星に願いを・2010
『空想科学祭FINAL』に合わせて、【七夕一人企画】の過去作品を一挙に公開!
こちらの作品は『星に願いを・2010』で、二〇一〇年七月七日に公開したものです。
「サー、お望みのモノがやっと手に入りますね」
私は、サーにそう申し上げた。すると、サーはゆっくりと深くうなずいたが、その反応は簡潔だった。
「あぁ、そうだとも」
SSRRのディスプレイに赤く輝く点が、我々の機影であるグリーンポイントに近づいてくるのを、私はサーと一緒に見つめていた。
「さぁ、捕獲準備だ。急いでくれ」
サーは赤い点を見つめたまま、私にそう指示をした。
「かしこまりました」
サーに一礼して、私は後方の操舵室へと向った。
操舵室の操縦ブースに身を沈めた私は、SSRRで確認した方向に視線を向けた。すると、かすかに鋭く輝く白い光を見付けたのだった。
「サー、目視で確認しました」
私は、装置の操作をしながらサーに報告した。
「そうか、それは思ったより大物ってことだな」
しばらくの沈黙の後、サーは私に指示を出した。
「それでは、作戦通りに動いてくれたまえ。…いや、相手は予想より大きいそうだ。もう一度、計測観測をしてくれ」
サーの言葉に私は従った。
「分かりました。早速、測定を開始します」
私の返事に対して、サーは労うように言った。
「悪いな」
私はすかさず返した。
「とんでもありません。サーの思し召しのままに」
サーからの返答は無かった。私は続けていた操作作業に集中した。
「サー、相手は我々の予想値の二・七倍でした。如何致しましょう?」
私は、サーがどう答えるかは予測できていたが、あえてサーに報告と同時に問い掛けをした。
「なに、二・七倍だと! 我々のキャパシティを僅かに超えているじゃないか。…しかし、こんなチャンスはもう二度と無いぞ。何とかならんのか!」
私は、用意していた答えを吐き出した。
「少々手荒な方法で、力を削ぐしか無いかと」
サーは口に手を当てて思考にふけっていたが、意を決したように私の顔を注視した。
「分かった、そうしてくれ」
サーの言葉に対して、私は深く頭を下げた。
「…このように、G-ショットの弾幕で進路をかく乱します。その後は作戦通りに、磁力線ネットにて捕獲します」
私は、サーに変更した作戦を説明した。
「相分かった。それで作戦プログラムの変更は?」
サーは作戦図を見たまま、私に問い掛けた。
「既に終えております。もう間もなく、相手は射程圏内に到達すると思われます」
私がそう言い終わると、サーは立ち上がって言い放った。
「よし、作戦を開始する!」
私はお辞儀をして応答した。
「了解しました。直ちに作戦行動に移ります」
「磁力ネットランチャーを射出、捕獲定位置に展開中。サーは、我々の針路を監視してくださいませ」
私は砲術ディスプレイで操作したまま、サーにお願いをした。
「相分かった。私も腕に覚えがある。回避行動ぐらいは任せておけ」
力強い言葉を発したサーの顔をチラッと見て、私はうなずいた。
「頼もしゅうございます。よろしくお願いします」
「ランチャー、展開終了。G-ショットを装填」
私は、サーが緊張し始めたのを感じていた。
「いよいよだな」
サーの緊張を余所に、私は刻々と変わる状況をサーに伝達していた。
「相手はG-ショット射程圏内に進入、かく乱プログラムスタート。フルオートでG-ショット弾を発射します」
断続的な振動と音が操舵室にも伝わってきた。
「おぉ、相手は進路を妨害されて翻弄しているぞ」
SSRRを監視していたサーの口からつぶやきが聞こえた。
「サー、相手の動向はどうですか?」
SSRRの注視しているサーに私は聞いた。
「ちょっと待ってくれ。いいぞ、予定通り一・九倍になったぞ」
サーは嬉しそうに私の顔を見た。
「それでは、G-ショット第二波を発射します」
相手は翻弄されながら、我々の仕掛けた磁力ネットに進んでいた。
「あと、五分で先端がネットに入るぞ」
元気だったサーの声が、急にトーンダウンした。
「おや? 進路を変更したぞ。G-ショットが効かないぞ。磁力ネットの一部が崩壊。ランチャーが破壊されたぞ」
サーは急に焦りだした。私はすぐに作戦サポートに切り替えた。
「相手が再び大きくなりました。只今二・二倍。このままでは、こちらも被害を被ります。サー、ここは退却しましょう」
だが、サーはビビリながらも意志を曲げなかった。
「いや、こんなチャンスは滅多に無いのだ。最後まで努力しろ」
私は、サーに従うだけだ。
「御意。ランチャーを追加射出。直ちにネットを展開。こちらに向ってくるのだけは避けなければ」
だが、相手の勢いを止められなかった。
『我々を行く手を邪魔するのは誰じゃ?』
相手が我々の宇宙船の前で止まった。相手は光り輝く"天女たち"だった。
私とサーは黙って様子を見ていた。喋ったり動いたりしてはいけないのだ。それがこの状況を打破する、唯一の手だった。
『答えぬのか?』
光り輝く"天女たち"は赤く染まり始めた。
『誰も居らぬのか?』
私はただただジッとするしかなかった。
だが、サーはその美しさに見惚れてしまったようだ。そして、遂にサーは声を漏らしてしまったのだ。
「あぁ、美しい」
すると"天女たち"は急にブルーに染まった。
『そこに居たのね!』
サーはガタガタと震えたと思うと、頭を垂れてグッタリとしてしまった。
『そこの者、確かに受け取りましたぞよ』
私が何も応えずジッとやりすごした。
『しかと伝えましたぞぇ。では…』
そう言うと"天女たち"は白く輝きながら、一瞬のうちにはるか遠くへと移動し、星々の中に消えていった。
サーの身体は既に冷たくなっていた。
サーの意思は、星々の中に織り込まれてしまったのだ。
時々まことしやかに噂されていた「織姫の伝説」を、私は何度も目の前で見ているのだ。
彼女達"天女"が狩られるフリをして、男達の意思を星々へと昇天させていくという噂を。
私はまた、この星域に来るだろう。
"天女たち"に貢ぐために。
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初出:ライブドアブログ『憂鬱』「星に願いを・2010」二〇一〇年七月七日