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終章
その日は、静かな雪が降る日であった。
空は一面灰色に覆われ、寂れた港町に一足早い冬が訪れた。
「初雪か」
楓は、膨らんだお腹を摩りながら呟いた。
この町に住み始めてから数年が経ち、心身共に大分馴染み始めたとは思っていたが、それでも冬の訪れは未だに新鮮味を感じた。
「……湊」
昨年のちょうど今頃、湊は楓の前から姿をくらませた。
行方は今でも分からない。
ただ、彼が自分を置いて逃げるような人間ではないと楓は確信していた。
何食わぬ顔で、「ただいま」と家に戻ってきて、
キッチンに立ちコーヒーを淹れて、窓を見ながらタバコを吹かす。
そんな彼の姿を想像して、楓は家に残っていたタバコの箱を開けて、口角を上げて言った。
「駄目駄目。この子が産まれてからにしないと」
楓は窓を開けて、ベランダに出ると灰色の空を仰いで一息をついた。
太陽の光は、僅かであるが差している。
「名前は何がいいかな。冬に産まれるから、柊かな」
柊と口にした瞬間、お腹がビクッと鳴った気がした。
肯定なのか、否定なのか。それともただの振動なのか。
雪は静かに、しんしんと降り続けていた。




