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思い出の一つとなった魔術教室


今日も、リンモルト夫妻は朝から魔術教室を訪れていた。


「できてるよぉ。これでもう完成だよぉ……」


リンモルトが描き上げた魔法陣を検証し、セノがぽつりと呟いた。どこか名残惜しそうだ。

セノは完成した魔法紙を丁寧に透明ケースに収めてリンモルトに手渡した。

そして、椅子に座るリンモルトの頭を両手でわしゃわしゃとなで回した。


文句を言いながらも、老魔法使いは嫌な顔をしなかった。

予定よりもかなり早く、家を建てるための魔法陣が完成した。

あとは模型さえ完成すれば、いつでも娘夫婦に家を贈ることができる。


一方、隣の席では夫人が焦りの色を浮かべていた。

魔術の基本講義を終え、ようやく魔法陣を描き始めた段階だ。

魔法陣を描くのはシビアだ。一箇所でも描き損じれば、最初からやり直さなければならない。


「あら……」


夫人は何度も描き直し、ため息をついた。

それでも翌日には、夫人も自分の魔法陣を完成させることができた。



◇◇◇



それからしばらくして、リンモルト夫人が再び魔術教室にやってきた。もう一度魔法陣を描くという。

魔法陣は何度も使えば徐々に劣化する。使用頻度によっては定期的に魔法陣を描く必要があるのだ。


ナツメがリンモルト夫人に提案したのは、写真を撮る魔術だった。

夫人に家族の思い出を残せるようにしたいと思ったからだ。

ナツメはその魔術で撮った写真を一枚一枚眺めていた。

リンモルト夫婦と娘夫婦、四人での旅行写真。新しく建った家の写真。そして、賑やかな引退式の写真。


「……ん?」


ナツメの手が止まる。

家や引退式の写真に、セノが写り込んでいるのはまだ分かる。

だが、四人家族の旅行写真にまで、当然のような顔をしてセノが写っている。


「セノ。ちょっとおいで」


呼ばれたセノが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「セノ、この写真……」

「うん! すっごく楽しかったよぉ!」

「そうじゃない。……遠慮というものを知らないのか……」


呆れるナツメをよそに、セノは満足げに笑っている。

この時、ナツメはまだ気づいてなかった。写真の場所が数日かけても行けない距離であることを。




後日、リンモルト夫婦が揃って魔術教室にやってきた。

今度はこの教室で写真を撮りたいという。

夫婦二人が、学生時代に戻ったかのように再び通った、この思い出の場所で。


写真を撮る魔法陣に魔力を充填する夫人。

魔力を充填し終えると、急いで夫とナツメとセノの間に移動した。

写真のナツメは、普段のビジネスライクな彼からは想像もできないほど、自然で柔らかな微笑みを浮かべていた。



◇◇◇



放課後の廊下。

ノンは再び、あの教室の前に立っていた。

今日は中から、子供のはしゃぐような声が聞こえていた。


(やっぱり、誰かいるんじゃ……)


好奇心に抗えず、ノンはそっと扉を開けた。


「……わーい! 新しい生徒さん?」


元気な声が、目と鼻の先で響いた。

誰かが自分の方へ駆け寄ってくる気配。服が擦れるような音さえ聞こえる。


しかし、ノンの目に映るのは、無人の教室……。


実際には、ナツメが駆け寄ろうとしたセノの腰を抱き寄せ、その身を制していた。

その動きで空気が揺れ、ノンの前髪をわずかにかすめる。


「え……」


誰もいない教室。それなのに、確かに誰かがいる声と気配を感じる。

自分の感覚が壊れてしまったような錯覚に、ノンはその場に縫い止められたように立ち尽くした。


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