木箱の中身
セノはいつものように魔術教室へ向かっていた。
彼にとって、そこは学校の中で逃げ込める、唯一の隠れ家だ。
角を曲がると、二人の男性が前後で大きな木箱を運んでいる。
手前にいるのは――
「たぶん、トーノだぁ!」
「はい、トーノだよぉ……」
慎重に荷物を押しながら、トーノは少しだけ笑みを返した。
そして近くで木箱を見た瞬間、セノの瞳が輝いた。
セノは運ぶ人間の苦労などお構いなしに、木箱に巻いた縄を足場にして登っていく。
中等科の退屈な授業のことなど、もう頭の片隅にも残っていない。
セノが木箱の上に乗ると、前にも人の気配を感じた。
セノは蓋の縁を掴み、恐る恐る前を覗き込む。
「……ナツメ?」
「うん。そのままでいいから、運び終わるまで話しかけないで……」
ナツメが急に席を外した理由。
その答えは、この木箱の中にあった。
◇◇◇
[ノン視点]
魔術教室二階。
ナツメ先生が大きな木箱を持ってきた。
その木箱はナツメ先生の手から離れてもなお、セノくんを乗せたまま宙に浮いている。
そして、セノくんは楽しげに、箱の隙間から中身を指で突いて、時折大きく反応している。
無事に運搬を終えたせいか、いつもよりさわやかなナツメ先生。
その隣には以前ナツメ先生がいない時に魔術教室にいた男の人だ。
(やっぱり、この前の人はナツメ先生じゃなかったんだ……)
「せっかくだから、ノンちゃんもおいで」
ノンはナツメ先生に呼ばれると思っていなかったので戸惑っていた。
しかし、やはり好奇心には勝てない。
セノくんと一緒に、木箱に結ばれた縄を解く。
やがて、蓋が開かれ、宙に浮いてた箱が傾いて、中身が放り出された。
そこに横たわっていたのは、目隠しをされ、手縄をかけられた大人の男性だった。
(なんで私にこんなの見せるの!)
ノンはここまでは言葉を飲み込めたが、次の言葉を飲み込めなかった。
「これ、完全に犯罪じゃないですか!」
静かな教室に、ノンの悲鳴に近い声が響いた。
言った直後、彼女はあわてて自分の口を両手で塞ぐ。
逆らえば、次は自分か、あるいは家族がこの箱に入る側になるかもしれない。
ナツメ先生はノンの動揺を気にする様子もなく、男性の目隠しを静かに外した。
現れたのは、充血した目で周囲をねめ回す、賢者ニタニル様だった。
ニタニル様は状況を呑み込めないようだったが、ナツメ先生の隣に立つ男性を見つけると射貫くように睨みつけた。
「ナツメ。どうするの? 始末するの?」
セノくんが明日の天気でも尋ねるような軽さで聞いた。
ナツメ先生は涼しい声で、何のためらいもなく答える。
「始末するんだったら、わざわざ連れて来ない。途中で跡が残らないように処分するよ」
「じゃあ、どうするの?」
「魔術教室の生徒にする」
「……」
ノンは一点を見つめたまま、しばらく微動だにしなかった。
(……もう会話についていけない……)
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