何んにもない
ひとりきりの後悔
ふりしきる重い空
澱んだ耳鳴りと遊ぶ
八ノ字の不安とともに
一休みするともう帰れない
すでに続かない意思疎通
誰のための現実のなかで
忘却の数を数えて
記憶の破片を集めて
日常にくくりつけた刃で
醜い恋の骨を切り裂いて
奥から流れだすのは愛染めの内臓
毒の羽根を飾った黒髪を
はらりとふりほどいた先に
紅蓮に染まるこの手のひら
やがて天に葬られるだろう躰で
この血のように赤い月
呼吸音が乱れ
逃れることのできない
喪失の森に潜ったように
星影に死んだ恋人よ
慟哭の零れる笑顔で
感情を潰して生きてきた
役に立たない強さは殺して
無気力に呑まれたまま気が付かず
時の流れに脅えなくとも
色んなものが朽ちていく
意味のなくなる世界の空を見つめて
慈しむように祈るように
指を曲げてみたけれど
湧き出すのは一種の崩壊感
君の代わりがいないのならば
虚脱の夕暮れを浴びて
全てを許せるだけの力はなくて
輪郭のないとまどいを
無意識では感じていて
名前なんてなくてもいい
閂を閉ざしたままで
誰であろうとこの地獄の門は開かない
このまま存在が薄れていくだけ
頬に風が薙いだ
次の開闢を廃止し
過ぎし日の傷痕を絶って
懐かしき雛はもう孵らない
無為に繰り返す日々
埃の積もる心のなかで
一人が怖くても
無期限に永い延命
償いも心臓も命さえも玩ぶ
救われない痛みを負って
眠りの森にいつまでも
かよわき君の骸と
神になった一人の少女を
気の遠くなるほど抱きしめて
もはや何んにもなくともかまわない
いつか斃れたとしてもそれでも