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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第三章 小型都市テトムブルクの狂気
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第三十六話 死の紳士トニーレイル⑫

「お、おお、お前達っ! 奴へ飛び込め! 自爆しろ……いや、そうだ! 自害しろっ!」


 トニーレイルが、剣を手にする五人の子供達へと命じる。


「なんだその態度は、私の言うことが聞けないのか! ならばこうしよう、一番遅かったものから、ミンチのスープにして豚に喰わせてやる!」


 トニーレイルの冷酷な、悪魔の瞳が彼らを睨む。

 彼の目を振り返った子供達が、身震いし、ゆっくりと、戸惑いながら剣を構える。


 トニーレイルがやると言ったことは、必ず実行する。

 テトムブルクでの綿密な洗脳教育の中で、その事は、子供達の中で、世の法則の如く絶対的なものとなっていた。


「そう、そうだ、それでい……」


「安心しろ。そこの男は、俺が斬る。その悪趣味なごっこ遊びは今日までだ」


 ランベールが大剣をトニーレイルへと向ける。

 丸腰で床に座り込むロビックは、ただただ、呆然と彼の背を見つめていた。

 この場にいるトニーレイルの奴隷達の中で、ランベールに敗れ、庇われたロビックだけが、年齢相応の子供の表情をしていた。


 一つ、剣が落ちた。


「そうか、生きたまま挽肉になりたいのはお前……」


 次に、二つ目、三つ目の剣が落とされ、あっという間に剣を握る子供はいなくなった。


 ランベールがロビックの自爆を身を呈して防いだ行動は、トニーレイルが苦心して刷り込んできた呪縛を解くのに十分なものだった。

 元より、戦乱の世を風靡したランベールとトニーレイルでは、風格が、説得力が、あまりに違う。

 トニーレイルが暴力と脅迫によって形成した呪縛が、ランベールの示した武を否定するに足るものであるはずがなかった。


「舐めやがって、クソガキ共めが……! いいでしょう、その決断、死ぬまで後悔させてやろう。我ら『死の天使』の魔術の集大成を、貴様らの身体に味合わせてやる! 我々の魔術は、王国の魔術を遥かに凌ぐ! 臓器と脳だけで人を生かし続けることさえも可能なのだ!」


「人間を冒涜する様な真似しかできぬ貴様らが、よくもそのような大口を叩けたものだな」


「剣を振るしか能のない者には、わからないでしょうねぇ。ここの研究成果は、王国へ持っていけば、即座に宮廷錬金術師に取り上げられるような代物ばかりだ!」


「八国統一戦争時代の、不完全な再現ばかりではないか。大方、ほとんどが、戦後に秘匿された魔術の焼き直しなのであろう」


「なんだと……?」


 トニーレイルの顔が怒りに赤くなる。


「貴様らは、理由あって隠されたものをわざわざ掘り出す厄介者に過ぎぬ。逸れ者の貴様らが、王国からの評価を引き合いに出すのは笑えぬな。叩き斬られるのが関の山であろう」


「……馬鹿に話した、私が馬鹿でしたね! 我らの研究の格を理解できぬばかりか、自らの無知を棚に上げて否定する! 王国が、お前の様な馬鹿ばかりだから、私は『笛吹き悪魔』へ入ったのです!」


 トニーレイルが左腕の指に力を込める。

 指の先から伸びるマナの結晶、悪魔の爪が、更にその長さを増す。

 トニーレイルは姿勢を低く構え、地面を蹴り、円を描いて回り込む様にランベールへと接近する。


(相殺剣を通さない鎧に、ロビックを遥かに凌ぐ速度……確かに厄介だ。だが、お前のその甘さが徒となる! 私の悪魔の爪ならば、鎧の隙間を容易く貫くことができる! 後は、隙を作るだけ……! 私の爪は、掠っただけで体内のマナを掻き乱す、即効性の毒……如何にこいつが化け物であろうと、耐えられるわけがない!)


 トニーレイルは、まずランベールの背後に立つロビックを狙う素振りを見せ、隙の生じたランベールを貫く算段であった。


 しかし少しばかり、トニーレイルには計算違いがあった。

 ランベールの肉体は既に失われており、通常の人間のものではないため、トニーレイルの対人を想定したマナの毒は、一切の意味をなさない。

 そして仮に生前であったとしても、マナを自在に操り身体を強化する剣士の完成形であるランベールに対して、トニーレイル如きのマナを掻き乱す類の毒は通用しない。


「まずはそこの役立たずから!」


 トニーレイルが、言葉と行動を以てロビックを狙うフェイントを掛け、身体を即座に後方に逸らす。

 その刹那、トニーレイルの左肩が、血飛沫と共に撥ね上げられた。


「がぁっ! そんな、その位置から……!」


 トニーレイルの計算違いに、致命的な実力差があったことは、言うまでもない。

 ランベールは卑劣に対して正義を押し通せる力があったからこそ、レギオス王国四魔将最強の剣士と讃えられていたのだ。


「や、止めろ! 私は、最高峰の魔術師だぞ! この私を殺すことは、王国の、ひいては世界の魔術学の大きく後退させる行為に他ならな……!」


 ランベールの刃が、トニーレイルの右足を切断し、左足を抉った。

 切断面を地にぶつけ、苦悶の声を上げる。


「わ、私が、死ぬのか? この私が……」


 大剣がトニーレイルの頭に触れる。


「お前は『死の天使』の、副団長といったな? ボスはどこだ?」


「フ、フフ……ははははははは、『真理の紡ぎ手』様は、貴方如きでは絶対に倒せはしない……。かの御方は、私でさえも、決して本当の名で呼んではならぬと、命じられている。それは、あの御方が、誰でも知っている高名な人物だからですよ。いや、最早、化け物と呼ぶべきかもしれませんが……ふふふ、あの御方がいたからこそ、私はここに身を委ねた……」


「興味はない、どうせ知らぬだろう。何処にいるのかを話せ」


「あの御方の御心は、私でさえも計り知れない……私はただ、命を懸けて、その指示に従うのみ。ここで私が口にするのは、きっとあの御方の本意ではない。ただ、安心してください。きっと『真理の紡ぎ手』様は、貴方を遊び相手に選ぶことでしょう」


 トニーレイルが不気味な笑みを浮かべる。

 彼の胸を、悪魔の爪と同種のマナの結晶が、内側から貫いた。

 身体ががくんと揺れ、口から血を垂らす。死してなお、トニーレイルの笑みは残っていた。


「……死んだ、か。クロイツ達と合流できる道を探りつつ、捜してみるしかない」


 ランベールは立ち上がり、トニーレイルの奴隷だった六人の少年達を見やる。


「ついてこい、すぐに地上に出してやれる。ここにいた魔術師は既にあらかた片が付いた後だ」

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