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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第三章 小型都市テトムブルクの狂気
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第三十二話 死の紳士トニーレイル⑧

「神の右手と称された兄者が断ち、神の左手と称された私が紡いだ彼らは、なんと、この状態で、まだ生きている! これより実践実験を開始する! さあ、百目入道よ、その強大無比なるパッワーを持って、すべての外敵を排除するのだ!」


ハルメイン兄弟、弟ミライゼが腕を『不死鳥の瞳』の一行へと振り下ろす。

 幾つもの顔、手足、人間の身体の一部を伸ばす不気味な球体、百目入道が、多足で床を這って前進する。


「止めて」「怖い」

「痛い、苦しい」「怖い」「殺さないで」


 百目入道から伸びる子供の顔が、口々に悲鳴を上げる。

 前に躍り出たクロイツは足を止め、呆然と立ち尽くす。

 後続の剣士達も、百目入道の悲鳴の前に、足を止めた。


「ははは、感受性が豊かなことだ。それでいい、子供を平然と斬れるのならば、我らとお前達に、何の違いがあろう? さあ、正義感に抱かれて死ね」


 兄レジェフが、淡々と述べる。

 その声を聞き、クロイツはレイピアを握る手に力を戻し、床を蹴って跳んだ。


「今更、こんなところで足を止めはしないっ!」


 クロイツが宙から放ったレイピアが、百目入道の身体を突き刺した。

 そのまま肉を切り裂いて手許に引き戻し、百目入道の身体に足を掛ける。


「すまない、許してくれ。だが、仇は必ず……!」


 クロイツが腕を引き、二撃目を放とうとする。

 そのとき、百目入道の無数の頭が表情を醜く歪め、悲痛な叫び声を上げた。

 阿鼻叫喚が轟き、百目入道そのものが、一つの地獄の様になる。

 唐突に現れた凄惨な光景を前に、クロイツの腕からレイピアが、自然に落ちた。


「言い忘れたけれども、彼らは痛覚を共有している。愚弟のミライゼが頑張って繋いでくれたお陰でね。そのお陰で、ほら、面白い楽器になるだろう。どこを斬られても、眼球の神経を抉り抜かるに等しい激痛が、彼らを襲う」


 レジェフが淡々と言えば、ミライゼが笑いながらそれに続く。


「それにしても何の罪もない子供達を突き刺し、甚振るなんて、王国兵団は酷い連中なんだな」


「わ、私は……」


「はい、隙ありどーん」


 胴体を繋げて作られた巨大な腕が、クロイツへと振り下ろされた。

 部屋全体が大きく揺れる。


「どうだ、移動速度にやや難があるか、なかなかのパッワーだろう? 百目入道の腕は、オーガでさえも一撃で骨を折る。人間など、ひとたまりも……」


 百目入道の無数の顔が再び歪み、苦悶の悲鳴を上げる。

 クロイツを庇う様に割り入ったランベールが、鎧の背で百目入道の拳を受けていた。


「……なぜ、なぜあの一撃を受けながら、鎧が破損していない? そもそも、なぜ立っていられる? なんだ、それは? 馬鹿な、まさか魔金オルガンだとでもいうのか?」


「兄者ともあろう御方が、何を脅えている? 少々想定外だが、問題あるまい! 百目入道の二段階目のパッワーを……いいや、三段階目まで開放するね! ひょひょひょ、雑魚剣士団かと思いきや、なかなか面白いではないか! さあ、我々の実験に付き合ってもらおうか!」


 ミライゼがそう言い、百目入道の背へと手を触れる。


「さぁ、見せてやるがいい! 百目入道、お前の真のパッワーを!」


 百目入道に飛び乗ったランベールが、その頂点に立ち、足場に大剣を振るった。

 百目入道の肉が抉れ、血肉が舞い、子供の頭が本体から切り離され、いくつか床に投げ出された。

 二振り、三振りと続く。


「お、おおおお前! 何を当たり前の様に斬ってくれている! 我らの最高傑作ぞ! お前、子供達を手に掛けて、罪悪感はないのか! これが王国兵団のやることなのか!? この殺人鬼共め!」


 ミライゼがランベールを指差して腕を振るい、非難する。

 百目入道の図太い両腕が持ち上がり、ランベールを襲う。

 だが二本とも、ランベールに届く前に振るわれた大剣の刃に切断され、床へと落ちる。


 ランベールが軽く跳び、宙で身体を返して勢いを付けて大剣を振り下ろした。

 百目入道の巨体が床に全身を打ち付け、全ての顔の目玉がぐりんと上を向き、ぷつりとこと切れた様に首を垂れさせる。


「……動揺一つ見せずに、殺してみせるとはな」

「なるほど! お前には血は通っていないのだな! よぉくわかった! この、気狂いめが! もう実験はお終いだ! よいだろう、お前など、我ら兄弟のとっておきの魔術コンボで、確実に葬ってくれる!」


 百目入道を蹴って床に降りたランベールを、ハルメイン兄弟の二人が囲んだ。


「我らが声に応え」「肉界より来たれ」

「「賎陋なる肉袋ボルム」」


 二人が交互に呪文を唱え、奇怪な動きでポーズを決める。

 レジェフの前に、動物の裏表をひっくり返した様な、真っ赤な肉の塊が浮かぶ。

 寄った皺が、醜悪な目と口を作っていた。


「さぁ、これから人の痛みを知らぬ狂人に、我が怒りの鉄槌……」


 レジェフはランベールと目を合い、身体をびくりと震わせ、同時に言葉を途切れさせた。


「どうしたのだ兄者! 早くボルムをばら撒いてくれないと……!」


「お、おお、お……」


 レジェフが後退りする。

 アンデッドと化しているランベールは、感情の乱れに呼応し、普段は留めている瘴気が漏れ出す。

 レジェフは鎧の内側から感じた憤怒の込められた瘴気に充てられ、とても敵うものではないと、本能的に理解したのだ。


 レジェフはその場に両膝を突き、手を床につけ、面の隙間から落ちた汗を床へと滴らせる。

 肉袋ボルムも床へと落ち、ずりずりと不快な音を立てながら床を這った。


「なんだ、お前は……?」


 最早それは戦いではなく、処刑人へと許しを乞う罪人そのものであった。

 差し出されるように向けられたレジェフの頭を、ランベールの大剣が容赦なく刎ねた。


「五十四人、貴様らが兵器を作るのに使った子供の数だ。下賤な魔術師の首二つでは、王国の未来を担う子供一人の対価にもならぬが、もらっていくぞ」


「あ、兄者っ!」


 無防備に駆け寄ってくるミライゼの胸部を、大剣の一閃が切断した。

 血が舞い、二つに分離したミライゼの身体が、それぞれに地面の上へと崩れた。


 そしていそいそとその場を離れようとする異界の精霊、肉袋ボルムを跳ね上げ、剣の腹で叩いて破裂させた。

 肉塊は「オヴェ」と短かい、聞くに堪えないような不快な悲鳴を発し、血だまりを残して消失した。


「……すまなかった、一撃で終わらせることができなかった。後で、必ず正式な葬儀を行わせる」


 百目入道の隣を通る際に、ランベールはそう言って頭を下げた。

 そして続いて、まだ動揺の残る『不死鳥の瞳』を睨み、声を掛ける。


「急ぐぞ。ここに残っている魔術師は、一人残らず皆殺しにしてやる」 

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