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神力

2025年4月27日の改稿にともない、このエピソードをうっかり削除してしまい、後づけで挿入しました。更新の日付がおかしくなっているのはそのためです。


旧作品ではもっと大掛かりに神力お試しをしていましたが、展開のもたつきを解消するため簡略化しました。

 連絡を待っている間、マナーの練習に力を入れた。もしレスリー様とお会いするとなれば、相手は王族とそう代わりない立場。ハーラン王太子のときのように下手を打ちたくない。


 だが、聖力の制御ができるかもしれないと思うと、気が昂って練習に身が入らない。


「少し休憩いたしましょう」というクロエの声かけに、手紙の書き方の練習をしていた手が完全に止まっていたことに気づいて、慌てて謝った。


「ごめんなさい……。大丈夫、次はちゃんと集中するから」

「仕方ありませんわ。あのようないい知らせを受けたのですもの。聖女様が気になさるのは当然のことです」

「そうなのよね、なんだか楽しみなような、怖いような。今からどきどきしても仕方ないってわかっているんだけど」


 言いながら自分の手を開いたり閉じたりする。今まで意識しないまま溢れてしまった聖力は、相手を弾き飛ばしたり物を壊したりといった、散々なものだった。


 制御の練習が楽しみな反面、うまくいかずにレスリー様を傷つけてしまったらどうしようと思うと不安もある。


 その気持ちをクロエに打ち明ければ、「聖女様」と彼女が向き直った。


「私と、試してみられますか?」

「え?」

「もしかしたら私にも、神力が備わっているかもしれません。私の母はトール国王陛下の姉ですので、わずかではありますが、私にも王族の血が流れています」

「えぇ!? クロエって王族だったの?」


 思いがけない情報に驚けば、クロエは即座に首を振った。


「私は王族ではありません。母は父と結婚したことで王族の籍を抜けました。今は公爵家の人間です。私もそうです」

「公爵って確か、貴族の中で一番偉いんだったっけ?」


 魔塔にいた頃、一般教養の一環で貴族の序列について学んだ記憶を引っ張り出す。この国には公爵家が二つあると習った。クロエの家はそのひとつということか。


 私の問いにクロエが頷いた。


「公爵である父の元に母が嫁いだ形です。ですのでトール国王陛下は私の叔父、ハーラン王太子殿下はいとこにあたります。陛下のご長女でいらっしゃるレスリー様よりもさらに傍流になりますので、神力は期待できぬとは思いますが、少しでも聖女様のお心が晴れるのであれば、試してみられますか?」

「いいの?」

「もちろんです。とはいえ、何をどうすればいいのか、私もよくわからないのですが……」

「私も同じだから気にしないわ。でも、やってみたい」


 もしレスリー様が制御の手伝いを引き受けてくれたとして、いきなり本番を迎えるよりも、今ここでクロエと練習しておいた方が安心だ。


 クロエに怪我をさせてしまうかもしれない可能性も過りはしたが、修道院で過ごした二週間の中で、私の心を乱す事象は何一つなかった。退屈と自分の不甲斐なさに少し落ち込んだだけで、その他はずっと落ち着いていられた。


 だから怖いものなんてない。クロエは私を傷つけたりしないと知っている。


 向かい合って座った私たちはお互いの手を取った。クロエの手はみずみずしく、とても綺麗だ。ここでいろんな手仕事をこなしているとはいえ、元が美しいからなのか、長く細い指の白さが際立っている。公爵令嬢だったとわかれば、それも納得だった。


 高位貴族の令嬢だった彼女がなぜ神の家に入ることになったのか。気にはなったが言葉を飲み込む。今はこちらに集中すべきだ。


「少し集中してみますね」


 瞳を閉じるクロエ。真剣ながらもどこまでも優しい彼女の仕草に安心して、私も瞳を閉じた。


 しばらく手を握り合っていると、指先が徐々に暖かくなってきた。


 これはクロエの体温を感じているからか、それとも———。


「あ……」


 ふわりと、温かい風が指先に立ち上る。目を開くとそこが白っぽく輝いていた。


「これ……っ!」


 私が声をあげると、輝きは瞬時に消え去った。


「嘘っ! 消えちゃった」

「聖女様、大丈夫ですか?」

「クロエ、今の見た? なんか白くなってたよね」

「すみません、私はずっと目を閉じていたので……でも、聖女様の指先が温かいなと感じておりました」


 結ばれた指先にもう光はなく、ただ温かい感触があるのみだ。


 私はもう一度クロエに向き直った。


「もう一回! もう一回やってもいい? クロエ」

「えぇ、もちろんですわ」


 再びクロエと手を握り、意識を集中させる。なんとなく指先に強く念じてみるが、白い輝きが現れる気配はない。


 五分ほど手を握っていたが、何も変化がなかったため、私たちは手を置いた。


「うまくいったと思ったんだけどな……」

「ですがもし聖女様が感じられたのが神力で、光ったのが聖力だったのだとしたら、女性王族でも可能性があるということですよね。私は王家の傍流ですので今のが精一杯としても、レスリー様であればトール陛下のご長女ですから、期待できるのではないでしょうか」

「そっか、そうだよね」


 二人の間に見えた光が聖力の片鱗だったのかどうかはわからない。けれど魔塔で私が物を壊す瞬間に漏れでた青白い光と似た色が確かに見えた。記憶の薄いアウリクス大魔道士やハーラン王太子を弾き返したときの光も、そんな色をしていた気がする。


「きっと大丈夫ですよ、聖女様」


 クロエの励ましに、私も小さく頷く。


 聖力の制御ができるようになれば、自分に出来ることが見つかるだろうか。


 期待に胸を膨らませながら、魔塔からの連絡を待った。




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