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召喚聖女は運命の太陽に導かれて愛を知る  作者: ayame@キス係コミカライズ
第二章

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見舞い

2025年4月27日の改稿にともない、ここから二章とさせていただいています。この二章は旧作品の三章にあたる部分であり、章がずれただけで内容の変更はありません。

 レスリーは数日後、意識を取り戻した。


 面会が可能と聞いてすぐに部屋に駆けつけると、レスリーはもうベッドから起き上がって身支度をしていた。


「レスリー! 起きても大丈夫なの!?」


 私が悲鳴のような声をあげれば、彼女は、いや、彼はいつもの温かい笑みを浮かべた。


「あぁ、もう平気だよ」

「レスリー、なんか、雰囲気が……話し方も」

「うん、もう自分を偽らないって決めたからね」

「そう、なんだ」


 簡素な騎士風の服はもう何度か見ているもの。それでも彼が男の子だったと知って改めて眺めれば、あまりにも普通に似合っていた。


(本当に男の子だったんだ……)


 むしろなぜこれを少女だと思えていたのか。すらりとした肢体も、伸びやかな手足も、尖った顎も、少女というより少年のものだ。クロエが長身でスレンダーな印象があったので、彼女と血のつながりのあるレスリーもまた同じようなタイプなのだろうと思い込んでいたこともあるが、自分の目がどれだけ節穴だったのかと情けなくなる。


 彼が倒れて一週間が経過していた。倒れる前よりさらに細くなっているのは、毒と怪我のせいで栄養が足りていなかったせいだ。彼が少女に見せかけるために食事制限をしていた話は、すでにセリーナ様から聞いていた。食べたくても食べられない彼に修道院で呑気にお茶菓子を勧めていた自分は、どれだけ残酷なことをしていたのか。


「レスリー、本当にごめんなさい。あなたにひどいことをしてしまった」


 彼が眠っている間にもどんどん積み重なる罪悪感。知らなかったと言い逃れるにはあまりに残酷すぎることを、たくさんしてしまった。


「私のせいで、あなたはひどい怪我をして……クロエも連れ去られてしまって。なのに私だけが無事で……」

「ヒマリ、それが何よりのことだよ。あなたが無事なことが一番嬉しい。きっとクロエ嬢も同じように思っているはずだ」

「そんなこと……っ!」


 あるはずないと叫びたくなるのを飲み込んだのは、レスリーが変わらずふわりと包み込むような目で私を見ていたからだ。


「正体を明かして復権し、王位を得ようと決意したときから、多少の危険は覚悟していたんだ。だからこの程度のことは気にするほどじゃない」


 私に歩み寄ったレスリーはさらに言葉を重ねた。


「それよりも、あなたが無傷でいてくれることの方が本当に大事なんだよ、ヒマリ。私もクロエ嬢も、あなたに会えたことで己の立場を顧みることができた。何もしてこなかった自分の罪を認めて、まだ間に合うかと行動を起こした。その原動力になってくれたヒマリを守ることができたらと、いつも思っていた」


 レスリーの言葉が、大事な友達と思っていた人の言葉が、けれど私にはちっとも響かない。


 なぜこの人はこんなに傷ついてまで優しくしてくれるのだろう。私にはそんな価値なんてないのに。


 潤みそうになる涙腺にぐっと力を込めてやり過ごす。泣く権利すら私にはないと、そう思えて。奥歯を噛み締めながら目線を逸らすと、レスリーが不意に手を掲げた。


「ヒマリ、大丈夫? これは……聖力? ひどく揺れてる」

「え……」


 とっくに制御できるようになったはずの聖力がざわりと渦巻く感覚。ハーラン王太子と対峙したときのような大きな嵐ではないが、荒れた海のようなうねりが自分の周りを揺蕩っている。


「ヒマリ、落ち着いて。大丈夫だから」


 言いながらレスリーが伸ばしたその手を———咄嗟に払いのけた。


「え……」


 驚いたレスリーの身体が固まる。その目が訴えるのは「何故」という驚愕。


「何故」なんて、私が聞きたい。

「何故」あなたは、そんなに私に親切にしてくれるの?

「何故」怪我をしても、私を責めないの?

「何故」私の荒れた心を、いとも簡単に読み取ってしまうの?


 私には、あなたに親切にされる価値などないのに。

 私はあなたに「怪我をさせられた」と責められるのが普通なのに。

 私にはあなたの心が、真実何を思っているのか全然わからないのに。


「あ……」


 我慢していたはずの涙が、すぅっと頬を伝っていく。この気持ちはいったいなんだろう。


 レスリーに謝りたかった。自分の間違った行いのせいで引き起こしたことの責任を追及されたかった。過去に彼に対してやってしまったことを精算したかった。


 何故か。


(私は、守られたかったわけじゃない。私は、あなたと一緒に立ち上がりたかった……)


 フェリクスやアダム先生がレスリーの腹心となって活動していたように、クロエが私の代わりに己を犠牲にして王都へ向かったように。


 私もあなたの役に立ってみたかった。


(馬鹿だ、私ったら。自分にそんな力があるはずもないのに)


 フェリクスのように魔法や剣が使えるわけでも、アダム先生のように知略をめぐらせられるわけでも、クロエのように努力で得た教養や覚悟があるわけでもないのに、何ができると思っているんだろう。烏滸がましいにもほどがある。


 私は全然、レスリーにふさわしくない。


「ごめん、なさい……っ」

「ヒマリ!」


 振り払った彼の手に目もくれず、私は部屋を飛び出した。





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