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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第三章 小型都市テトムブルクの狂気
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第十二話 笑い道化③

 ランベールは、ラガール子爵の館の通路を突き進む。

 奥へと進むごとに警備が強くなっていたため、この先にラガール子爵がいることに間違いはないと考えていた。


 仮に隠し通路を用意していたとしても、追跡は容易なはずだった。

 ラガール子爵は肥満体で、満足に走ることもできないという話を、ランベールは貧民街での情報収集で得ていた。

 おまけに彼は元々面倒臭がりでほとんど館から出なかったが、ここ最近は肥満が特に悪化したのか、めっきり外にも出ていない、とのことだった。


(館の外観からして……そろそろ、この辺りか)


 ランベールの魔金オルガンの回し蹴りが、扉を容易く粉砕する。

 散らばった木片の奥には、面を被る少女と、貴族服を身に包む痩せ細った男が顔を合わせていた。

 男は服こそ豪奢だが、顔には疲労と焦燥があり、頬は内側に大きく窪んでおり、目の下の隈も酷く、ランベールの目にはむしろ貧相な男として映った。


 男の周囲には、散々ランベールが道中で見た、ラガール子爵の部下達が並んでいた。


 面の少女は、椅子の背凭れの上に乗り、本来座るベき部分に足を垂らすという、行儀の悪い座り方をしており、痩せ細った男を見下ろしていた。

 私兵達はランベールを見て、驚愕の声を上げる。


「し、侵入者……!?」

「馬鹿な、下で何か起こっているとは思っていたが、まさか、ここまで来るとは! ここまで非常事態だとは……!」


 面の少女は、ランベールを見て肩を竦め、足をばたつかせる。


「ぜんぜんダメじゃーん、ラガール子爵ちゃんの私兵! 役立たず共は、さっさとテトムブルク送りにでもしちゃったらどうかな?」


「か、勘弁してください、ルルック様……! わわ、我々は、これ以上、そちらへ手は貸せませぬ! ワ、ワシの、ワシの領地であんな、おぞましいことは……! し、知らなかったのだ! ワシは、だって、あんな……! ワワ、ワシは、情報を漏らしたりは、絶対にせん……! だから、だから、出て行ってください! お願いします!」


 痩せた男は、脅えるように頭に手を乗せ、一層と震えを強くする。


「はぁ? 監査の兵が来たら手を引きます、なかったことにしてくださいって? あのさぁ、だからそれさぁ、都合いいにもほどがあるのよね? 馬鹿なのかなぁ? 私達を舐めてるのかなぁ? もうラガール子爵ちゃんは引き下がれる状態じゃないって、どうしてわっかんないのかなぁ?」


「おお、お願いします……お願いします! 出て行ってくだされ! 出て行ってくだされ!」


 ランベールは一連の流れを見て、薄っすらとながらに状況を把握した。

 あの痩せ細った男が、確かにラガール子爵なのだ。

 噂では肥満体だったが、元々外に出なくなって久しいと聞いていた。

 恐らくその間、『笛吹き悪魔』と関わっていく中で精神を消耗し、あのような痩せ細った姿になったのだろうと仮定した。


「……まぁ、でも、今はとにかく、侵入者を仕留める方が先かなー。いいよ、今回は特別に、私が片付けておいてあげる。その間、見ながら考えておいてよ。私達を裏切ったら、どうなるかってことね」


 少女は言うなり跳び上がり、ランベールの前方へと着地した。

 やや屈み気味の姿勢で片手を地につけ、ランベールを見上げるように睨む。


「ようこそ、侵入者さん、わざわざこんなボロっちい、退屈なところへ。もっとも、私の館でもなんでもないんだけどね! あはっ!」


「貴様、『笛吹き悪魔』か……」


「あはははぁ、そうだけど、それだけじゃないかな? 私は、『笛吹き悪魔』の八賢者の一人、ルルック・ルルック。運が悪かったわね、私がいるときに、忍び込んでくるなんてさぁっ!」


 面の少女ことルルックが、地面につけた片手を伸ばして自身の身体を浮かせ、ランベールへと鋭い蹴りを放った。

 ランベールは大剣を構えて防ぐ。

 一瞬で鋭い金属音が三つ響いた。

 だが、ランベールはその場から微動だにしていなかった。


「ちぃっ!」


 ルルックは、手にしている真っ赤な金属杖でランベールの大剣を叩き、同時に床を蹴ってランベールの間合いから離脱する。


「その小柄で、この蹴りか。貴様、身体を弄っているな」


「…………」


 ルルックが、無言でランベールを睨む。


 ルルックは『笛吹き悪魔』とは全く別の、王家より生体実験を隠れて行う錬金術師団の実験体となっていた過去があった。

 そのために小柄であるが、恐ろしく身体能力が高い。

 また、身体を弄られ続けた結果、身体機能が壊れ、成長が完全に止まっていた。

 既にとうに少女の年齢ではないのに、未だに幼い姿を保っているのは、そのためであった。


 その錬金術師団は既に教会の異端審問会の手によって焼き滅ぼされており、彼らの魔の手は実験体であった被害者ともいえるルルックにまで及んだが、彼女だけはどうにか逃げ切り、『笛吹き悪魔』で功績を積み上げ、八賢者の一人になったのだ。


「あはぁ、思ったよりやるみたいだけど、そんな程度で私達に勝てると思ってるなら、勘違いもいいところね」


 言いながら、ルルックが真紅の杖を構え、円を描く様に振るう。


「我が声に応え、物界より来たれ、踊る断頭台ポルターシザー」


 魔法陣が展開される。

 両の刃にそれぞれ三つの目玉の付いた、巨大な鋏が宙に浮かび上がる。

 

「召喚魔術か、面倒だ」


「あはっ、おにーさん頑丈で強いから、ちょっとばかり本気で行こうかな? もっとも、頑丈さなら私も負けないんだけど!」


「女子供相手とは、気が進まんのだが……」


 ポルターシザーが、回転運動をしながら、素早い動きで、ランベールの周囲を移動する。

 自在に飛び回るポルターシザーと、ルルックの超人の域にも及ぶ体術の二つを受けて、無事で対応しきれるものは滅多にいない。

 だがルルックは、ポルターシザーに慎重に間合いの外を飛び回らせた。

 自分の三連蹴りをあっさり防いだ時点で、ランベールには嫌なものを感じていた。


「いつ攻めよっかなぁ……いーち、にーの、さーんの四っと!」


 ルルックも姿勢を屈めてランベールの周囲を横に移動し、ポルターシザーと完全にランベールを挟み込む位置になったところで動いた。

 ポルターシザーはこのとき、完全に死角に入っていた。


(もらった……!)


 そう考えた瞬間、ポルターシザーが大剣に圧迫されて地へと叩きつけられ、粉砕させられた。

 罅割れ破片が飛び散り、光を灯してポルターシザーが消える。


(嘘っ、完全に、死角だったはずなのに!?)


 ルルックはまずいと思い、後ろへ跳ぶ。

 だが、すぐさま前に出て来ていたランベールがルルック目掛けて大剣を振り下ろした。


 後ろへ跳び続け、壁に貼り付いてランベールの攻撃から逃れる。


「あはっ、いやーびっくりした。でも、私は無傷……」


 次の瞬間、ルルックの面に縦に亀裂が入った。

 ルルックは指で、面にできた溝をなぞる。


(あれ以上近かったら、回避の術がなくこの私が斬られていた……八賢者の中でも、近接戦闘特化のこの私が、ルルック・ルルック様が……!)


「気が進まんが、お前が八賢者だというのなら、ここで始末させてもらう」

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