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第1話「シンデレラみたいには・・・いかない」

「いつか見返してやる」

シンデレラはそう思っていたのだろうか?

結果的に意地悪な母や姉を出し抜き、夜中の12時まで夜会に出るガッツのある娘は、結果的に王子と結ばれたが、一つわからないことがある。

どうして魔女はシンデレラに魔法をかけてくれたのだろう?

誰に聞いても、曖昧な笑みを返されるだけなので、AIに聞いてみると「シンデレラがどんなにつらい環境でも優しさや誠実さを失わなかったこと。魔女はそういう『内面の美しさ』に応えて、チャンスを与えた存在として描かれています」と教えてくれた。……それって魔女にメリットある?

いや違う。そんなこと考えている時点でアウトなんだ。そう、「いつか見返してやる」とか考えているシンデレラには魔女は来ないってことなんだ。

そうか。それなら俺のところに一生魔女は来ない。なぜなら俺は「いつか見返してやる」と考えているからだ。


俺が今いる所は日本であった場所で、もう日本じゃない。

日本は、理不尽な理由で大国の怒りを買い、長い海上封鎖の末、海外からの供給はゼロになった。次第に市民の生活は困窮し、武力行使も行えないまま、封鎖の解除を条件に大国の一部になることを了承したのだった。いまや日本は植民地である。

未曾有の少子化も相まって、外にはよくわからない言語で話す奴ばかりになった。今や、ここの地名は51番目の州「ニューニホン州」のニューキョウト市だ。

もう見つけるのも困難なくらい日本人は絶滅危惧種になった。失われたアイデンティティの幻影を追って「州立ニホン文化博物館」が建立された。俺の勤務先だ。


「重役出勤とは、いつの間にそんな()ろうなったんドス?」

いけすかない『悪魔』が無くなったはずのエセキョウト弁をふざけて使ってみせる。実は絶滅危惧種は日本人だけじゃない。あらゆる国の人間がいなくなり、いまや悪魔が政治や経済を牛耳っている。なんでこうなったのか?いつか話そう。

「いえ、自分は今日、昼出勤の日なんです。それで」

「生意気なんだよ、半妖怪風情が、一丁前に労働時間守ろうとすんなよ。俺達の為に働けw」

さすが悪魔、話が通用しない。唾を飛ばしながら顔を叩いて煽ってくる。ここは人間世界の支配階級をそのまま活用しているものの、政治や経済を円滑にするコミュニケーションはこの悪意に満ちた悪魔たちに徹底的に破壊されている。大国の大統領は悪意を振りまく大悪魔で、皆強いものに歯向かえない。

ここでの俺の仕事? 「州立ニホン文化博物館」はもともと、日本人が一生懸命紙の書物を集めていた施設だった。当時は娯楽として『マンガ』とかいうのが流行っていたらしいのだが、俺は見たことがないのでよくわからない。

どういうことか、ここに眠る書物に世界に関する重大な秘密があるらしい。大統領令でこの設備が作られたと専らの噂だが、おしゃべりが大好きで、ろくに仕事をしない不真面目な悪魔たちに、もとより調べる気はないようだ。奴隷扱いをされている俺達『妖怪』が酷使されている。特に半分妖怪、半分人間の俺は何かと嫌われている。

「へんな髪型」

「キモいから話しかけないでよね」

「半妖とか(くすくす)」

しゃーない。なんとか生きていけるだけましだ。嫌がらせもワンパターンだし、心を殺せば問題ない。とりあえず地下の収蔵庫の整理をするか。ただ……うっすらと息苦しい悔しさが、俺の心の下に流れている。

「いつか見返してやる」


「おい、今日はお前、家に帰るなよ」

「え? どうして」

「命令だよ。口答えすんな」

漏れ聞こえる会話によると、どうやら今晩は大統領がニューキョウト市に来たので、州知事が晩餐会を開くらしい。悪魔は妖怪を忌み嫌っているので、妖怪が歩いているのを大統領に見られでもしたら、この辺が焼け野原になる。

(ぜったい建物から出ないようにしよう)

俺はそう誓った。悔しい思いはあるが、それ以上に面倒事は大キライだ。

上司や同僚が周囲にいないので、割り当てられた部屋で適当に過ごすことにする。自分の心を押しつぶすのにはもう慣れている……が、数時間してさすがに飽きてきた俺は思わず口に漏らしてしまった。

「ああ……晩餐会に俺も行きたいな。そしたら大統領をぶっ殺せるのに」

するとどうだろう!? 悪魔たちが整頓すらしないまま無造作に重ね積まれた本たちの中から、一冊の分厚い本が床に落ちる。本は誰かが手繰ったかのように半分に開き、そこからメガネの老人が現れた。物理をまるで無視しつつ、紙面からよっこらせと巨躯を引きずり起こした。

「だ、誰だ?」

「あんまり時間ないから早く済ませましょう。ワタシは魔法使いです」

「え? ええええ!?」

「晩餐会に行って大統領を暗殺したいんでしょ? これをもって行きなさい」

 老人は物騒な事をにこやかに言いながら懐を探る。なんか長いものが、同じく物理を無視して繰り出された。

「これは……?」

「美しい太刀でしょ。童子切安綱どうじぎりやすつなといいます」

「暗殺に使うって……これで大統領を殺せと?」

「そうです。あんまり時間ないから、外にニューキョウト・シティバスを止めてあります。それに乗って行ってきてください」

「乗り物まで用意してくれんのか、まるでシンデレラだな。12時になると魔法が切れるのか?」

「……? 何言ってるのかよくわからないんだけど」

「有名な話だろ! わかれよ! あ、服。服はどうしたらいいんだよ?」

「服で態度を変える奴とは付き合うな!」

 老人の魔法使いに突然叱責される。なにしかの経験則だろうか。そんなことを言ったってこの世界にもアクマ・ドレスコードというものがあるんだから。

「いや、晩餐会だから! 会場に入り込めないだろ!」

「ないなら自分で作るか、借りてくるかどうにかしなさい」

「魔法で出せないのかよ」

「12時なると消えるよ?それでもいいの?いまもう10時だよ」

「ゲ!もうそんな時間かよ」

「事前に準備してないから困るんですよ」

「事前にこんな事になるなんて聞いてないから!」

「わかった、もう行くよ」

 魔法使いの出してくれた太刀は魔法の力?でミニサイズになっているので、それをポケットに仕舞って俺は部屋を飛び出そうとする。服はまあ、深夜営業しているレンタル・クローゼットからなにか借りていけばいいだろう。扉が閉まる直前に魔法使いは当たり前のように要求してきた。

「お土産は水分を含んだ物にして下さい。あと鶏肉は食べたくありません」

「土産とか無理だろ! 多分!」


「んだよ、晩餐会って『新みやこめっせ』でやんのかよ」

俺は仕方なく燕尾服をレンタルし、晩餐会に潜り込んだ。よくいれば大勢の中に上司や同僚もいる。できるだけ顔を見られないように距離を取りながら大統領の現れるであろう壇上を伺っていると、一人の男が俺にぶつかりかけた。名前はわからんが高級そうなスーツとドレスシャツの若い男だ。

「ねぇ、君なんかいい匂いするね」

「お、おいなんだよ急に!」

殆ど金色に近い栗色の髪に、引き込まれるというか、引きずり込まれるような青い瞳と白皙の顔。そいつは俺の首の後ろあたりを嗅ぐと、足元から頭の先までをじっくりと眺めて、微笑んだ。

「ね、僕と踊ってよ」

「は、踊り?」

礼儀正しく手を差し出されて、わけもわからず俺は硬直する。一瞬こいつの目、赤く光らなかったか? 社交ダンスのエリアまで無理やり手を引かれる。それとなく逃げようと思ったがなんとバカ力だ。

ダンスの曲がはじまり、青年も俺も『当たり前のように』ダンスを始めた。

(なんで俺踊れるんだ? 悪魔の魔法か!?)

「君……僕と相性がいいみたいだね」

「うっせー!」

(それにしてもなんかこいつ・・・気に入らない目つきしてんな・・・)

次の瞬間強制的に、滑らかな女側の動きでダンスを終えると拍手が湧き上がって思わず赤面してしまう。

(俺! 女の方じゃん! ・・・ちょ、ちょっと・・・夢中になって暗殺のこと忘れていた。いまのは魅了(チャーム)の魔法か・・・・クソっ!)


早くダンスのエリアから離れようと青年の腕を振りほどいた。

「お、おい君!」

名残惜しそうな声を無視して、足早にあちこちしばらく探していると、人混み、いや悪魔混みの隙間から大統領が見えた。女たちと大酒を飲んでにやついている。

「いた!」

思わず呟くと、これも魔法使いのサービスの一環だろうか。ブレーカーが落ちて会場の電気が消えた。

「そこだ!」

俺は暗闇の中、魔法で縮んでいた童子切安綱をもとの大きさに戻し、大統領に向けて投げつけた。


「それで?」

「外した」

「・・・・・・・・」

「あ、これお土産」

 俺は逃げ出しながら、入口のお土産コーナーにあった『来訪者お土産ボックス』を掴んで帰ってきた。バスは俺の搭乗を待っていてくれたが、途中でオオサンショウウオになって川に帰ったので走って博物館まで帰ってきた。足が痛い。

「これ、焼き八つ橋だね(怒)」

「水分ないやつか(すまん)」

「童子切安綱は?」

「わからない」

「どうすんの」

「弁償!???? 働いて返す……?」

「いくらすると思うの?童子切安綱よ。国宝級ですよ」

老人の説教はこの後数時間続く。体感で5時間(実際は30分)

「童子切安綱というのはこれの事かい?」

声がしたかと思うと、部屋の中に、晩餐会の時の青年悪魔が空間の頁をめくるように出現した。

「お前はあの時の!」

「これ、君の太刀だよね」

 青年は空間のすき間から、童子切安綱(国宝級)を引きずり出して俺たちの目の前で優雅にかざした。

「違います」

「じゃ、そっちの眼鏡のおじいちゃん?」

「いいえ、こいつのです」

「え、もとはあんたのじゃん!(目をそらすなよ!)」

 俺と魔法使いがウゴウゴしていると、悪魔はすっと目を細めて俺を注視する。得体が知れないが、目が離せない。

「君、名前は?」

「・・・・・」

「教えてよ、一緒にダンスした仲だろう?」

「あれはお前が魅了の魔法を」

「さぁ。覚えがないけど」

「ちっ……鬼童丸(きどうまる)

鬼童丸(きどうまる)。いい名前だね」

「もし俺が犯人だとしたらどうするんだよ。大統領暗殺未遂で死刑か?」

「違うよ」

「違う?じゃ、どんな刑だ?」

「僕と付き合って」

「……?」

こいつ以外のその場の全員が硬直した。

「ねぇ、一緒に大統領……ぼくの父をぶっ殺そうよ」

シンデレラの俺バージョンはなんか色々……その……ぶっとんでいた。



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