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新任教官への依頼


ここは魔術教室の真上にある部屋。

そこは教室の一部であり、外部からは決して関知されない空間だ。

そこで、セノがリンモルトに魔術を教えている。

目をつぶり、得意げな様子でリンモルトに魔術の基本を説明するセノ。

時折、確認するように片目を開けては、リンモルトと目が合うたびにニコッと笑って見せる。


だが、リンモルトはそれに反応する余裕などなかった。

初めて触れる魔術の概念が頭いっぱいに埋め尽くされたから。


セノはそんな新入生とのやり取りが、楽しくてたまらないようだった。



◇◇◇



二階から一階へ降りるには、移動棒による転移が不可欠だ。

セノは慣れた手つきで、リンモルトを伴って現れた。


「先生! ボク、今日もう帰るからねー!」


満面の笑みを浮かべたセノ。


ナツメはその声に反応し、セノの顔を一瞬確認する。

そして、現在時刻を確認してから再び彼らがいた場所へ視線を向けた。

しかし、そこにはもう誰もいなかった。

セノは移動棒を使い、リンモルトを連れ、さらに地下へと転移した後だった。


(帰るには少し早いな……)


リンモルトも一緒だったし、今日は大目に見よう。ナツメはセノを追わないことにした。


その日、セノはリンモルトのあとをついて回り、夕食まで一緒に過ごしたことを、ナツメが知ったのは翌日のことだ。



◇◇◇



翌日、ヴァレンタリアは朝一番に学長室へ呼び出された。

入室すると、そこには学長のほかに、もう一人、静かに控えている男性がいた。


「教官として、学校にはもう慣れましたよね?」


学長は相変わらずのんびりとした口調で切り出した。


「空いている時間に、ある生徒の指導をお願いしたいのです」


ヴァレンタリアが承諾すると、学長は一枚の書面を差し出した。


「このことは口外してほしくないのです。念のため、これにサインをお願いします」


それは誓約書だった。

ヴァレンタリアが誓約の内容を読んで人差し指の先に宿した魔力でサインした。

傍らにいた男性は誓約書を受け取ると、静かに誓約の魔術を始めた。

誓約書に描かれた魔法陣が宙に展開され、男性が握りしめた拳をかざして魔力を充填する。

すると、誓約の魔術が発動し、誓約書が青い炎に包まれ消え去った。

その手際に、ヴァレンタリアは彼が生徒ではなく、魔術の使い手であることを察した。


「では、お時間のある時に、教官棟一階にある魔術教室へ来てください。お待ちしています」


男性が静かに告げた。

その声を聞いた瞬間、ヴァレンタリアの脳裏から霧が晴れていくような気がした。


あの時、空き教室で一瞬だけ目が合った、名も知らぬ男性。

隠ぺい魔術で沈んでいた記憶が、鮮明な色彩を持って蘇る。


――彼が、あの教室の先生。


ヴァレンタリアは、ようやく目の前の男の正体に辿り着くのだった。


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