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Paint the Sky  作者: 小日向 おる


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Fly with me 02

 ハルトやルース機関士長はソフィアの計画を聞いてはいたが、まさか一人で実行するとは思っていなかった。

 医療棟に運ばれたソフィアを見て二人とも愕然としたが、医療部長のルシア・ロペスに「見た目程酷くない」と告げられ安堵した。




 ルシア・ロペスは「職務であるから治療にあたるが、貴方達の思いを尊重したい」と言い出した。

 ハルトは不審に思い、ルシアを問い詰めた。


「私はシャハルを愛してるの。誰にも渡したくないのよ。ソフィアさんを死んだ事にして、生命維持カプセルで上陸まで隠しておくことは出来るわ」


 小柄な身体を震わせ、そう気色ばんで言った。

 痛みに顔を歪めたソフィアは一も二もなく了承した。


 すぐさま治療は開始された。

 脚の骨折をルシアが外科手術し、一旦治療の為の液体の詰まったタンクへ運んだ。

 一通りの治療を終え、ルシアがまず口にしたのは謝罪だった。


「カツラギさん、シャハルの命令とは言え会社を解雇したことを謝罪します」


「⋯⋯え?」


「私が所長でした。ほとんど顔を出さなかったので⋯⋯」


 小柄だがキツめの顔にブルネットの髪。視線を合わさず、おどおどとルシアは話した。

 髪はきっちりと後ろで留められ、術衣にドクターコートを羽織っている姿とは裏腹に、とても気弱な印象だ。


「今さらですね。もういいですよ」ハルトはため息混じりに告げる。


「さて、これからの話をしよう」


 ルース機関士長としてはルシアの案に安易に乗った事を不安に思っていたが、娘が了承してしまった以上先に進める他なかった。

 三人は膝を突き合わせ、今後の打ち合わせをする事になった。




 シャハルのもとを訪れたハルトは、ソフィアが危篤状態であると告げた。

 ルシアは生還は難しいかもしれないが、全力を尽くすと言った。


「ソフィアの複製(クローン)を作れ。意思はいらない。予知は発現するならそれに越したことはない。無いなら副脳を付けて管理しろ」


 シャハルは意に沿わぬなら、形だけでも同じものが欲しかった。


「わ、私、サポートするわ」


 何故かルシアがハルトに追従しているように見える。シャハルは腑に落ちなかった。


「いや、ハルトがやれ。クローンは六十四体。最初のは俺の妻にする。生殖能力も必要ない。その後は代々の妾だ。人型コンピュータとして活用させろ」


 ルシアが目に見えて慌て始めた。

 シャハルはルシアが自分に想いを寄せているのを知っていたが、そんな事はどうでもいい事だった。


「ああ、わかった。しかし何故六十四体も? 設備を調整する事になるがいいのか?」


「構わんよ。移住のサポートにいればいいと思ってなぁ。それだけいれば移住後の生活も楽になってるだろぉ」


「道具にするつもりか?」ハルトは怒りを滲ませた。


「色々と便利なんじゃないかなぁ」


「⋯⋯⋯承知した」


 ハルトは眉間に皺を寄せてをシャハルを睨んだが、それすらもシャハルにとっては面白い。

 だが、何故か従順なハルトが気に入らない。思惑あっての事かと思案し、星船に閉じ込める事にした。


「準備期間は二年。お前は上陸する事はゆるさん」




 それから一年後に星船は惑星へと降り立った。

 しばらくの間は星船で居住しつつ、開発はゆっくりとしかし確実に進められた。


 人々が開拓と野生生物の討伐に明け暮れている間、ハルトは医療セクションに籠もりきりでソフィアのクローンの成長を見守った。


 初期段階でハルトが中座した折り、ルシアが研究室に入り込んだ。

 しばらく作業した後、何食わぬ顔で立ち去ったが誰も気付かなかった。


 そうして二年が過ぎ、シャハルはハルトのもとを訪れた。

 成長を加速させた最初の一体は既に培養槽から出され、白い術後服を纏い診察台に座っていた。

 ハルトが小声で何か告げるとクローン(それ)はゆっくりと目を開いた。


 固唾をのんで見守っていたシャハルは、眉間に皺を寄せた。


「目が赤いなぁ。髪も白すぎないかぁ?」


「きちんと設定したはずなんだが、何故かこうなった。予知のギフトについてはソフィア自身も成長してからのようだし、まだ様子見だ」


「⋯⋯髪は誤魔化しが利くが、目は困るな。本人と思わせたいからな。二体目からはそのままでいい。建国祭に即位と婚礼も合わせる。それまでに何とかしろ」


「承知した」




 シャハルは周りに持ち上げられるまま国王となった。

 王妃はソフィアのクローンだが、クローンである事は秘匿された。


 惑星名を『マグノリア』、国名は『マグノリア王国』、そしてシャハル自身は『オルトゥス・レイ・マグノリア』と改名した。


 十一のセクションの部長たちを元老院と称して政治の核とし、彼等とシャハルのお気に入りは爵位を与えられ貴族社会が構築された。


 星船で地球のドーン商会の交易船と通信が行われていたが、エピ公爵となったステファン・バーレイがこの移住計画の目的である『必要最低限の科学で生きる』為にはそろそろ星船を捨てる事を進言した。


 盆地に着陸した星船は埋められ、その上部に発光微生物による有機発電所が建設された。

 居住地の間には【大神殿】が据えられ、後世にまで続く移住のシンボル【聖女ソフィア】が祀られた。


 時を経るにつれ、ステファンの科学への拒否感は度を越していった。

 ステファンは地球から定期的にやってくる交易船を締め出そうとした。交易船は地球からの監視を兼ねているからだ。


 流石に全てを今すぐ閉じるのは問題があると他の元老院メンバーは考え、二千キロ弱離れた遠隔地に交易船との窓口を造った。

 娘の件でシャハルと険悪になっていたルース機関士長が立候補し、そこへ家族と共に赴任する事となった。




 ルース機関士長はハルトの肩に手を置きソフィアの眠る生命維持カプセルを見つめた。


「俺が行けば何かとバックアップ出来るだろう。いざという時の為にソフィアを移動出来る準備もしよう。君が六十四人目まで命を続かせるなら、子孫にもバックアップを引き継がせる。安心してしばらくの間カプセルに入るといい」


 ハルトは一人目のクローンをシャハルへ渡した後、タイミングを見計らって六十四人のクローンたちを見守るつもりだった。

 だが寝ている間、クローンの管理を任せられる人物がいない。

 星船で作業するアンドロイドの一体を自分に似せて、後を任せる事にした。


「機関士長、よろしくお願いします」


 ハルトは深々と頭を下げルース機関士長を見送った。  

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