Fifth.憧れる者
あなたの記憶の本棚に、ぜひ私の作品を入れさせて頂けませんか?
作戦開始から約30分経過。
炎熱分隊の隊長であるフラムと副隊長であるクレア、そして見習いとして二人に同行しているラファルの三名は、メインネットワーク中継施設のメイン制御室前に到達した。
現在、施設内はほぼ制圧完了。サブ制御室へ向かっていた別働隊からもフラム達の方へ向かうとの連絡が来ている。だが、隊長であるフラムはそれを待たない。なぜなら、一刻も早く連絡線を断たなければ中継区画から敵の増援が来るかもしれないからだ。
「クレアは今回はラファルのそばに居ろ。おそらく室内には何らかの迎撃システムがあるはずだ。今回は俺一人で片付ける」
「了解しました。万が一、一人で対処不可能と判断した場合は私も出ます」
「ああ、頼む」
そうして、フラムが扉を蹴り破り、三人は制御室へ突入する。
ラファルが想像していたよりも室内は広く、そこら中にコンピュータが散らばっているのではなく、ただ最奥に一つの巨大な装置が佇んでいる。そして、その前には人型の大型兵器も。
「侵入者、検知。マザーの意向に従い、排除を実行する」
「来るぞ、下がっていろ!」
兵器はフラム達を認識すると即座に動き出し、片手に搭載されたマシンガンを乱射する。それに対し、フラムは槍状の武器を構える。
フラムの専用武器"焔槍"。その武器には三つのモードが存在する。
一つ、今回の作戦でフラムが最初に見せたモード:拡散。四方八方に広がる炎で敵を殲滅する。
二つ、モード:凝縮。槍先に熱を一点集中させ、鉄をも溶かす超高熱の一撃を放つ。
三つ、全ての専用武器に共通して存在するモード:解放。その武器の性能を限界値まで解放する。
専用武器はエリート戦闘員でも一部の者しか所持していない、他とは一線を画す高性能の武器。そして、司令官であるフラムの焔槍を使った熱は、周囲に飛来する銃弾さえも溶かしてしまう。
「モード:凝縮。貫け、焔槍!」
その瞬間、ラファルが瞬きをして目を開ける時には、フラムは兵器の目の前にまで迫っており、赤熱した槍先はそのまま機体を貫いた。
自分の思い描く理想の強さ、それを全て否定されてしまう程の強さに、ラファルは息を飲む他出来る事がなかった。
「きちんと見ていたか、ラファル。これが俺達、リリースの戦いだ」
フラムの槍は兵器を貫くと同時に、その奥の装置も貫いていた。あの装置が機能を停止した事により、中枢区画とここ居住区画の連絡線は断たれた。これで、炎熱分隊の仕事は完了だ。
フラムは唖然としているラファルの前に立ち、リリースの司令官として彼女にリリースがどういうものかを示す。
今回、ラファルが見て来たその背中は、ただ任務に当たるだけの冷たい背中ではない。人を護らんとする、暖かい背中だ。
だが、そんな背中に一つの刃が迫る。
「フラムさん!後ろ!」
機体を貫かれたはずの兵器が動き、フラムに向けて片腕の刃をふりおろす。だが、フラムは決して振り向こうとはしなかった。それは、油断ゆえのものではない。
仲間への、信頼ゆえのものだ。
「モード:赤刃」
壁が切り裂かれ、赤熱した刃を振り翳しながら、別働隊を率いていたピナが室内に飛び入る。
その刃はまっすぐに兵器へと向かっていき、やがて兵器が反応する前にピナの赤い刃が機体を真っ二つに切り裂いた。
彼女もまた、炎熱分隊の一員。その実力は確かだ。
「フラムさん、なんで仕留めなかったんですか?まさか、油断してた訳ではないですよね?」
「お前に見せ場を作ってやったんだ。可愛い後輩の前だろうからな」
「別にそんな事しなくてもいいのに...」
実際、フラムの気遣いは彼が企んだようにラファルに良い印象を与えてはいた。だが、それを言ってしまっては元も子もないが。
ピナは倒れた機体を一瞥すると、ラファルの方へ振り向き、駆け寄る。任務中、ラファルの事を心配していたのだろう。
「ラファル、怪我は無い?まあ、クレアさんが居たから大丈夫だと思うけど」
「そこはフラムさんじゃないんですね。はい、大丈夫です。この通り、ちゃんと元気ですよ!」
ピナとラファルがそんなやり取りをしていると、ピナが空けた壁の穴から遅れてフレイムとフレアが合流する。
二人ともヘラヘラとした様子だし、これで全員の無事が確認出来た。
「お〜い、ラファルちゃんに見せに行こうぜ!俺らリリースの凄さをよ!」
「フレアさん敬語忘れてますよ!後でクレアさんに怒られても知りませんからね!」
フレイムの言葉にラファルがきょとんとしていると、ピナが手を握ってラファルを連れて歩き出した。
その行く先はこの施設の屋上、この第七都市の一望出来る電波塔の頂上だ。
「ラファル、私達炎熱分隊の任務は終わった。その次は、他の皆の出番だ。リキッドさんの率いる電撃分隊、デロべさんのシステムハッキング、アッシュさんとエピヌさんの率いる殲滅小隊、そしてデゼスポワール総司令の率いる決戦中隊。その他にもたくさんの人が戦ってくれてる。ここからなら、それがよく見えると思う」
塔の頂上に出て、ラファルはその様子を目にする。
都市の各地で鳴り響く銃声、所々で上がる黒煙。今、ラファルの目の前に広がっているのは、戦争とも言えるリリースの人工知能の支配への反撃だった。
リリースの戦闘員は皆、命を賭して支配へ反撃の狼煙を上げている。よく見れば、そこに住む人々を護りながらも、彼らは戦っている。
だが、それ以上に目を引くものが別にあった。ラファルは、それを指差してピナに問う。
「ピナさん、あれは何ですか?」
「ああ、あれは...」
ここ第七都市のある居住区画の外側、居住区画の大地を囲うのは底の見えない奈落。そして、遥か先に僅かに見えるのは、第一、第二、第三都市のある中枢区画と第四、第五、第六都市のある産業区画の大地。
そしてもう一つ。それら区画の中央、奈落を隔てた先にあるドーム状の巨大な建造物。ラファルの目からは、なぜかそれが離れなかった。
「あれは、"母体"だよ」
◇◇◇
炎熱分隊の連絡線遮断後、第七都市南東部メイン発電施設にて、エリート分隊電撃小隊が任務を開始する。
任務はメイン発電施設の機能停止。だが、なるべく損害は避け、復旧が用容易な段階で留めておかなければならない。だからこその電撃分隊だ。
「こちら電撃分隊。これから発電施設へ攻撃を...」
「ラナンジ、報告は後!さっさと終わらせるよ!」
「あっ、ちょっと隊長!」
電撃分隊隊長、司令官"感電"リキッド。
彼女の扱う武器は身に着けている手袋と靴。彼女は手と足からの水の放出と、持ち前の柔軟な肉体を駆使して戦闘を行なう。
電撃分隊は隊長リキッドを筆頭に、副隊長グラジオ、ラバテラ、ラナンジ、ロメリアの五名で構成される。その中でも隊長であるリキッドはよく先走ってしまう癖があり、それをサポートするのが副隊長であるグラジオと、ラバテラだ。
「リキッド、ここの敵は防水性能が低い。俺とラバテラで道を切り開く、中央まで突っ走れ」
「分かってるよ!よろしくね、二人とも!」
「もちろんです、お嬢様」
グラジオとラバテラは刀ではなく片手剣を扱う珍しい戦闘員で、副隊長であるグラジオはラファルを除いて司令官以外の唯一の戦闘適正A判定持ち。そして、ラバテラはサービス業適正S判定を持つ初老の戦闘員だ。
グラジオの戦闘技術はもちろんだが、ラバテラも戦闘適正は示されていないだけでB判定に届く実力を有している。
その他二人、ラナンジとロメリアは遠隔からの攻撃を得意としている。狙撃銃を扱うラナンジは今回は室内での任務のため外で待機し、特殊なドローン型の武器を扱うロメリアも同じく外で待機。だが、それでも十分に成り立ってしまう程にこの三人は強い。
「リキッド、この辺でいいだろ。やってくれ」
「はいよ!」
リキッドが地面に手をつけ、施設一帯に水を拡げていく。ただ浸水させるのではなく、薄い膜を張るように。
やがて、リキッドは施設全体の構造を水を伝って把握し、そして電子機器の僅かな隙間に水を侵入させていく。
この緻密な操作技術こそ、リキッドの強さの本質。
「モード:感電!」
その瞬間、リキッドは水の量を一気に増やすと同時に手袋から電流を流す。
浸水した電子機器は即座にショートを起こし、全てのブレーカーが落ちた。これでこの発電施設の機能は完全に停止、その上リキッドは放出した水を全て吸収し、復旧も容易な状態に戻した。
「いっちょ上がり!防水性能が無いと楽で助かる〜!」
「お嬢様、お見事でした。任務も終わった事ですし本部に戻りましょう。帰ったら甘いプリンがありますよ」
「マジ!?速攻で帰ろ!グラジオ、二人に帰る準備しとくように連絡入れといて!」
「はいはい、言われなくてもそうするさ」
電撃分隊、その強さは言わずもがな、隊員同士の家族のような距離感もこの隊の特徴だ。
司令官であるリキッドは、外に出た時ふと都市全体を見渡す。現在、都市内で活動しているのは殲滅小隊と決戦中隊の二つ、どちらも攻守共に優秀な部隊だ。
だが、それでもリキッドはいつも考えてしまう。
「もし、戦うのがベノワだったら...」
彼女の紫色の瞳には、いつも一人の青年の姿が浮かんでいる。かつて、その青年に命を救われた。その青年に憧れ、そして恋焦がれた。
リリースの司令官であるその青年は、今回のような大規模作戦の時は必ずリリースの本部で待機している。
彼は任務を任されていないのではない。最も重要な任務、本部の防衛を一任されているのだ。
「いつか、一緒に戦えるといいな」
いつか、彼と肩を並べて戦いたい。そう、リキッドは思いを馳せる。
帰路に着く彼女の背中には、いつも頼りになる仲間がいるというのに。
今回のお話はいかがでしたか?
これからも自由に物語を創っていきますので、どうぞお楽しみください。
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