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王太子

2025年4月27日に一章二章を統合させる改稿を行いました。この回の変更はありません。

 歳の頃は自分と同じくらいだろうか。外国人の年齢はわかりにくい。


 ホワイトブロンドのきらきらしい髪に白い肌、濃い青の瞳は、美しいと言えば美しいがやや軽薄そうな印象だ。通っていた高校にもこんなタイプの騒がしい不良たちがいたなと、思わず眉を顰めるほどには好きでないタイプだった。


 私が相手を観察している間にも、向こうからずんずん距離を詰めてきた。男というより少年といった方が正しいだろうか。背はさすがに自分よりも高いが、フェリクスやアウリクス大魔道士ほどではない。線の細さもあり威圧感までは感じず、そのおかげか、動揺する気持ちを抑えられた。


(……大丈夫、まだ、怖くない)


 王太子と名乗ったからには、この人がハーラン王太子なのだろう。礼を取るべきだが、あいにく私はこちらの礼儀をまだ知らない。


 挨拶くらいはしなければと口を開きかければ、彼が値踏みするように私の全身に目を走らせた。


「ふん、見てくれはそれほど悪くないな。サマーほどではないが、あの取り澄ましたデカ女よりはマシか。喜べ聖女よ、俺が聖力(せいりき)の制御を手伝ってやる。我が崇高なる神力(しんりき)とおまえの力を混ぜることを許そう」


 嫌な笑みを浮かべながら私の顎に手を伸ばしてきたとき、部屋の扉からエラ先生とマルグリットが駆け込んできた。


「お、恐れながら王太子殿下!」

「黙れ! おまえらに発言を許したおぼえはない!」


 一喝する王太子に二人が怯んだ。青い顔をしたエラ先生がそれでも言い縋る。


「恐れながら、私は聖女様の主治医です。聖女様はまだお加減が優れず……それに、聖力の制御を始めるのであればウェリントン副魔道士様の許可を……」

「黙れと言っただろう! おまえを不敬罪で投獄する! おい、誰かその女を連れて行け!」


 彼の怒号に、扉の近くに控えていた別の男たちが動いた。マントこそないがフェリクスの格好と似ており、帯剣もしていることから護衛か何かだろうと察した。


 咄嗟に声が出た。


「やめてください、エラ先生を離して!」

「うるさい! 俺に逆らうな!」

「お願いします! エラ先生を連れて行かないでください!」


 私が叫ぶのと同時に、辺りの空気が突然ぶわりと揺れた。エラ先生を拘束していた男たちが突然「うわぁっ!」と声をあげて転がる。


「聖女様……聖力が漏れて……」

「くそっ! おまえら、いったん下がれ!」


 マルグリットの掠れた声に王太子の命令が重なる。見れば私の顎に触れようとしていた手を、もう片方の手で庇うようにしながら後ずさっていた。


「この俺様の手を振り払うとは、貴様……っ」


 目の色を変えた王太子がぎりりと奥歯を噛む。


「申し訳ありません。自分でもどうしていいのかわからないのです。あの、もしやお怪我を」

「うるさい! ちょっと驚いただけだ。神力の持ち主である俺がおまえごときに傷つけられるわけないだろう!」


 王太子は悪態を繰り返しながらも「もういい!」と片付けた。


「女どもはもうどうでもいいから皆出ていけ! おいおまえ、さっさと力の制御の練習をするぞ!」

「え……」

「俺様と愛するサマーの婚儀の場におまえが列席して従えば、このカーマイン聖王国と次の王たる俺の勇姿を、各国に見せつけることができる。そのためにおまえにはさっさと外に出られるようになってもらわねばならん。この俺が貴重な時間を割いてやることを光栄に思って、せいぜい精進しろ!」

「あ、あの、私も制御できるのはありがたいのですが、どうすればいいのでしょう」

「おまえは聖女のくせにそんなことも知らないのか!」

「すみません……。あの、教えていただければ従います」

「俺が聖女のことなど知るわけないだろうが! おまえがなんとかしろ!」


 そんなこと言われても、こっちだって数日前に別の世界から召喚されたばかりなのだと、理不尽な命令に反論してやりたかった。少しずつこちらのことを勉強はしているが、聖力の制御の仕方までは習っていない。


 途方に暮れていると、苛立った王太子が私の腕をつかんだ。


「ふん! 聖女の聖力と王族の神力を“混ぜ合わせ”ればいいんだろう! 簡単なことだ、俺はこの国の王太子だからな。おいおまえ、俺様がありがたくも神力を注いでやるから、おまえは聖力を出せ」

「いや、そもそも聖力を出すっていうのがわからないんですが……」

「つべこべ言わずにやれ!」

「っ痛!」


 掴まれた腕に力が込められ、思わず振り払った瞬間。青白い光がバチっと激しくスパークした。


「うわぁっ!!」


 王太子が弾かれたように離れる。私に触れた腕の袖口の辺りがざっくりと切れ、一筋の血が流れ落ちていた。


「……貴様! この俺を傷つけたな!」


 踏み込んできた彼がぱしん!と私の頬を叩く。


「きゃっ!」


 勢いのまま後ろに倒れると、王太子が乗り上げてきてもう一度頬を叩かれた。


「よくもよくもよくもよくも———! 聖女ごときが俺を傷つけるとは万死に値する!」

「やめてっ!」

「うるさい! 黙れ! ……あぁ、神力と聖力を”混ぜ合わせ”るんだったな! 最初からこうしていればよかったということか!」


 殴られたショックと押し倒された勢い、それに胸元にかかった手のせいで、私の思考は一瞬停止した。


 人は、本当に恐怖したときに動けなくなる。私は、悲しいことにそれを既に体験していた。


 絶望する私の前で、王太子は醜悪な笑みと怒りを浮かべた。


「ふんっ、サマーには劣るが、なかなかそそる身体を持っているじゃないか。喜べ。この俺が、おまえに情けを恵んでやる……!」


 そして彼はワンピースの前身ごろに手をかけ、一気に引き摺り下ろした。


 ニゲラレナカッタ……ニゲテモ、オイカケラレタ———。


(いやだ……助けて……)


 ココハ オナジ、マエト オナジ、マエト イッショ———。


「いやあああああああああああああぁぁぁっ—————!!」


 叫びとともに光がすべてを引き裂き、飲み込んだ。




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