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花火
湊が仕事から帰ると、台所から炒め物の香ばしい匂いが鼻腔をついた。
「おかえりなさい。ご飯勝手に作ってしまって、すみません」
湊は小さくため息をつくと、タバコに火を付け口に咥えた。
「帰る気、ないだろ」
「私、帰るお金ないです」
けろりと言う楓は、慣れた手付きで野菜炒めを小皿に盛り付ける。
コンロの上に乗っている鍋からは出汁の香りが漂い、湊の食欲を刺激した。
「金なら出すから。帰ってくれ」
「もうご飯作っちゃったので、食べてください」
食卓の上にはいつの間にか味噌汁と、白米まで用意されていた。
湊は諦めたのか、タバコの火を消して野菜炒めを口に運ぶ。
「うまいな」
「得意なんです。これ」
余程口に合ったのか、湊は瞬く間に夕飯を完食した。
再びタバコを口に咥え、彼はベランダの窓を開く。
「花火か」
突如、鮮やかな音が鳴ると同時に、夜空に紅い閃光が舞い散った。
湊と楓は言葉を失い、ただ目の前の景色に魅入っていた。
「そういえば、今日は祭りだったな」
「祭り、行かないんですか?」
「人の多いところは嫌いだ」
「そう、ですか」
それから二人は何も喋らず、ただ目の前の花火を眺めていた。
夏は終わり、涼しい風が短い秋の訪れを知らせている。
鈴虫の声と花火の音が、静かな夜を彩るように響いていた。




