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九日目 決断出来るか出来ないか

 竜也の退学事件があった翌日の早朝、竜次は生徒会室である人物()を待っていた。

 竜次がただ何となくで煙草を吸いながら空を見上げていると、ゆっくりと生徒会室の扉が開いた。

「……よう、やっと来たか。遅かったな?」

「此方はホームルームをやっていたんですから、仕方ないでしょう」

「そうだよー! そもそも、約束の時間がホームルーム終了と同じってどういうことさー!」

「あ、悪い悪い。ホームルームのことは思いきり忘れてたわ」

「……今後絶対に忘れないでください。一応でも教師なんですから……」

「そんで? どうして俺達を呼んだんだよ、竜次サン?」

「…………んなもん、用件は一つしか無いだろ?」

 一人が代表するように首を傾げながらそう問い、竜次は目を細めて約束相手――竜也を除く生徒会役員五人を見た。


「お前達は、最終的に竜也を一体どうしたいわけ?」


 その質問だということは、何となく予想は出来ていて――でも、それぞれが納得出来る答えを未だに出せていない質問だった。

 しかし納得出来ていないにしろ既に答えが出ている東真は溜め息をつき、そして真っ直ぐに竜次のことを見た。

「当然、俺は竜也の退学を取り消して、そんでもって竜也が構わないなら、生徒会に戻ってきてほしいと思ってますよ?」

「……ま、東真はどうせそうだろうと予想は出来ていたがな。でも、言いたいことも特にねーよ。お前は、もし出来るならその意思をずっと貫けば良い」

「竜次サン、そこは『もし出来るなら』じゃなくて『絶対に』って言うところっすよ!」

 東真はそう言って無邪気に笑うと、有言実行と叫びながら竜也に会いに生徒会室を去っていった。

 そんな東真を見て竜次は困ったように笑うと、再び鋭い目付きで残りの四人を見た。

「東真はああ言っているが……それでも、お前達は悩むんだな」

「……うるさいなあ。あたしは東真と一緒に竜くんに会いに行こうかどうか悩んでるだけだもん」

「ふーん……と、いうことは?」

 竜次がそう言って不敵な笑みを浮かべると、彩花は頬を膨らませながら敵対するように竜次を見て言った。

「あたしはぜーったいに、竜くんを取り戻すんだから! 生徒会が無理だとしても、退学は何がなんでも取り消してやるんだから! 竜ちゃんのばーか! 鈍感野郎!」

「おいっ、何ちゃっかり罵倒してんだよ!」

 彩花はそう叫んで舌を出すと、そのまま一目散に生徒会室を飛び出した。

 竜次は罵倒されたことに怒りが湧いてきたが、それよりも大事なことがあると言い聞かせて三人の方を向いた。

「とりあえず、まあ……あいつに関して色々と文句を言いたいところだが……その前に、お前達の答えを聞いておこうか」

「「「…………」」」

 正直、三人はよくわかっていなかった。

 確かに竜也が生徒会に居てくれれば、自分達を捕らえている過去から救ってもらえるかもしれない。

 だけどその反面、薫はあの時言ってしまった言葉のせいで、風真と優奈はあの時自分がした行動のせいで、自分の中にあるプライドが邪魔をするのだ。

 俯いて言葉を発しない三人を見た竜次は、溜め息をついて立ち上がった。

 ――やっぱこの三人には聞いても無駄なことだったのかもな。

 竜次はそう思いながら三人の横を通り過ぎて、生徒会室から去ろうと扉に手をかけようとした、その時だった。

「ほ、放課後っ! 放課後まで、待ってくれませんか……!? その時までには、きちんと答えを出しますから……!」

 そう必死に叫ぶ、風真の声が聞こえてきた。

 本当だったら待つ気はない。そんなに時間をかけないと出せない答えなんて、後に心変わりするかもしれないから。

 でも、それでも、竜次は求めている答えをくれるかもと、何処かで期待していて。


「……放課後までな」


 小さく、そう呟いた。







「……どういう、つもりかしら?」

 竜次が出ていって三人だけとなった生徒会室な薫の凛とした声が響き渡った。

 しかしその声は若干だか震えており、風真は薫も決断するのが怖いのだと、そう悟った。

「どういうつもりも何も……僕はきちんと答えを出す、それだけですよ」

「……その答えが、小さくても過ちだったらと、そう考えないのですか?」

 今度は、優奈の控え目な声が浸透した。

 それを聞いた風真は止まりかけている思考を必死に動かし、きちんと理解してもらえる言葉を紡いだ。

「……確かに、その答えが間違いだったら、そう思うと怖いです。もし間違いだったら、今後の信頼も無くなるかもしれないですし……」

「じゃあ、どうして」

「……彼と、これから卒業するまで一緒に過ごしたい、そんな欲があるんです。どうして、こういう時に出てくるんでしょうね?」

「…………」

 そう言って悲しげに微笑む風真を見て、二人は何も言えなくなってしまった。

 風真の欲するものは、何時だって最後には必要になるようなもの、問題で例えれば、ヒントのようなものだった。

 その事実は揺るぎない真実だった。それは付き合いの短い優奈だって承知している。

 だけど、今回ばかりはその欲には頼れない。自分自身で導き出さなければいけない答えなのだ。

「……お先に失礼するわね」

「私も、失礼させていただきます」

 結局風真の言ったことに何も返せなかった薫と優奈は、そう言って生徒会室から出ていった。

 それを見届けた風真は、溜め息をついて壁に寄りかかった。

「…………まあ、結局はどっちにしようか決まっていないんですけどね」

 風真は何かを思い出すかのように遠い目をし、そして、悲しげに呟いた。







 この時、東真と彩花は宣言した通り竜也の居る教室へと来ていた。

「竜也ー! 遊びに来たぜー!」

「今回はあたしも遊びに来たよー!」

「遊びに、って……もうすぐ授業始まるんですけど? というか、既に先生が来てスタンバイしているんですけど?」

「「そこは気にしない!」」

「宮野、多田出……先生の前でいい度胸だな……あぁん?」

「げっ! 竜也のクラス、むっちゃんだったのか!?」

「うっそ、なにそれ最悪ー!」

「よーし! お前達は今からグラウンド五周、全速力で逝ってこい!」

「「すみませんでしたーっ!」」

 【通称:むっちゃん】というあだ名がついている独身教師、撫養原(むやはら)汀良之(てらゆき)にそう言われ、東真と彩花は直角九十度でお辞儀をし、そのまま全速力で去っていった。

 それを見届けた汀良之は、呆れながら二人を見ていた竜也へと声をかけた。

「翠川、お前も大変だな」

「労り感謝します……まあ、慣れているといえば慣れているんですけどね」

「悲しい慣れだなおい」

 汀良之はそう言うと、授業を始めようと声を張り上げた。だから、気づけなかった。


「――――本当、慣れちゃっているんですよ。見守る『傍観者』という立場が」


 そう呟いた竜也の表情が、悲しく歪んでいることに。



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