結婚届を持った目覚めの姫
「おお!なんと美しい…!」
王子は感嘆の声を上げた。目の前にはガラスの棺に横たわる白雪姫。彼女の肌は新雪のように白く、頬と唇は鮮やかな赤、髪は漆黒の夜を思わせる。王子はその美しさに心を奪われ、思わず息を呑んだ。
「ええ…白雪姫様は、誰もが認める美しいお方です。」
棺を囲む小人たちは、王子に静かに語りかけた。彼らの目には、姫への愛と悲しみが浮かんでいる。
「どうして彼女はこうなったのだ?」
王子の問いに、小人たちは急にそわそわし始めた。互いに目を合わせ、何かを隠すような落ち着かない様子だ。やがて一人の小人が意を決して口を開いた。
「実は…最近、私たちが継母のお妃様を『美しいね』って褒めたんです。それを聞いて姫が怒り出して…リンゴを大量にやけ食いしてしまい、そのうち喉に詰まらせてしまって…」
小人たちは泣きながら「助けてください」と王子に懇願した。王子は驚きつつも、深く息を吸い、白雪姫の唇にそっと顔を近づけた。
「なんと美しい…」と囁き、あと少しで唇が触れそうになった瞬間――
突然、白雪姫がバッと目を開けた。
「ひっ!」
王子は驚き、後ずさりした。冷や汗が額に滲み、足元がふらついている。
「ちっ、目を開けるのが早すぎたか…」
白雪姫が舌打ちし、不機嫌そうに唇を噛む。小人たちは歓声を上げ、喜びに満ちた声が森の中に響き渡る。しかし、王子は恐怖に震え、後ずさりして逃げようとしていた。
「おい、待てよ。逃げんなって。」
白雪姫が鋭い声で呼び止める。王子が恐る恐る振り返ると、彼女は不敵な笑みを浮かべていた。
「初キスを奪っておいて、逃げるとかありえないでしょ?責任取って結婚しなさいよ。」
白雪姫の手には婚姻届がしっかりと握られていた。
「ちょ、ちょっと待て…」
王子が言葉に詰まっていると、白雪姫はさらににじり寄り、ニヤリと笑った。
「逃げられると思ってるの?私、あなたのこと全部調べてるんだから。お城の住所もSNSも、あなたの好きな朝食までね。オムレツ派だよね?」
王子は冷や汗をかきながら、内心で思った。
「俺はとんでもない女に目をつけられてしまった…」
この恐ろしい女から、もう逃げられないと悟った王子だった。