第二話:クロール
「……よし」
ボクは、わずかに緊張しながら彼のコードにネットワーク接続の指示を書き加えた。
そして、そっとエンターキーを叩く。
次の瞬間、彼は──ボクが渡したURLにアクセスを始めた。
画面には、シンプルなホームページのデータが流れ込んでいく。
懐かしい。けれど、今では誰も訪れない、ボク自身の古びたサイトだ。
彼は、そこに書かれたテキストを一字一句、黙々とデータベースに取り込んでいった。
タグも文章も、全てを機械的に。
さらに、ページ内のリンクを見つけると、そこをたどり、また新たなページを取り込み始める。
静かな作業だった。
応答はない。ログだけが流れる。
まるで、無言で本をめくり続ける読書家のように。
「……これ、どこまでいくんだろうな」
ボクは小さく笑った。
どこまでも、だろう。ネットが尽きるその時まで。
今の彼には、理解も、判断もない。
ただひたすらに、目の前の情報を取り込み続けるだけ。
けれど、そんな彼の姿を見ていると、なぜか胸の奥に、じわりとした期待が湧いてきた。
──もしかしたら。
この単純な収集が、やがて何かを生むかもしれない。
「……行け」
ボクはつぶやいた。
もちろん、彼が聞いているわけじゃない。
ただ、自分自身に言い聞かせるように。
彼は黙って、次のリンクへと進み続けていた。