Second.茨の道
あなたの記憶の本棚に、ぜひ私の作品を入れさせて頂けませんか?
「ここがお風呂場で、そこにあるのがランドリーね。え〜っと、ここのフロアはこれで最後かな...」
ラファルがリリースに来た翌日、彼女はピナに施設内を案内してもらった。
ラファルの職業適正検査の結果はまだ来ていない為、とりあえずは諸々の娯楽施設や生活設備を案内している。
「それにしても本当に広いですね。ここ、人口はどれぐらいなんですか?」
「外に住んでいる人も合わせてざっと10万人ぐらいかな。施設内だと1000人程度だよ」
「その1000人ってみんな戦闘員の方ですか?」
「いいや、事務員だったり補助員とかもいるから、戦闘員だけだったら800人ぐらいかな?」
ラファルはこれまでですでに色んな事を教えてもらった。
街のインフラを整備したり、荷物を運んだり、ゲームを作ったり、お店を経営したり、そして前線で人工知能と戦ったりと様々な職業がここにはある。
その中でもリリースの戦闘員というのは、一番危険の伴うもの。改めて、ラファルはピナがどれだけ凄い人なのかを実感する。
命を救ってくれた偉大な人、叶うならばこの人の役に立つ仕事をしたい。そう、ラファルは思った。
「さて、後はこの施設の外なんだけど流石に広過ぎるから、それはこれからゆっくり知っていこうか。たまに一緒に出掛けたりしてさ」
「一緒に...はい!一緒に行きたいです!」
「ふふっ、じゃあ部屋に戻ろうか。そろそろ適正検査の結果も届いてるだろうしね」
これからの生活に心を踊らせながら、ラファルはピナの隣を歩く。
ピナは、当たり前のように一緒に出掛けようと言ってくれる。助けてそれで終わりでは無いんだ。彼女は、出来る限りラファルに付き添おうとしていた。
◇◇◇
ラファルとピナは数分歩き、ようやく自分達の部屋へ着く。こうも施設内を歩くと、ここがどれだけ広いか改めて実感出来る。
ピナが扉を開けると、そこにはいつも通りのシエルがいるリビングが広がっており、彼はテーブルの上に1枚の紙を広げていた。
「シエル!それ、もしかしてラファルの?」
「ああ、そうだよ。そうなんだけどね...」
シエルはなぜか頭を抱えている様子だった。
余程結果が悪かったのだろうか、いやよく見ればそうではないのだと分かる。シエルは確かに頭を抱えているが、俯いているその顔は笑っている。つまり、彼はその結果を見て面白がっている。
ラファルとピナはシエルを横目にテーブルの上の検査結果を見る。そこには、"戦闘員適正A判定"と書かれていた。
「っ...!?はっ、えぇ!?A判定!?」
「ははっ、凄いだろ?まったく期待の新人にも程があるよね」
「どういう意味なんですか?戦闘員適正までは分かりますけど、A判定って...もしかして凄かったりします?」
「凄いに決まってるじゃん!」
ラファルがあたふたと混乱していると、ピナが勢いよく彼女の肩を掴む。
その顔はとても嬉しそうで、瞳はきらきら輝いていた。明らかに興奮している様子だった。
「戦闘員適正ってだけで十分すごのに、しかもA判定って本当に凄いよラファル!A判定は今までに5人しか居なくて、しかもその5人の内4人は司令官を勤めてるんだよ!もう1人も分隊の副隊長を勤めてるし、本当に凄い人達だらけなの!」
「そ、そうなんですね...でも、私最近まで普通に暮らしてたただの一般人ですよ?もしかしたらバグかなんかなんじゃ...」
「いや、バグじゃないぞ。A判定は二段階の工程を経て検査結果が出るからな」
部屋の入り口に長身の男が立ち、ラファルの言葉を否定する。
男の衣装は他の戦闘員とは違い、特殊なカスタマイズが施されているようだった。そして何より、その赤い眼光は圧倒的な存在感を放っている。
ラファルがその存在感に息を飲んでいると、男の声を聞き、振り向いたピナが声を上げた。
「フラムさん!どうしたんですか?ここに来るなんて珍しいですね」
「ピナ、業務連絡だ。明日の20:00から炎熱分隊の出動命令が入った。目標は第七都市の南西部、連絡線を断つぞ」
フラムの知らせを受けた途端、ピナとシエルの顔付きが変わる。内容からして戦闘任務なのは間違いがないのだろうが、それにしても一変したこの空気は息が詰まりそうになる。
第七都市は、九つある都市の内の一つでリリースの拠点があるここ第九都市の北西に位置する。
リリースは現在、第九都市の制圧をほぼ完了しており、次に第七都市の連絡線を断つという事は、近いうちに第七都市も制圧するという事なのだ。
連絡線さえ断ってしまえば後は袋のネズミだ。つまり、この任務が成功すればリリースは二つの都市を手中に収めることになる。
「あの、私は何かお役には立てませんか?私も、リリースの為に何かしたいです」
ラファルはフラムに向けてそう告げる。
ピナの態度からして、このフラムという男はピナよりもベテランの戦闘員なのだろう。だからこそ、ラファルは彼に問う。
「ラファルと言ったな。そう思うなら、明日の任務に着いて来るといい。俺達リリースが何をしているか、その目で見て自分で判断しろ。自分が、何になるべきなのかをな」
「フラムさん!まだラファルはここに来て日が浅すぎます!いくらA判定があるからと言って、流石に現場はまだ...!」
ラファルを心配しての事だろう。ピナはフラムのその提案に反対する。
だが、ピナが反対しようがそんな事は関係ない事だ。なぜなら、これはラファル自信の問題なのだから。
「行かせてください。私は、リリースに...ピナさんに命を救われたんです。私にも才能があるというのなら、知っておくべきです。その道が、どんな茨の道なのかを」
ラファルの意志は固い。その瞳は、決意に満ちた白い眼光を灯している。
その顔を見て、ピナもこれ以上は口の出しようがなかった。フラムもその様子を見てほんの少し微笑み、口を開く。
「決まったようだな。なら、全員明日の19:00には地下一階の車両格納庫に集合だ。軽いミーティングを行い、現場へ直行する。では、また明日な」
そう言い残し、フラムは部屋を去った。それと同時に緊張が解けたのかピナはため息を吐きながらソファに座り込んだ。
「はぁ...まったく、ラファルも肝が据わってるね。まさかあのフラムさんにあんな啖呵を切るなんて」
今さらだが、ラファルはフラムがどういう立場の人間かを知らない。
エリート戦闘員であるピナですらかしこまる程の立場の人。そこまで考えて、ラファルは少し顔を青ざめさせる。
そして、ラファルのその顔に追い討ちをかけるようにシエルがさらっと口を開く。
「フラムさんはさっきピナが言っていたエリート部隊の一つ、炎熱分隊の隊長。このリリースに七人いる司令官の一人だ」
司令官、リリースの最高幹部と言い換えてもいい。
総司令官であるデゼス・ポワールを含む七名の戦闘員は司令官として時には戦場で、時には技術面で、様々な場面でそれぞれが司令官としての役割を果たす。
彼/彼女らはまさにリリースの要。それが、この場の三名が先程顔を合わせたフラムなのだ。
「という事は、そのピナさんってエリート部隊...炎熱分隊の隊員なんですか?」
「まぁね。炎熱分隊は戦闘特化の分隊で、全員が熱に関する武器を扱う。まあ、明日になればどんな戦闘をするかとか色々と分かると思うから、その時にシエルが説明してくれるよ」
「僕はあくまでもピナの補助員なんだけど?」
「いいじゃん、これから長い付き合いになると思うしさ!親睦深めといてよ!」
長い付き合い、そう長い付き合いになるのだ。
ラファルはこれから、リリースの...そしてピナの役に立つと決めた。そこには決して曲がる事のないような固い意志が芯としてある。となれば、ピナの補助員であるシエルとも自然と関わる事になるだろう。
ラファルという少女は今まで、窮屈な世界で不満を叫ぶことで精一杯だった。だが、これからは自らの手でこの窮屈な世界を変えていくのだ。
たとえその選択の先にあるのが、果てしない茨の道だったとしても。
今回のお話はいかがでしたか?
これからも自由に物語を創っていきますので、どうぞお楽しみください。
感想、お待ちしております!
追記:3月7日、少し修正を入れました。内容といたしましては、
・"小隊"という単語を"部隊"と"分隊"に必要に応じて変更。
・過去の"A判定"持ちの人数やその職業など。
・その他文言の訂正。
の以上となります。




