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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第三章 小型都市テトムブルクの狂気

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第二十七話 死の紳士トニーレイル③

 テトムブルク、地下研究施設の一室にて、八賢者が一人『笑い道化』のルルック・ルルックと、錬金術師団『死の天使』の副団長トニーレイルが顔を合わせて座る。

 トニーレイルの左右には相変わらず世話係兼奴隷の美少年がついていたが、ルルックはそれをいないものとして扱う。


「……正直なところ、最初にルルック様より聞いたときは信じ切れてはいませんでしたが、確かに一大事のようですね」


「ようやく私の言うことを聞き入れてくれたみたいね、トニーレイルちゃん」


 ルルックは面をやや傾けて口だけを露出させ、トニーレイルへと言う。

 話に上がっているのは、ラガール男爵領に現れた、恐ろしく腕の立つ鎧の剣士のことである。


 最初にルルックから聞いたときは何を大袈裟なと高を括っていたトニーレイルだが、ここに来て『死の天使』の上位魔術師達が、立て続けに連絡を断っている。


「王国の秘密兵器、とでもいったところでしょうか。この地は捨てねばなりませんが、その前に奴だけは、ここで必ず殺さねばなりますまい」


「はっきりって、純粋な剣技なら、八賢者最強の『血霧の騎士』にさえ並ぶよ。人間じゃないねー、アレ」


 ルルックが気軽な素振りで言う。

 その様子にトニーレイルが眉を顰める。

 不可解だと、わざと示す様な表情であった。


「その物言いは不敬では? 『血霧の騎士』は、我らが頭目『不死王』が『笛吹き悪魔』の結成前よりその力を見込み、側近としておいている剣士だという話ですよ。それに並ぶ剣士がいるなど、そう軽々しく口にするものでは……」


「軽々しく言ったつもりはないよん。とにかく私は二度と、アレとぶつかる気はないから。あの剣士が、『蟲壺』の奴がラガール子爵に仕掛けた呪術に気を取られなかったら、私は確実に殺されてたところだったもん」


 ルルックが首を振るう。


「ルルック様は、神出鬼没さと頑丈さを買われて八賢者になられたのでしたね」


 トニーレイルの言葉は、ルルックが八賢者としては魔術の規模も狭く、戦闘能力も低いことを示唆していた。

 ルルックが不機嫌そうに口許を歪め、トニーレイルを睨む。


「あれ、ひょっとして私、さっきから喧嘩売られてない?」


「負けて逃げた貴女が、何を偉そうに? 貴女、他の八賢者の方々と比べると、一つ落ちるんですよね。最初に貴女から鎧の剣士の話を聞いたときから考えていたのですが、その程度の座なら、この私がついてもいいのでは?」


 トニーレイルが紳士的な笑みを向ける。


「口の利き方に気を付けろよホモ小僧」


 ルルックが声を低くし、トニーレイルへ言う。

 童女の身体と、可愛らしいフリルのついた道化服には似合わぬ口調だった。


「ロビック、ネイン」


 トニーレイルは、左右に座る二人の少年の名前を呼ぶ。

 ロビックとネインが立ち上がり、トニーレイルの前に立つ。


「我が声に応え、物界より来たれ、踊る断頭台ポルターシザー!」


 魔法陣が展開され、巨大な鋏が宙に浮く。

 刃についた合計六つの目がトニーレイルを捉え、彼目掛けて直線で飛来する。

 ロビックがネインの執事服の襟を掴んで前に押し出し、盾にした。

 ポルターシザーの刃がネインの下腹部を貫く。


「あっ、あが……」


 ネインが血を吐き、白目を剥く。

 ロビックは宙で身体を前転させ、ルルックの死角に当たる軌道で腰に隠したナイフを抜き、胸部へと目掛けて放つ。

 ルルックは一瞬反応に遅れたものの、身体を後ろへ逸らし、手にした真紅の杖で投げナイフを払った。


 ルルックは仮面をずらし、瞼のない目でトニーレイルを睨む。

 ルルックの殺意を受け、トニーレイルは肩を竦める。


「冗談ですよ。本気に取らないでください、内部で争っている場合ではありませんよ。その鎧の剣士は、私達が引き受けます。彼らの勢いならば、いずれこのテトムブルクの地下へと入り込んでくるはずです。如何に奴が強くとも、ここに入り込めば、どうとでも料理ができる。その間、ルルック様は、雑魚でも狩っていてくださいな」


 トニーレイルが手を翻し、ルルックへ部屋から出る様に促す。

 ルルックは立ち上がった後に彼を一瞥し、部屋を去る。


「もっとも、貴女が逃げ帰った相手を私が倒したと『不死王』が知れば、立場が逆転するでしょうがね、フフフ」


 トニーレイルはルルックが完全に部屋から出たのを確認してから、ロビックへと無表情の顔を向ける。


「さてロビック、なぜ君は、私を身を呈して守ることのできる名誉を、ネインに譲ったのかな?」


「……僕が残った方が、トニーレイル様のお役に立てるからです」


 その言葉を聞き、トニーレイルは破顔する。


「そう、そうだ! まったくロビック、君はいつでも、私の想定通りに喋ってくれる。いやまったく、優秀な私の人形だよ! ハハハハハハ! 手を掛けて調教した甲斐があったというものだよ!」


「ネインの治療は? まだ、間に合うかもしれませんが……」


 ロビックが横目でネインへと目をやる。

 ネインはポータルシザーに貫かれた腹部より夥しい量の出血をしており、このままでは長くないことは明らかであった。


「た、助け……助け……」


 ネインが譫言の様に繰り返す。


「不要だ。ここテトムブルクならできるだろうが、今は緊急事態だし、そうでなくとももしも後遺症が残ったらどの道捨てるしかないからね。そうなったら、なんだか悔しいじゃないか。ネインは、まぁ、そこまで優秀というわけでもない」


 トニーレイルの言葉を聞き、ロビックの人形の様に端正な顔に翳りが差す。

 ネインへと目を向けたまま、数秒動きが止まった。


「何か問題があったかな?」


「いえ……」


「そうか。さて、それより準備を進めねば。あの怪人ルルックにあそこまで言わせるのだから、『血霧の騎士』は言い過ぎにしても、並みの剣士ではない。ンフフ、しかし、ここを乗り切れば、私も八賢者に入れる算段が高い」


 トニーレイルは立ち上がり、ネインへと歩み寄る。


「トニーレイル、様……助け……」


 トニーレイルは余裕のある笑顔のまま、ネインの腹部を足で、体重を掛けて踏んだ。


「あ、あがっ! 痛いっ! やめてください、やめ……!」


 トニーレイルは鼻歌でクラシックを口ずさみながらも、ネインの腹部を蹴り続ける。

 特に彼に失態があったわけでも、トニーレイルの機嫌が悪いわけでもないはずだった。

 ロビックは目を見張り、その様を呆然と眺めていた。


 ネインの顔は土色となり、泡を吹き、身体を痙攣させる。

 そしてトニーレイルが最終小節を奏で切ったと同時に、ネインは完全に動かなくなった。

 人体の研究を進め、死体を弄ぶ『死の天使』の副団長だからこそできる芸当であった。


「トッ、トニーレイル様……?」


「『ティオ嬢の肖像に捧ぐ』だよ。この国は本当にくだらないが、音楽家レイレットを生み出したことだけは素晴らしい。そう思わないかい、私の愛しいロビックよ」


「いえ、そうではなく、なぜネインを……」


 トニーレイルは足元を見て、初めてネインに気が付いたかの様に瞬きする。

 それから顎に手を当てて、少し考える素振りを取ってから、小さく頷く。


「ゴミを捨てる前に、特にどうしたいとかを考えなくとも、自然と丸めたりするだろう?」


「…………」


 ロビックが言葉を失う。

 トニーレイルは何事もなかったかのように肩を鳴らして背伸びをし、靴についた血を床を踏んで跳ばす。


「さて、あれだけルルックに大口を叩いてしまったのだから、結果は出さねばならん。これで敵いません逃げてきましたでは、私が殺されてしまう。ンフフ、追い込みにはちょうどいい」

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