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四十年の時を越えて

「先生……。主人を、終わらせてください」


切羽詰まった表情のリンモルト夫人が教室に駆け込み、切実な声で訴えた。


その直後、教室の外で物音がして、二人の間の時間が一瞬止まる。

しかし夫人は構わずナツメに歩み寄り、話し始めた。

魔法使いを引退したはずなのに、夫が毎朝どこかに出かけていくのだと――


その話を聞いたナツメは夫人を伴い、移動棒を使って魔術教室の二階へ転移した。


「まさか! あなた!」


そこにいた夫の姿を見て、夫人が声を上げた。

彼女は夫が現役を続けるために足掻いていると思ったのだ。


「わーい! また新入生だ!」


対照的に、セノは新しいクラスメイトの登場に大喜びする。

その無邪気な反応に、夫人は少し困惑した様子。


ナツメが夫人にやさしい声で提案する。


「ここで一緒に魔術を1つ習得されてはいかがですか? 今からでも習い始めることができますよ」


ナツメは夫人のために夫の魔法建築とは別の魔術を半ば強引に教えることにした。



こうして、四十年の時を経て、リンモルト夫妻は再び学舎で机を並べた。

かつて魔法学校の生徒だった二人が、今度は魔術を、共に学び始める――



◇◇◇



実はその時、魔術教室の外では――

ノンは見ていた。あの教室に入っていく、ご夫人を。

そして聞いてしまった。その後に続く、戦慄のやり取りを。

その、あまりに不穏な最初の一節を耳にした瞬間、持っていた荷物を床に落としてしまった。


静かな廊下に、大きな音が響く。


(主人を終わらせる? 殺人依頼!?)


心臓が激しく脈打つ。

ノンは慌てて荷物を拾い上げると、脱兎のごとくその場を走り去った。


もうこの教室に近づくのはやめよう……。

そう心に誓った。



◇◇◇



それからしばらくして――

約束通り、新任教官のヴァレンタリアが魔術教室を訪れた。

彼女が対面したのは、個別指導の対象となる生徒――セノだった。


「また生徒さん? わーい!」

「……いえ、私は実技の指導を……」

「実技の先生? ますます賑やかになるね!」


歓迎の言葉を投げかけながらも、セノは手際よく荷物をまとめ、帰り支度を始める。

ヴァレンタリアが呆気に取られていると、ナツメが穏やかな、けれど逃がさない響きを持った声で制止した。


「セノ、待ちなさい。実技さえクリアすれば、初等科を卒業できるんだから……」


ナツメが背後からセノの首の後ろをいつものように掴む。

セノは「ぁぁ……」と小さく声を漏らし、動きを止めた。

ただ、抵抗はあきらめたが、隙があればすり抜けようとチャンスを伺う姿勢だ。


「ヴァレンタリア先生、お願いします。くれぐれもセノから目を離さないでください」


ナツメはそう言って、セノの体をヴァレンタリアへしっかり託した。

セノはナツメに向かい、両手を高く掲げて小さな手のひらでグーパーを激しく繰り返す。

それは彼なりの、精一杯の抗議の意思表示だったが、ナツメはそれを涼しい顔で受け流すのだった。


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