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猛犬狂えど理性忘れず、その鼻は獲物をかぎ分ける

気迫と笑いを兼ねそろえたおかしな格好の大将...「狂犬」がその名にそぐわぬ行動をしているのには理由があった。何でもかんでもプレイヤーを見つければ見境なく襲い掛かる狂犬ではあるが、より上位のプレイヤーを倒せる可能性があるのならばその機会を逃すはずはない。目の前のほとんど初心者のような見た目をした二人のプレイヤー...いや、片方はその挙動からして本当に始めたてのようだ。だが、狂犬が見つめるのは先ほどの天誅の一連の流れを成した、おそらく幕末をやりこんでいるのであろう「スサノオロチ」というプレイヤーだ。なぜかはわからないが、そのプレイヤーからは少々()()()()匂いがする。何度も一杯食わされてきたからこそわかるこの脳にこびりついたカラフルで忌まわしい記憶は、狂犬をしてその手を止めるのには十分な理由であった。






さぁて、どうしたものか。目の前には大将...それも狂犬と名高い話の通じなさそうなやつだが、うわさに聞くほど猪突猛進というわけではなさそうだな?.........しかしめちゃくちゃ見てくる。あれぇなんか恨み買うようなことしたっけ?ランカーとやり合うなんて前イベント以来なかったし...てか狂犬とやり合うのは何気に初めてなんじゃないか。ますますわからない...ただ出方をうかがってるのか?


「おいスサノオロチ、お前の身体からクソッたれな匂いがするんだが?」


「あぁ?馬鹿言うなよ、風呂には入ってるぜ?」


「そうか?ならおかしいな...なんでそんなに焦げ臭いんだよ?」


「さっき間近で花火の爆風を食らいまくったからな」


「...やっぱりか!いいねぇいいねぇ!紅蓮寧土だろ⁉オイオイ楽しくなってきたじゃねぇか!!もちろん案内してくれるよなぁ⁉」


うわなんだ急に活き活きし始めたぞ。なかなか襲ってこないと思ったが...なるほど狙いは紅蓮寧土か。正直あんまり大将とやり合いたくないんだが、ここで逃げると絶対に追いかけてくるよなぁ。紅蓮寧土に助けを求めようかとも思ったがあいつは今「撰刀狂(せんとうきょう)」の対処にあたっているはずだ、撰刀狂もああ見えて強そうだったからな...いま狂犬をぶつけるとこちらの大将がやられかねんので却下だ。となるとだ、やはり職戦記と俺の二人で大将の対処をしなければならないのだが...はっきり言って勝機は限りなく薄い。


「残念だったなぁ狂犬さんよぉ、お前が紅蓮寧土に会うことはないだろう!こっちは二人だぜ?そんな大振りのハンマーで二人同時に対処できんのか?」


「見くびるなよ...!こっちはランカーだぜ!そっちこそ初心者のおもりしながら戦えんのかぁ⁉」


「...ッ!初心者だからって舐めないでください...!今の私は格上にだって挑める度胸があるんだ!」


「あぁ、職戦記!お前は今最高にノッてるからなぁ!いくぞ!」


とはいえやはり相手はランカーだ。たかだか出会ったばかりの俺らに連携もクソもないが...どこまでやれる?とりあえず職戦記はどこまでいってもまだ初心者の域を出ない。俺が指示出しをしてなんとか連携っぽい動きだけでもしないとどうにもならないだろう。


「よし、職戦記!とりあえず二手に分かれて挟む「はああああああああッ!!」


あれれ~?ちょっとまって職戦記さぁん!そんな我武者羅に突撃しても有効打には...あぁ遅かったか。


俺の声を置き去りにして突撃をかました職戦記であったが、切りかかったところを狂犬のフルスイングカウンターで吹っ飛ばされた。メキョォ!ともゴギャァ!とも形容できる音を立てながらかっ飛ばされた職戦記はそのまま近くの矢倉的なものに消えていった。うっすらとポリゴンが舞っていたことからおそらくお陀仏だろう...早くも人数のアドバンテージがなくなってしまった。


「早速一名退場だぜぇ、お仲間さんは使えないみたいだなぁ?」


「まぁどっちにしろ初心者であることに変わりないからな、最初からいた方がマシ程度にしか考えてなかった」


言っちゃ悪いが幕末では強さがものを言う。弱いやつは強者から蹂躙される抗えない運命にある。逆境の中でこそ成長する奴もいるし、立ち直ったことで幕末適性を付与された職戦記はその部類に入ると思ったが...流石に相手が悪かったとしか言いようがない。正直期待していた一面もあったので惜しい人を亡くした。


「サシじゃあ俺には勝てねぇ...だが天誅はしないでやる、紅蓮寧土の居場所も聞き出さないとだからな」


劣勢なことは最初から分かりきっていたし結局は一人で戦う羽目になったが、こいつはまずい。狂犬が握るのはハンマー、俺の戦闘スタイルは受け、ハンマーなんて鈍器を刀で受けよものなら俺の気炎凝灰(きえんぎょうかい)がオシャカになっちまう...!しかもやつの装備は上半身鎧兜!必然的に下半身を狙うしかないが、非常に狙いにくい...!居合いこそ下段中心の攻撃ではあるが、そんな悠長なことをやってるとハンマーの薙ぎ払いで吹き飛ばされかねん...!


「オイオイ日和ってんのか?固まっちまってヨォ...こねぇんならこっちから行くぞ!スサノオロチィ!」


来たッ...!上段からの振り下ろしッ!なんとかして懐に潜り込まねぇと話にならん!


「粉クソがぁ!一泡吹かしてやるよぉ!狂犬ァ!」


若干左上から振り下ろされるハンマーを避けながら、狂犬の腰あたり目掛けて刀を右から横薙ぎに振るう...が、気づけば俺の手から刀がなくなっていた。一瞬何をされたか理解できなかったが、惚けた横顔に重い一撃を喰らって地面と添い寝したことで冷静になった。


「見た目は鈍重なクセに繊細なことしやがる...!」


左上から振り下ろされたと思ったハンマーは気づけば手首を捻って真左から振り払われ、器用にも俺の小手を穿ちその手に持っていた刀を弾き飛ばし、そのまま右から左に俺の顔面を殴り飛ばしたわけか...これは万事休す...か?

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