初等科卒業試験
セノは今、初等科の卒業試験に臨んでいる。
ナツメは見えるわけではないのに、時折、セノが居る方向に視線を送った。
試験は魔法学校内にある湖の中の小島で行われ、合格すると鐘が1回だけ鳴る。
その音を聞き漏らすまいとナツメは極力音を立てずに待っていた。
◇◇◇
(思っていたのと違う!!)
気難しそうな二人の試験官を前に、セノは内心、焦っていた。
準備していたのは、手のひらの上で火、風、水、光を個別に展開するだけの単純な魔術。
対して試験の内容は――「少し離れた場所にある紙に火、風、水、光を当てる」というもの。
(魔法を飛ばすなんて聞いてない!)
紙を燃やすなら炎を飛ばし、濡らすなら水を飛ばす。手のひらに出すだけでは届かない。
魔法を遠くへ飛ばす操作をしたことがない。
「どうかしましたか?」
片方の試験官が怪訝そうに話しかけてくる。
セノが手のひらを前に向ける独特なポーズを訝しんでいるのだ。
(できるかどうかわからないけど……)
(魔術で火を出して……魔法で威力を上乗せして……魔法で紙の方向に飛ばす……)
まずは火。
両手の手のひらの上に慎重に火を灯す。そして、魔法で火力を上げようとするがうまくいかない。
紙に届くまでに消えてしまうかもしれないが、一回飛ばしてみた。
ゆらゆらと飛んでいった火の玉は、紙に届く前に風に流されてしまった。
二回目。風の向きを読み、あえて斜め上へと火を放つ。 狙い通りに風に乗った火の玉は、吸い込まれるように紙を燃やした。
次は水。
まずは両手の手のひらの上に水を少しだけ出し続ける。
火と同様で魔法で威力の上乗せができない。
手のひらの角度を調整しても、威力が弱くて紙まで届かない――
その時だった。一瞬だけ水の威力が強まった。
そのチャンスを逃さないように手のひらの角度を慎重に調整する。
なんとか一回目で紙を濡らすことができた。
最後は風だ。
同じように魔法での威力上乗せをしたが、風だけ様子が違った。
すぐに一瞬だけ威力が強まったのだ。
「ぇ、ぁ、ちょ――」
セノを中心に全方位、一瞬の爆風。
不意を突かれた試験官二人はあっけにとられたまま、ふわっと宙に舞い、湖へと転落した。
さらに、合格時に鳴らすはずだった鐘まで空の彼方へ吹き飛んでいった。
『加減を知らんのかー!!!』
湖から上がってきた試験官たちの激昂する声が、学校内に響き渡る。
セノは小さく呟いた。
「ごめんなちゃい……」
◇◇◇
試験終了後、魔術教室にやってきたセノ。
すごく嬉しそうだ。しかし、鐘の音が聞こえなかったのが気になる――
しかし、ナツメはセノの合格を疑わなかった。
セノは合格を装うことなんてする子じゃないから。
「今日は特別に1つだけ魔術を教えてあげるよ」
「じゃあ、空の飛び方を教えて」
「それは絶対ダメ。失敗したら、地面に叩きつけられて死ぬよ」
優しく微笑むナツメの膝の上で、不貞腐れた顔をして戯れるセノ。
「じゃあ、何だったら教えてくれるのー」と言わんばかりに、顔を見上げていた。
セノの次はノンが同じ試験を受けた。
びしょ濡れで機嫌の悪い試験官に慄くノンだった。




