1章 3話 木登りにチャレンジ
ここが森だということはわかっている
緑色(名前がないのは不都合なのでグリーンと呼称することにしよう。)にはすぐ捕まるせいで、
外に(遠く)に行くことは出来ない。その上、起きている時間も少ない。
身体はすくすくと成長しているようで、グリーンよりも大きくなっている。
だがそれだけだ。日々、グリーンとの追いかけっこをしている毎日で、
すぐに捕まっていたものの、たまに出し抜ける程度にはなったが、やはりあまり離れることは無かった。
少しづつだが、強烈な眠気が薄まってきたので、木登りにチャレンジしてみた。
ココの森の木々はどれも立派なものが多く低いところに枝が出ているものが少なかった。
そして強烈な眠気により途中で眠ってしまい落ちることが怖かったせいで試してはいなかった。
上り棒の要領で手を伸ばして握力を使って上り、両足の締め付けによって体を固定し上を目指す
頭でわかっていても足の締め付けが弱いのか、体が固定できず、ずり落ちてしまって全然登れなかった。
これで、筋力UP、特に脚力を上げなければいけないことが課題として見つかった。
僕が外に目を向けることがなく樹にしがみついているせいか、グリーンも若干退屈そうに、
遠目で監視するような、いつもと違うことを始めたことで異変でも起きているのか心配しているような、
不思議な視線を送ってくる。
樹にしがみつき動かなくなり、考え事を始めついには眠り始めた僕をグリーンはじっと見つめていた。
次に目が覚めたときは、なぜか母鬼に抱かれていた。すぐそばには父鬼もいた。
普段と違うが、どうしたことだろうと考える間もなく、起きたことに気付いた父鬼に抱き上げられ、
上空にほうり投げられてはキャッチされ、を繰り返し数回された。
何が起こったのだろうか。驚き戸惑ってしまった。父鬼が僕の顔色をうかがっている。
僕が何もリアクションを起こさないことに気落ちしてしまったかのように、
スゴスゴと、背中を丸めて離れていった。
本当になんだったのだろう。よくわからなかった。
数日間、木に登ることを目標に定め、住処の木の周りを走り回ったり、
筋トレとして腕立て伏せをしてみたり、スクワットをした。
そして、木登りに再チャレンジ。何が変わるというのか、当然ながらまだ登れない。
それでも、あきらめずに続ける。今回は絶対にずり落ちないという気持ちを込めて、再度木に登り始めた。
変化はあった。2登りといったところだろうか、少しだけ進んだ。
疲労感が大きく、そこでまたずり落ちてしまったのだが、
樹を掴んだところや足を使って巻き付いていたところに凹んだような不自然な跡がついているのだ。
これは何だろう。観察しようとしたが、今回はそのまま気を失った。
再び目を覚ました時、先ほどの樹の跡を確認してみる。
やはり僕がつけたもので間違いなさそうだ。
では、と思い再度木に登ろうと手を掛け、足を絡ませるが、特に跡はつかない。
違いが判らない。少し登ってみるが、特に変わらない、そしてすぐにずり落ちてしまう。
気持ちの問題か?前回同様絶対にずり落ちないことを念頭に登り始める。
するとどうだろう、今回は5登り目まで行って、気を失った。
気持ちを込める、この込め方次第で力の出方が変わるのかな?
よくわからないままではあるものの、数日間また木登りのための肉体強化訓練?運動?と
木登りのチャレンジを続けていた。
僕がつけた手や足の跡で、まっすぐそびえたっていた樹は
変な模様が表面に施されたオブジェのようになってきた。
こうなると手を掛ける場所も足を掛ける場所もあり、ようやくではあるが、
枝の伸びる幹のところまで登ることが出来た。
いったん休憩し、再度登りはじめようとしたとろで、下にいるグリーンが騒ぎ出した。
戻ってこいと言っているようだが、せっかくここまで来たのだ。
聞く気はなく、再度登り始めた。
そこからは今までとは違い、幹や枝など足場がある。
簡単にスルスルとてっぺんまで登りきった。
そこには、先客がいた。