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八日目 衝撃的な宣言

「こんちわーっす!」

「え、えと……し、失礼します……」

 生徒会室に、やけに清々しい顔をした東真と、顔をひきつらせて東真を見ている竜也が現れた。

 そんな二人を見た生徒会役員四人は、当然の如く目を見開いて硬直する。

 薫は咳払いをすると静かに席を立ち、二人に近付いた。

「…………ごめんなさい、ちょっと説明してくれないかしら? 二人に一体何があったの?」

「んー? 犯されかけた竜也を、俺がヒーローのように華麗に助けた!」

「あれの何処が華麗なんですか、あれの何処が。俺は東真先輩の馬鹿さに呆れました」

「あーもー、意味がわからないよー!」

 東真と竜也の主張に頭が混乱した薫は溜め息をつき、彩花は考えることを放置した。

 その後ろにいた風真と優奈はこの話に関わることすら止めようと判断したらしく、イヤホンを耳に付けて聞こえないふりをしていた。

 そんな風真と優奈を見た竜也はこのままでは誤解を招くと思ったのか、頭を掻きながら口を開いた。

「要するに、東真先輩が馬鹿だと理解出来たということです」

「ええ、それはとっくの昔に知っているわ」

「何だよ竜也の裏切り者ー! 犯されるのを阻止してやったっていうのによー!」

「ねーねー、その『犯される』っていうのは一体何なのー?」

「そうね、先ずはそれから話してちょうだい」

「はーい!」

「…………はーい……」

 薫の言葉を聞いた東真は勢いよく手を挙げて返事をし、竜也は渋々という感じで呟くように返事をした。







「その五人は退学決定ね」

 あの短時間で起きた出来事を東真が話すと、薫は軽く頷いてから、軽々しくその言葉を口にした。

 すると横で今の言葉を聞いていた竜也は目を見開き、机に手を付けてから勢いよく立ち上がった。

「退学って……こんな事で退学にしちゃうんですか!? おかしいでしょう!」

「おかしくなんてないわ。事を荒立てた者には、それ相応の処罰が必要。世の中、そういうものでしょう?」

「それは、そうかもしれない……けど、それでも!」

 何としてでも退学を取り消そうとする竜也を薫は一瞥し、溜め息をついてから呟くように言った。


「じゃあ、五人の代わりに貴方が退学になる?」


 この言葉を聞いた竜也は目を見開いて呆然とした。そんな竜也を庇うように東真が前に出る。

「おい、薫!? お前、何言ってんのか理解してんのか!?」

「勿論理解しているわよ?」

「だったら何でそんなこと言うんだよ!? 竜也は立派な被害者なんだぞ!?」

「確かに彼は被害者なのかもしれない。でも――」


 ――そんなの関係無いでしょう?


 透き通るような静寂。

 室内にたった一つ響く時計の音。

 部活をしている生徒の声。

 そんな当たり前の事が、今は竜也にとって――ただの苦痛でしかなかった。

「…………わ、かり、ました……」

 一斉に小さく聞こえてきた声の方向を向くと、そこには俯いて両手に拳を作っている竜也の姿があった。

 さっきの言葉はどういう意味なのか。それを確認する前に、竜也の大きな声でかき消された。

「俺が退学になれば良いんでしょう!? だったら、俺があの五人の代わりに退学になります!」

「えっ……?」

「ちょっ、竜也!? それ本気かよ!? それに、俺の話もまだきちんと話して――」

「短い間でしたが、ありがとうございました! 失礼します!」

「おいっ、竜也! 待てよ!」

 東真の言葉を遮って竜也はお辞儀をして踵を返した。その竜也を東真は逃がすまいと、慌てて立ち上がる。

 そしてその発端となった張本人である薫は、ただ呆然と竜也のことを見ていた。その心にある感情は――疑問と焦り。


 ――どうして彼は襲われかけたのに、襲おうとした人達を助けようとするの?

 ――どうして彼は、あんなにも公明正大なの?

 ――どうしてあんなにも簡単に『自分が退学になる』なんて言えるの?


 ――どうして、私は……彼に居なくなってほしくないと思うの?


「まっ――」

 薫は慌てて言いかけた言葉を無理矢理呑み込んだ。

 どうして『待って』と言おうとしたのだろうか。薫は自分自身がよくわからなくなってきていた。

 しかしそんな薫の様子に気付かない竜也は、走れるように荷物を抱え込んで生徒会室の扉を開けようと手を伸ばした。

 そしてその手がドアノブに触れて、開けようとした――その瞬間だった。


 何故か竜也が開ける前に、扉が勢いよく開いた。


「は?」

「え……うわあっ!?」

「おっと」

 そのせいで倒れかけた竜也を、扉を開けた人物――竜次が反射的に支えた。そしてそのまま軽々と持ち上げる。

 竜次は薫達の方を見て無言で中指を立てると、何事も無かったかのように生徒会室を去っていった。

 再びの静寂。鳴り響く時計の音。聞こえなくなった生徒の声。

 この静寂は、叫び声で破られた。

「しまったああああああっ!」

「逃げられたあああああっ!?」

「誘拐だー! 犯罪だー!」

「…………ですね」

「だからって、何も叫ばなくても……まったく……」

 風真がそう呟くと、薫と東真はわざとらしく咳払いをしてから自分の席へと座った。

 すると東真は何かを思い出したのか声を洩らし、薫を睨み付けるように見た。それに気付いた薫は無表情で東真を見る。

「……何かしら?」

「……さっき、お前も叫んだよな? だったらどうして『代わりに退学になる』なんて言ったんだよ?」

「……どうして、かしらね?」

「は?」

 今度は訝しげな目を向ける東真だったが、薫は無表情のまま窓の外の景色を見た。

 その目は、疑問と焦りと悲しみと後悔が混じったような、そんな感じだった。

「本当、どうしてそんなこと言っちゃったのかしらね?」

 皮肉のように、薫は嘲笑しながら言った。







 車内で、竜次はとんでもない言葉を耳にした。


「俺、学校退学になった」


 竜次は無意識に車を寄せて停め、そのまま竜也の頬をつねっていた。

「いてっ!」

「あ、悪い。つい反射的に」

「…………」

 竜次が気付いて慌てて謝ると、竜也はわざとでないと理解したのかただ黙って頷いた。

 それを見て安堵したが、竜次の頭からはどうしてもさっきの言葉しか出てこなかった。

「竜也……さっきのって、一体どういうことだ? どうしてそんなことになったんだ?」

「え? あ……そっか、父さんはあの場に居なかったんだっけ」

 竜也はそう言うと、小さな声で説明を始めた。この時目線は外に向かれており、竜次と目を合わせることは無かった。

 説明を聞いた竜次は呆然としながら竜也を見ており、何か言おうにも言葉が全く出てこなかった。

 それを見た竜也は溜め息をつきながらハンドルを軽く叩き、運転するように促した。

 その指示を見て竜次は慌ててハンドルを握り締め、ゆっくりと体重をかけながらアクセルを踏んだ。

 再び運転を始めた竜次は横目で竜也を見た。その顔には感情が表れていなく、竜次は思わず強くハンドルを握った。

 ――まさか、こんなトラブルが起きるとはな……全く予想していなかった。

 竜次は冷や汗をかきながら、敢えて何時も通りに振る舞いながら竜也に話しかけた。

「そんで? どっかの学校に転校、とか考えてんのか?」

「いや……特には。このまま自宅警備員になっても良いかなと思ってる。そうすれば家事とか出来るし、趣味にも没頭出来るし」

「自宅警備員……て、言い方を変えたらニ――」

「そこから先言ったら事故に遭わせるぞ」

「はいすみませんごめんなさいそれは勘弁マジ勘弁本当に勘弁して!?」

「……わかったから」

 竜次は苦笑しながら竜也の視線を逃れ、きちんと前を見て運転しながら竜也に問いかけた。

「じゃあ、明日とかはどうすんだ? まさか休むとかじゃねーよな?」

「んー……いや、一応行く。もしかしたらまだ退学って伝えられてないかもしれないし」

「ふーん、そうか……」

 正直、竜次は『生徒会室には行くのか』と聞きたくなった。だけどそれを言う直前に力一杯口を閉じる。

 こんな質問、聞けるはずもなかった。それに、聞く必要もない。

 そう、行くはずがないんだ。今日『退学する』と言ってしまったのだから。

「…………仕方ない、か」

 竜次は自分すらも聞き取れないくらい小さな声で、そう呟いた。







 その日の夜、竜次は竜也が熟睡したのをきちんと確認してから部屋へ入り、静かに携帯を弄り始めた。

 弄っているのはメール送信画面。そして送り先は全部で五件。

「うし、これで一斉送信して……と。よし、完了だな」

 竜次はそう言って携帯を机に置くと、そのまま着替えずにベッドに横になる。

 そして一息つくと、一気にやって来た睡魔に身を委ね、そしてそのまま目を瞑った。


 ――さあ、お節介の始まりだ。



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