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僕と  作者: あい
2/3

僕とクリスマス

「・・・・・・これはいつまで続くんだろうか・・・」

僕は起き抜けに隣の塊をじっとりと見る。昇也が律のベッドの半分以上を陣取っている。

いつの間に入り込んだのか。起きていたら蹴落としたものを。

大体彼女と心身ともにうまく繋がれたと報告を受けたのは何だったのか。

これで昇也も大人の仲間入りを果たしたと切なく嬉しく思ったのは何だったのか。

いつまでも律を追いかけてきた昇也の子供時代と永遠の別れで、これが成長と受け入れ、寂しくけれどこれからは逞しく自分の人生を切り開くのだろうと笑顔で応援の言葉を律は口にしたはずった。

ここ最近頻度が上がっている気がする。今日こそは物申さねば。僕は昇也の肩をゆすった。むむ、大分厚みがある。

「昇也・・・ちょっと出てよ。君のアパートは隣だ。彼女がいるんだから、これは駄目だよ。僕が明美さんに顔向けできない」

「寒いもん。やだー」

駄々っ子のように目を閉じたままごねる。

「あのさ、なら明美さんとだね、」

「俺ら中学生よ??一晩一緒とか無理でしょ」

む、確かに。親の前でそれはかなりのハードルだ。

「いやいや、それいうなら僕だって一緒のはずだけど」

体の関係はないとは言え、僕だって生物学上女だ。母さんは夜勤務だが、早朝には帰ってくる。親不在というわけでもない。

「蝶子さんならいつも笑顔で迎え入れてくれてるよ。鍵だってもらってる」

「は・・・???お前・・・・」

まさか正面から突破していたとは。母さんも昇也に甘すぎる。

「いいじゃん。昔からの習慣だもん。何で彼女がいるからって変えなきゃなんねえんだ」

「お前が良くても、周りはそう思わないの。人によっちゃ、完全に浮気って言われる」

というか、普通に誰だってこれは嫌がるだろ。お前のくだらない欲望の片棒を担ぐのは嫌だ。

「んなうぜえこという女なら別れるわ」

「何言ってんだよ、良い感じなんだろ?明美さんと。そんなことで別れるなんて酷いぞ」

「明美??それ前の前の彼女な?今付き合ってんのは春香だけど」

「・・・・・・は?」

律はぽかんと口を開けた。体を繋げたと聞いてから、まだ半年ほどしかたってない。

「女って面倒くせえんだよ。だんだん図々しくなって色々俺のことに首突っ込んで彼女面して仕切ってきたから切った。春香もその気があるからそのうち別れるわ。一回くらいは言ってみるけど、それ以上の労力かける価値はねえな」

何ていう男だ。面倒だから関係性をやめるとか、何様だ。傲慢すぎて呆れる。

「それを言うなら僕もその女って奴だぞ。これから面倒になる予定だから、さっさと自分の家に帰れ」

「えー、じゃあ凛の隣で寝る」

「はああああ!?おっ前ふざけんなよ。それは絶対に許さないからな!」

律は思わず昇也の首元を鷲掴みにして引っ張った。いたずらな目をしてこちらを見上げているのに腹が立つ。

凛は2歳年下の妹だ。穏やかで大人しく、可愛らしい。長い髪におおきな瞳、女の子を意識した服装で凛とは正反対だ。

「妹に変な傷をつけんな!!」

「ちょっとお兄ちゃん、朝から騒がしくて眠れないよ」

すかさず困った凛の可愛らしい声音。凛とは一部屋をパーテーションで分けているだけなので、物音は筒抜けなのだ。

「あ・・・ごめん」

謝りながら考える。凛に変な噂が流れるなど許せない。

「んーーー、なら蝶子さんとこで寝ようかな」

ゾゾゾゾゾっと鳥肌が一気に立つ。万年良い男を探している母だ。添い寝ですむはずがない。母は昔から昇也の顔を気に入っている。倫理感は・・・ない。小さいころから見ているとか、育てている子だとか、そういうことはあの人は全く歯止めにならないだろう。

「うお、すげー鳥肌」

昇也はまるで他人事のように、律の腕に現れたブツブツを触っている。

「じゃあさ、律が諦めるしかなくね?俺は正式に招き入れてもらってんの。ここの家主から。昔から俺が律のとこで寝てんのも蝶子さん知ってるし、保護者容認なら何の問題もないじゃん」

「・・・・・・・」

そうだろうか。いや絶対に違うだろ。これから凛だって年頃になる。部屋に鍵でもつけるか?昇也からうちの鍵を取り上げるか?

昇也は完全に目を開けて頬杖をつきニヤニヤしながらこっちを見ている。

いや、駄目だ。母を説得できない。角が立つ。折り合いが悪くなる未来しか想像できない。

律は黙って素早く着替え、昇也を放置して朝食の支度へ向かった。


昇也は朝食のサンドイッチを律と凛と食べた後、自分の家へと帰って行った。

デートをするそうだ。「さすが昇くん。今日クリスマスだもんね」と凛は顔を赤らめて興味津々の様子だった。イラっとしてその話題を出してきた昇也の足を机の下で踏んだが、にやりと笑われただけだった。気持ち悪さに再び鳥肌がたつ。こいつもそれなりに倫理感がないからほっとけば聞かれたままに性行為込みのデートプランを凛につらつら述べかねない。勘は悪くないので、それは止めろと睨めばにやけが増した。腹が立つがおそらくこれで意味は伝わっているのでよしとする。実際に昇也はその手の話題は出さなかった。


今日から冬休みだ。だからといって特別何かするわけではない。

律はぼんやりとカビの生えた壁紙を見つめ、そして皿を洗う。

冬休みはサバイバーにとって夏休みの次に過酷である。

周囲はイベントと長期休みに向けて浮足だつ。

僕らにとっては生死を分ける戦いの始まりにすぎなかった。

7歳のクリスマス、僕と凛はギリギリ生を繋いでいた。

母はクリスマスパーティーに浮かれ、男や同僚と酒を飲み歩いてなかなか帰ってこなかった。

空腹に耐えかねて僕は妹を連れて街を歩いた。チカチカと電飾が光る中、僕らは薄着で歩いた。

凛は寒さと飢えに苦しんでいた。ホームレスが廃棄処分でゴミとして捨てられた一人分のショートケーキを無言で差し出した。

僕はお礼を言い、凛と食べた。凛は震えて腕が上がらない。

僕はケーキを切り分けて妹の口に入れてやった。妹は甘さと久々に取る固形物に大きな目を綻ばせた。幸せだった。

夢中になって妹の口に入れていたら、妹がお兄ちゃんも、と言った。

自分のことを忘れていた。別になくても構わないとも思った。

妹の切実な目に、妹を支えてやれるのは自分しかいない、飢えに倒れたら詰みかと思い直し、自分の口に入れた。

重く、甘かった。パサついた生地は一気に頭に血を巡らせるようだった。



妹にはせめて普通の生活を味あわせてやりたい。その思いは今でも消えない。

昇也がうちに身をよせるようになったおかげで食費は必ず律の手に入るようになった。そこから食べる物がないという事態は一度も迎えることはなかった。

それがどれだけ有難いことかを、律は身に染みて良く知っていた。

妹を、飢えさせることがない、あの悲壮な全てを諦めた顔をさせないですむ。

律はふっと物思いから意識を引き上げ、クリスマス献立の手順に頭を巡らせる。

もらっているのは昇也の食費のみだ。結構な額で4人分の食費と考えると安いが一人分の食費と考えれば充分すぎる額だった。明細を求められたり、余った金を返却するよう求められることもない。

豪華な、とは言えないが、ささやかなクリスマスの食事くらいは用意することが可能だった。

じんわりと涙腺が緩む。手元に食材があるということが、如何に幸せなことか。

一度この幸せを知ってしまうと、手放せなかった。洗い場からリビングに目をやる。

凛が笑ってる。ふくふくとした健康そうなほっぺ。

僕らを見ても、機嫌も情緒も崩れることのない母。

汚い、全てアタシのせいにしやがってと僕らを汚物のように見、足蹴にして罵った母はもういない。

食べ物を、金を求めて母に追いすがる必要もない。金をむしりとり、自身を不幸に落とすものだと犯罪者のように、いやそれ以下か、そんなふうに母に扱われることもない。



「いやーん、似合うー!さすがアタシの娘〜!!」

その『娘』の中には自分は入っていないだろうことは確認するまでもない。律だって『娘』として扱われるなんて嫌なんだからこれで良い。

「ねえねえ、お兄ちゃん見てみて?似合う?」

「似合うよ。どこかお出かけかい?」

大人っぽい茶色のワンピースに真っ白なコート。今までとは違う大人っぽい要素の入った可愛さに律は目元が緩んだ。

「うん、ママにパーティに連れて行ってもらうの」

ひく、と律の頬が引きつった。

「母さん、凛になにさせる気?」

「何よ、ちゃんとしたクリスマスパーティ。健全なんだから。他の子持ちも来るし」

「…そう」

母の仕事は水商売だ。確かに子持ちのスタッフは母以外にも何人もいる。もちろんしっかりした人もいるが、母のタイプの人間も少なくない。要は常識に倫理観が大きく欠如している。

「アンタは留守番ね。アンタを連れ歩いてもどうせ小姑だもの。あれはダメ、これもダメーって。可愛げもないし、見栄えもしない。ねー、ちょっとはおしゃれしたらどうなの??人生損してるわよ」

「はいはい。ご心配ありがとう。夜までには帰ってきてよ?」

せめてもの念押し。しかし、

「うーーん、どうしよっかな??」

母さんは口元だけて笑った。頭が痛い。僕は頭を押さえ、俯いた。

「………昇也を」

「そうでなくっちゃ!あの子まーた男っぽくなって!皆に自慢しなきゃ」

「えっ昇君も来るの?」

目を煌めかせる凛。

「……まだ名前しか言ってないんだけど」

「凛を守らせんでしょ?アンタも過保護よねぇ。いーわよ?昇也も連れてってあげる」

「昇也にまだ声もかけてないし、今日は彼女とデートだって言ってた」

「そりゃあ来るわよ、アンタが頼めばね。何なら彼女と来ていいわよ」

妙に確信めいたことを言う。ダメ元だ。断られたら僕が店の外でいつまでも見張ればいいのだ。僕はため息をついて昇也から預かっている、緊急時用の携帯電話を取り出し電話をかけた。3コールで繋がった。デート中なのに、くだらないことで邪魔をしてしまう。申し訳なさが募る。だが、僕にとっては死活問題なのだ。


「良いよ。けど……」

昇也は思いがけず、良い返事をすぐにくれた。

「なあ、律は行かないの?別にめかしこまなくても、制服着てきゃ良いじゃん」

「…母さんは同僚に家族自慢をしたいんだ。僕は呼ばれてないよ。彼女もつれてって良いってさ」

「ふーん、なら連れて行こうかな」

「本当にありがとう。凛を頼む」

「まあ、良いよ。視界の端に入れとくだけだし」

「クリスマスなのに、ごめんな」

「ん?いや。お前が頼み込むなんて珍しいし」

何故か上機嫌の様子にほっとする。いざという時には頼りになる。おかげで律は安心して二人を見送ることができた。


3時間かけて一通りクリスマスメニューを作り終わり、律は椅子に座った。

しんとしていることに気付く。

誰もいないのだから当然だ。時計の秒針の音だけ妙に大きく感じる。

どうせ、パーティーでも似たような物を食べるのだろう。とふと思いつく。

皆でするパーティーの方が賑やかで楽しいに違いない。

そもそも、いつ帰ってくるのだろう。

気まぐれな母はその時の空気次第だと言っていた。ひやりと冷たいものが内から這い上がる。

いや、それはない。だから昇也をつけたのだ。ちゃらんぽらんだが、アイツは僕の意図を理解しているし、そこは外さない。確実に安全に凛は帰ってくる。そこは間違いない。なら、何だこのざわつきは。

律はごまかす様に参考書を引っ張り出し国語の復習を始めた。


次に意識が浮上した時、既に外は真っ暗だった。

携帯電話が点滅している。

見れば昇也からだった。無事パーティーは終わったらしい。

凛はパーティーで知り合った同学年女子とお泊り会をすることになったとのこと。

女しかいないそうだ。開催場所やメンバー、保護者の身元までご丁寧に情報を載せてくれている。さすが昇也。変な所で抜け目がないというか、基本的にできる奴なのだろう。こっちの心配を察知し、的確に欲しいだろう情報を集めてくる。それに、相手は女だ。昇也は女慣れしている。情報を聞き出すことは比較的簡単だっただろう。ポンと音がし、新たなメッセージが表示される。

『これから彼女とディナー行ってくる。帰りは遅くなる。』

ようやく彼女と二人きりになれるのだ、苦労をかけてしまった。律は即座に返信した。

『ありがとう。助かったよ。楽しんで』

微笑む、そして顔を上げたところでテーブルに並んだ料理を思い出す。

「あ、どうしよ、これ」

思いっきりクリスマス仕様にしてしまった。サンタの顔やら雪を模した飾りやらが散在している。4人前は1人で食べられない。捨てるには食費が勿体ない、母がワンチャン帰って来るかどうか。「もうおなかいっぱいだからいらな~い」なんて言われるかもしれない。

しばらく残しておいて、必要なければ小分けに冷凍しておこう。

律は今度は数学の教科書を引っ張り出し、予習を始めた。

玄関から物音。時計を見れば22時だった。

「母さん、お帰り。ご飯・・・」

母は律を見て、顔を歪めた。後ろに若い男。共に顔が上気してふらついている。酔っているようだ。

「えっと君は?蝶子さんの彼氏?にしては若いね」

高そうな上質なスーツに身を包んだ、身なりのしっかりした眼鏡をかけた20代後半の男。母にしては良い男だ。

「近所の子よ。たまに来るの。アタシのことが好きみたい。ガキに興味はないから安心してあがって。アンタはそろそろ帰ったら?ママが心配するわよ?」

母が律を睨む。久し振りの目だった。憎悪・嫌悪。正直な人だ。

律は次に何か言われる前に家を出た。


外は寒かった。しまった。上着を着てこればよかった。携帯も家の中だ。

だけど、中に入って取りに戻る気にはなれない。見たくもないものを見ることになるし、母は激怒するだろう。

僕は、何をしているのだろう。僕の1日は何だったのか。

胸がきゅううっと引き絞られる。

考えてはいけない。言語化してはいけない。

律は空を見上げた。視界がぼんやりと霞む。

白息が空にかかる。

ふわりと冷たいものが頬にあたる。

雪が降ってきたようだ。


勘違いしただけだ。

皆で一緒にいつまでも過ごせるのだと。

それが幸せだと。


家族といるのが幸せだって?

どの口が言うんだ?


飢え、共に苦しみ合った、そんな場所が心地良いはずがない。

友達と過ごすのが楽しくなってくる年頃じゃないか。

自分にはそんな時期なんてなかっただけでさ。


自然の選択じゃないか。

いつまでもすがって、追い求めてるのは自分だけだ。

友人に彼女に彼氏、そりゃあそっちを優先する。


飢えていた時の方が幸せを感じていた気がする。





「律!!」

遠くで焦ったような声がした気がする。

振り向こうと思ったけど何故か体は動かない。

浮遊感がして視界が上がる。抱き上げられたらしい。僕は170センチあるんだけどな。

ドアを開ける音がして真っすぐ浴室に連れていかれる。何で分かるって、間取りがうちと一緒だから。整然としたここは昇也の済むアパートだ。

勢いよく水音がし、湯気が立ち上る。パーカーもTシャツもはぎとられる。そこからは一瞬ためらったように動きが止まったが、すぐに下着に手がかかり脱がされた。真っ裸にむかれ、僅かにお湯のたまった浴槽に沈められる。後ろから抱え上げられ、シャワーを全身に掛けられる。

指が少し動く。ああ、寒さにかじかんでいただけのようだ。背中には服の感触。慣れ親しんだ昇也の匂い。

「おい、律・・・ーーーー」

律の自発的な指の動きに目ざとく気づいた昇也は珍しく怒りの声をあげかけ、止まった。

目から涙が零れ落ちる。次々に。あっ、と思う。止めなきゃとも思う。

でも止まらない。自分がなぜ泣いているのか分からない。

ただ止められない。

ぼろぼろとひたすらに溢れてこぼれる。

蛇口のようだ。

いいや、古い角質のようなものだ。捨て去るのだ。全て。


結局昇也は何も言わなかった。律も泣きすぎてしゃくり上げすぎて、言葉など出せないほどに、震えてしまった。

タオルで軽くふき、バスローブを着せ、その上から昇也のパーカーやら上着をかぶせた。腕を服に通さないまま性急に着せられ、胸の下とウエストの2か所を腕ごとロープで縛り上げられる。みのむしの完成だ。

「・・・・・」

胡乱な目で昇也を睨む。

「すげえ冷えてたんだ。あったかくしないとだめだろ」

だからってこれはないだろ。

じとりとした目で訴えるが、昇也はどこ吹く風で取り合わない。

未だふるふる震える律を脚の間に座らせ、物珍し気に見、前髪を引っ張ってくる。

律は頭を振って拒否するが、また手が伸びて髪に触れてくる。

言葉でやめろと伝えたいが、震えずはっきりと単語を言う自信がない。


「メリークリスマス!!」

隣から陽気な母の声。

グラスの音。

食器のカチャカチャという音。男女の笑い声。


クリスマスメニューは日の目を見たらしい。

つ、と一筋涙がこぼれる。

涙腺崩壊の合図だった。

明るい電灯の下、幼馴染の前だと分かっている。

こんなとこで泣きたくない。

だけど止まらない。

目線を感じる。恥ずかしい。

でもそれ以上に溢れてくるものを止められない。

せめて腕が上がれば顔を隠せるのに。

この陰険幼馴染め。


「俺さ、殺せるよ」

「?」

場にそぐわない唐突な言葉に顔を上げる。

「律が死んだら、母親も妹も殺しちゃう。悪しき原因だよね」

すっと血の気がひいた。

自分たちは家族同然だ。同然のはずだ。

7歳の時に母は昇也を引き取った。世話は気まぐれだったかもしれないが、やり取りや会話はあったし仲は悪くないはずだ。

いや、コイツは誰とでも仲がいい。仲良くする能力がある。

興味を失った時、利用価値がない時、冷酷に切り捨てられる奴だ。昨日まで親友だった奴を翌日には完全無視して精神的に追い込んでも何とも思わない。

いや、でも。

そんなはず、ない。

頭がぐるぐるする。


「律はそんなの嫌でしょ?

なら歯食いしばって生きてよ」


怖い。昇也の顔を見るのが。時折重々しい何かが首をもたげる。今回もそれだ。直視できない。してはいけないと本能が叫ぶ。


きゅうう腹がなった。

「ええ~このタイミングで?もう、律空気読んでよ」

昇也がくすりと笑った。重い空気が拡散される。


「冷蔵庫にあるんでしょ、俺の分。一緒に食べよう」

驚いて昇也を見る。

「・・・ディナーなんて行ってないよ。どんな反応するかなって思って言ってみただけ、まさかこんなことになるとは思わなかった。本当に焦った。心臓に悪いよ。もう2度と御免だ」

昇也は冷蔵庫から一人分の僕の作った料理を取り出し、レンジで温めた。


フォークを目の前に出される。

「はい、あーん」

「・・・・・・」

律は顔を背ける。代わりにロープに目をやり、ほどけと暗に伝える。

「やだよ。今日1日振り回されたんだ。最後くらい楽しませてよ」

これの何が楽しいんだ。・・・・・振り回した自覚は大いにある。仕方なく口を開ける。

咀嚼すると次が出される。昇也は口元が思いっきり緩んでる。

「・・・・・・」

不機嫌を隠さず律は食べ続けた。しばらく食べさせるのに夢中になっていた昇也だが、律の

お前も食え!

という目での圧を受け、微笑して自分も口に入れた。

ほろりと涙が落ちる。

昇也がぎょっとして手を止めた。

律は眉間に皺を寄せた。

泣きたくて泣いてるわけじゃないんだ。この通り、僕は困っている。

昇也は僕の眉間をぐりぐりと押さえて困ったように微笑んだ。

僕が正体をなくすほど泣くなんてことも今までにないことだけど、

いつも自信過剰な幼馴染がこんな困った様子なのも今までにはなかったな。

泣きすぎたのか瞼が重い。眠い。

僕は昇也の肩にもたれかかり目を閉じた。

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