた方向へと目指す。

 アンデッドの特技を活かし、マナの気配を感知しつつ進む。

 アルアンテの目的が読めればもっと当たりを付けての捜索もできたのだが、ランベールには彼の思考など見当も付かなかった。


 なぜアルアンテはわざわざ仲間からも身を隠し、早々に施設から抜け出し、クロイツの部下に保護されたのか。

 恐らく同業の魔術師でもなければ、知ったところで理解など微塵もできないことだ。

 ランベールが生前から魔術師を嫌っていた理由の一つであった。


 ランベールが捜してから、そう長い時間が経たない内に、アルアンテは見つかった。

 人気のない都市テトムブルクの、荒れ果てた家屋の前を彼は歩いていた。

 エリーゼの車椅子を押しながら、朗らかな笑みを浮かべつつ、彼女へと声を掛けているところであった。


 しかし、以前に顔を合わせたときには、彼らの様子は明らかに違った。

 気丈に振る舞っていた少女は、肩を落とし、正気を失ったかのように譫言を繰り返す。

 正義感溢れる青臭い青年は、道化染みた笑みを顔に張り付け、猿の様に囃し立てていた。


 早々に見つけられたのは、アルアンテ自身も、エリーゼの仕上げのデータを取るために、地下施設を目指していたからに他ならなかった。

 

 アルアンテは遠目にランベールを見つけると、道化の顔を一変させ、元の好青年のものになった。


「ああ、これは、剣士様……。すいませんが、実は、どうしても地下へと取りに行かねばならないものがありまして……」


「……他の兵士と、捕虜はどこへやった」


 ランベールが駆けながら尋ねる。

 アルアンテは困った様に額に皺を寄せ、顎に手を当てる。


「彼らが同行していない理由ですか? すいません、一言で誤解がないように事情を説明するのは難しくて……向かいながらで、構わないでしょうか?」


 当然、ランベールは足を緩めない。

 アルアンテが首を傾げながら足を止めた。


「貴様は、誰だ? いつ入れ替わった? 貴様、既に人の身ではないな」


「はぁ……?」


 恍ける様に首を傾げる。

 ランベールが大剣を抜き、アルアンテと交差した。

 アルアンテの口が、呆然とした様に開く。

 首に掛けていた懐中時計の鎖が切れて地面に落ち、首元に赤い傷口が走った。


「あっ……!」


 虚ろな目で譫言を口走っていたエリーゼが、目を見開いて悲痛な声を漏らした。


 アルアンテが屈み、苦し気に首元を押さえる。


「うう……何を……」


「や、止めて! その……ち、違うの! お兄さんは、本当に違うの! だから……!」


 エリーゼが必死に手を広げ、アルアンテを庇う。


 ランベールは、エリーゼ越しにアルアンテを睨んだ。

 気を研ぎ澄ませ、何かアルアンテに妙な動きがあれば、次の瞬間に対応できるようにと身構えていた。


「貴様……何を考えている?」


 そこへ、駆け寄ってくる一つの足音があった。


「……鎧の剣士殿よ、これは、何があったのか? どういう状況なのだ?」


 ランベールの足跡を追いかけ、ようやく後を追っていたクロイツが辿り着いたのだ。


「早く戻れ! 来るなと言ったはずだ!」


 ランベールが瘴気を放ち、クロイツへと一喝する。

 クロイツの身体が震え、ランベールへと目線が釘付けになった。

 だが、すぐにアルアンテへと目線を移す。


「あ、あの、この方が……何か、勘違いしているそうでして……その、それはきっと、私が悪いのですが……」


 アルアンテはそう言いつつ、洗練されていない足取りでクロイツへと接近した。

 ランベールも、この状況で、アルアンテがまだ、こんな不格好な愚直な動きを見せて来るとは思わず、意表を突かれる形となった。


 当然、状況をまともに掴んでいないクロイツは、安易にアルアンテに応じて接近した。

 そのとき、グゥ、グォウという、虫の鳴き声の様な声が聞こえた。


「む、何の音……?」


「今のは、フォーガの鳴き真似ですよ。上手かったですか?」


 そう口にするアルアンテの手には、いつの間にやら、得体のしれない液体の入った小さなフラスコが握り締められていた。

 構えの照準はクロイツへと向けられている。


 だが、フラスコが投げられることはなかった。

 アルアンテはフラスコを投げることを諦めてその場に落とし、背後へと宙返りしながら跳んだのだ。

 アルアンテの立っていた場所へと、ランベールの大剣が振り下ろされていた。


「ふむ、随分と甘いな。四魔将最強と称されておきながら、むざむざ我を斬れた機会を、こう何度も逃すとは」


 アルアンテの表情が一変し、笑みを浮かべながらランベールを見る。

 視線をランベールに固定したまま、身体を大きく前倒しにし、極端に猫背の構えを取った。


「だから、グリフ如きに騙し討ちされたのだ。そうであろう、ランベール」

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