1章 8話 お迎えですか、そうですか
動けなくなってまた数日が経った。
今回はキノコに果実といくらかは持っていたから大丈夫と思っていたが、
そのキノコがいけなかったみたいで、
キノコを口にしてからは、下痢と嘔吐に変わり、
身体中が痛み出して、本当に動けなくなってしまったせいだ。
なにが安全な食料なんだか。己の知識の浅さに笑ってしまう。
前世の書籍からの知識だが、派手なキノコは毒をもつものが多く、
地味なものは、毒もちが少ないというのを、鵜呑みにしてしまったせいだ。
今回は嘔吐のせいで、食べること自体が出来ず、果実の水分を吸いだすのが精いっぱいで、
腕や脚などもほっそりと、樹のうろから出た時の半分くらいに、身体がやせほそってしまった。
再度復調し動けるようにはなったものの、以前ほどの力強さは無く、
走るといっても、歩く速度と変わらないぐらいに落ちている。
食料庫代わりの木の枝も成っていた実はすべて食べてしまったので、
枝を落として杖として、当てもなく森の中をさまよい始めた。
体力の低下が大きく、今までと同じ虫を見つけても捕まえることが出来ない。
地面は落ち葉ばかりで、食べられそうなものは無く、木の実も見つけることはできるが、
高いところに成っているので、衰え著しい今となっては採ることどころか、
樹に登ることすら難しくなってしまっていた。
食料を探して歩き回ること1日、ついには歩くことすらできなくなり倒れこむ。
動けなくなり、空腹感でお腹が警鐘を鳴らすものの、思考は無駄に鋭敏になる。
ここはどこで、なぜこんなところで一人ぼっちなのだろうか。
どうして僕は転生をしているのだろうか。
絞首自殺した罪なのだろうか。
今度は飢餓を受けているのだから、やはりここは地獄で、
親と思った鬼は閻魔様の手下達という事なのだろうか。
転生と思っていたのは、実は地獄に行っただけなのだろうか。
どうにも思考が悲観的なものになってしまう。
生前は無神論者であり、キリスト教も仏教も信じてはいなかったのに、
こういう状況では未知で無知なものでも、神にすがるという事なのだろうか。
諦めが思考の大半を占め、次は何の苦しみを受けることになるのやらと考え始めていたころに、
ガサガサッ、っと枯葉を踏みしめる音が聞こえる。
誰かが近くに来たようだ。
でも、僕にはもう声を出すことすらできなくなっていた。
僕はその近寄って来た者に見つかり、いきなり担ぎ上げられてしまう。
なすすべなく、抵抗もせずに運ばれていく。
どこへ行くというのだろうか。でも、考える気にならない。
もう、眠ってしまって良いだろうか。
眼を開けていることも、考えることも億劫になり、何もかも放り出してしまいたかった。
そのまま、意識も手放してしまいたかったが、ぎりぎりのところでまだ保ってしまった。
いや、保たされてしまったというのが正しいだろうか。
歩く歩調で、そのたびに呼吸がつまり
「ウッ、ウッ」
とうめき声が漏れてしまうが、運搬者は意に介さず歩き続ける。
この呼吸のつまりで、意識が呼び戻されるのであった。
小一時間経っただろうか、僕はどこかに投げ出された。
ようやく動かされることが無くなったおかげか、呼吸も落ち着き、
そのまま意識もおちてしまった。