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あぶれもの  作者: 咲紋 朱巳
幼少期
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1章 4話 木の上にいた先人

ようやく住処の大樹のてっぺんまで登り切った僕は驚いた。

そこにはすでに誰かがいたのだ。

それは、背中に翼を生やした有翼人であった。ちょうど羽休めをしているようで、羽の繕いをしているようだ。

その羽翼は真っ白であり、人だった頃の本の挿絵に描かれている天使の姿に見えた。


いえ~あきれいだ


声のせいだろう、翼人が振り返り、僕に気付いた。

少し驚かれたようだが、特に逃げられも、威嚇や攻撃してくる訳では無い。

じっと見つめられてしまい、僕は恥ずかしいのか、顔が赤くなっているのがわかるくらい、火照ってきた。


視線が合った。吸い込まれるように魅入られて、それこそ、

まばたきも忘れてしまったかのように見つめ合ってしまう。

どんどん体温が上昇しているようで、

頭もフワフワして考え事も出来ない。

ただただ綺麗だと、眺めていたいと思っていた。


「こんにちは。ここの風は心地良いわね。貴方も風を受けにきたの?」


どれくらい見つめあっていたのか?

唐突に翼人が声を発した。

我に返ったものの、どうしていいかわからず。


「う〜〜〜」


と、勝手に出てしまったうめき声を返すのが精一杯だった。

何故だろう。言われた言葉がわかった。

自慢じゃ無いけど、僕は日本語と、英語が少し、中国語がわずかにわかる程度だったのに。

疑問はさておき、声を上手く出せない、ここの言葉を話せない。

残念な気持ちと悔しさで口をへの字にしたまま、やはりうめき声を出すことしか出来なかった。

それでも、翼人の彼女は気にしていないようで僕に声を掛けてくれる


「上がってきたら?こっちの方が心地良いよ」


僕は嬉しくなって、急いで登って行こうとして、

慌ててしまったため、足を滑らせ根元まで落ちてしまった。


落ちた時の衝撃や、その痛みなど全く気にならなかった。

それほどまでに翼人の美しさに魅入られていた。

僕は彼女を勝手にアテナと呼ぶことした。

そのアテナに会いに行こうと、再度木登りしようと思ったのに、

腕が上がらない。立ち上がるのもバランスが悪く、うまく立ち上がれているように思えない。

実際のところ、僕の左腕の骨は折れてしまっていた。全身は打ち身、打撲で満身創痍である。

木登りができない以上、アテナに会えない。

その悲しみが、自然と啼き声として発せられる。

その場から動けず、倒れ込んだままでいたが、アテナを視界に入れることはなかった。


ふと背後に気配を感じて振り返ると、いつものようにグリンがいて、

期待外れにがっかりし、余計に落ち込んだ泣き声がでた。

それからすぐにいつもの睡魔がやってきて眠りに落ちることとなった。


僕はそれからよく声を発するようになった。

そして、それを聞きつけた母鬼が言葉を教えてくれるようになった。

そのせいか、今まで居たり居なかったりした母鬼がいつもそばに居てくれるようになった。

言葉を覚えるのも悪くはなかったが、腕が治ると、また木登りをしたくて。

いや、アテナが上にいるのではないかという気になって、

上を見上げては、ぼーっとしてしまうような事が度々起きるようになった。

そのたびに、母鬼に注意されて、注意した母鬼が悲しそうな顔をするのが、

どうしてそんな顔をするのかわからず、また、そんな顔するくらいなら、

注意なんかしなければ良いと考えてしまい、たまらなく嫌だった。


いま、この時はわからなかったけど、後にわかったことだが、

木登りをして、また落ちて、ケガをするのではないかと心配してくれていたのだった。

これを知って、自分の浅はかさ、短絡的思考を反省するのであった。


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