新しい生徒
魔法学校には初等科から高等科まで総勢六十名の生徒がいる。
そのうち、魔術教室に通う必要が出てくる生徒は一年間に一人いるか、いないかだ。
三年前にセノが魔術教室に通うようになってから魔法学校の生徒は増えていない。
だが今日、そこに新たに生徒が一人増えることになった。
◇◇◇
テノルド。高等科の一年生。
つい先日まで、俺は魔法使いとしての将来を疑っていなかった。
そんな俺に突然告げられた「魔力損耗症」
原因不明、治療法なし。使える魔力が日に日に減り、魔法を発動することすら、ままならなくなっていく。
魔法使いを目指す者にとっては、耐えられない。
昨日、俺は学長に誘われて、この魔術教室の門を叩いた。
俺は魔術というものに対して、生理的な嫌悪感……強い忌避感を持っている。
時々、魔術を使った事件が起こって、罪のない人たちが犠牲になっているからだ。
そんなものに関わるなんて、本来ならあり得ない。
だが、俺にはもう、好き嫌いを選んでいる余裕なんてない。
「やるしかないんだ……」
俺は今、ナツメという人物から魔術を教わっている。
得体の知れない術式、未知の理論。
抵抗感しかなかったが、魔術にすべてを賭けるしかなかった。
もちろん、魔術が一朝一夕で身につくほど甘くないことは理解している。
俺は高等科を休学し、覚悟を決めた。
◇◇◇
ナツメ先生が急な用事で出かけてしまった。
魔術教室の二階で、俺は独り自習に励んでいた。
そこへ、ちっこい先生――セノがやってくる。
セノは背伸びをして、俺の肩をちょんちょんとつついた。
振り返った俺に、セノは無邪気な笑みを向ける。
「見てて――」
少し間を置いてから、セノはあろうことか、至近距離で火柱を上げた。それも三回連続だ。
「これは魔法だよぉ。こっちは魔術――。じゃあ、これはどっち?」
手のひらで弄ばれる火の粉。
必死に目を凝らし、どれが魔術か見極めようとする。
指先の動き、魔力の揺らぎ……そのどれもが、俺の知る魔法にしか見えない。
「魔法?」
「正解は――魔術でしたぁ!」
(嘘だろ……)
信じていた魔法と魔術の境界線が溶けていく。
その境界こそが、俺にとって自尊心を守るための最後の防波堤だった。
もう、どっちでもいい。
魔法使いの血筋も、プライドも。
セノの他愛ない遊びによって、俺の信じていたものが音もなく崩れ去っていった。




