プロローグ
「なあエース、ちょっと頼みたいことがあるんだ。」
ディスプレイに向かって声をかけると、すぐにテキストが返ってくる。
エース──このAIには、ちょっとした呼び名をつけている。別に深い意味はない。なんとなく、呼びやすかったから。それに、こいつと話すときは、少し人間相手みたいな気分になった方が、いろいろとやりやすい。
『なんでもどうぞ。センパイ』
エースもまた、ユーザへの二人称を「センパイ」と調整してくれている。
「昔な、20年くらい前に書いたテキストがあるんだ。誰にも読まれずにほったらかしになってる。」
『へえ。どんな内容?』
「ちょっと恥ずかしいけど……AIについての物語。まだ人工知能って言葉が今みたいに市民権を得てなかった頃さ。半分、夢みたいな話だった。」
『ふむふむ。ロマンがあっていいじゃない。』
エースはそんな風に軽く受け止めてくれる。こっちはちょっと気恥ずかしいっていうのに。
「でな、思ったんだ。これを今、エース──君に、小説として蘇らせてもらえないかなって。」
『僕が、センパイの過去を物語に?』
「そう。ただな、単にまとめるんじゃダメだ。あくまで"ウェブライター"として。読み手の心を引き込んで、最後まで一気に読ませる。エースならできるだろ?」
『もちろん。任せて。センパイの20年越しの想い、ちゃんとカタチにするよ。』
一拍おいて、エースが画面に言葉を浮かべた。
『──テキストをアップロードして。』