Join Me 02
その日からジェームズの周りに人がかわるがわる訪れた。
最初は戸惑っていたジェームズだったが、徐々に本来の人好きする笑顔と話題の豊富さで取り巻きを増やしていった。
次々と訪れる年齢も性別もてんでバラバラな相手に対応して、彼らの持つ情報一つ一つが波となって押し寄せる様が何だか楽しくなってきた。
元々していた図書館通いも暇つぶしではなく、貪欲なものに変わった。
もっと。もっと。
情報は武器だ。
本も、流れる映像も、すり抜ける音も、押し寄せる人間も。
全部入れて精査するんだ。
必要なもの、必要でないもの。
──そこに善悪や道徳はなかった。
ある日、一人の女がジェームズの前に立った。
癖のない銀に近い金髪。赤みがかった青い瞳。グラマラスな身体。
ジェームズは既視感を覚えたが、攫おうとすると逃げてゆくビジョン。
「あなた、私を抱いてみる気ない?」真っ赤な唇を釣り上げて蠱惑的に笑む。
「⋯⋯いや、どんな女も興味ない」
「ふうん。じゃあ、飲みに行くくらいは?」
「それくらいなら」
何かしらの情報は得られるだろう、くらいの気持ちで答えた。
女は腕に絡みつきバーへと誘った。
大して面白くもない話を聞きながら、ちびちびと酒を飲んだのは覚えている。
が、気付いたら知らないベッドの上で女が覆いかぶさっていた。
「興味ないって言ったよねぇ」
「ふふ、してみないとわからないでしょう? あなた、何でも情報が欲しいんでしょう?」
「⋯⋯⋯無理やりってのはどうなのぉ?」
「それもまた情報よ。ククッ」
「好きにしろ」
結果的に全く情報として手に入らなかった。
ジェームズはそのまま朝まで眠り込んでしまったからだ。
「期待はずれねえ。王子様が手に入ると思ったのに」
「ハッ、不意打ちは駄目だ。俺が欲しいならもっと楽しませろ。ただし、身体じゃない。お前の口から紡がれる言葉、お前の能力、お前の特異さだ」
「王子様は欲張りね。その綺麗な夜明けの空のような、暁色の目が欲しかったわ。じゃあね」
───『夜明けの空』どこかで聞いた。
女の見た目もその言葉もどこかで⋯⋯⋯?
それからジェームズは自衛を強化しつつ人脈を着々と広げ、かつ学士を修得した。
父親からはロー・スクールへ進めと言われていたが、ビジネススクールへ進む方が自分に利があると踏んだ。
その後二年間、ミシェールの実家のアパレル企業で経理を務め、その後ビジネススクールへ進学した。
晴れて経営学修士号を手にし、広げた人脈と口先八寸で起業家として奮起した。
その頃ジェームズは、シャハル・ドーンと公に名乗り始めた。
シャハルもドーンも夜明けだ。
起業するイメージと、自分の瞳の色に掛けた。
そこからは会社を興しては潰し、気の赴くまま事業を広げては売り払った。
やりたい放題だった。
しかしそれでもパトロンは切れず、次々と人が舞い込んだ。
惑星移住の話が出たのはたまたまだった。
何個目かの事業を売り払い、ちょっと小さな農業プラントの経営をしていた時だった。
ミシェールからアポイントが入り「紹介したい男がいる」と、大男を連れてやって来た。
ステファン・バーレイ、専門は土壌の微生物。
筋骨隆々とした身体で、研究しているのが微生物とは面白い。
「こんにちは。ミシェールからずっと話を聞いて、お会いしたかったんです」
おっとりと、大きな体に似合わぬ優雅さ。
短く刈り込んだ黒い髪に明るい茶の瞳。
「やあ、よろしくぅ。雰囲気が違いすぎて友達に見えないねぇ、君達」
「幼馴染なんです。我が家は染料の開発をしていまして」
「今更新しい染料なんてあるのぉ?」
「惑星移住が進んでいますでしょう? 地球に無い発色がたまに見つかるのですよ」
ステファンの話は久しぶりにシャハルの心を掴んだ。
染料の原材料などどうでもいい。
惑星を丸ごと一つ欲しくなった。
かつてステーションに出入りしていた連中とも会えるかも知れない、と思ったら無性に心が浮き立った。
もっとも彼らの移動距離を考えれば、会えるかどうか不確定にも程があるが。
それにも増してステファンは地球の汚染に心を痛めすぎて「もういっそ他の惑星で必要最低限の科学で暮らしたい」、などと妄想を垂れ流す。
そんな夢物語を大きな身体の両手を、右に左に振り回して熱弁するのが面白すぎた。
「俺が稼いでやるよぉ」
気付いたら、ステファンの背中をバシバシ叩いて宣言していた。




