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召喚聖女は運命の太陽に導かれて愛を知る  作者: ayame@キス係コミカライズ
第一章

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告白

2025年4月27日に一章と二章を統合させる改稿を行っています。旧作品を読まれていた方は「出会い」の回から読み直していただけますと展開がわかります。ご迷惑をおかけいたします。

 二日後。再びレスリーが修道院を訪ねてくれた。体調は大丈夫かと気遣う彼女に正面のソファを勧め、クロエにも隣に座ってもらって、私は口を開いた。


「二人には言っておこうと思って。私と……ハーラン王太子殿下の間にあった出来事について」


 あの日、彼に襲われそうになったことを私は打ち明けることにした。なぜ私が女子修道院に籠るようになったのか、その事情を、私を支えてくれるクロエと、協力をしてくれているレスリーには知っておいてもらいたかった。


 この国の最高権力に近い位置にいる人のことを悪く言うのは気が引けたが、クロエは彼と婚約していたという事情を明かしてくれたし、レスリーは難しい立場にあるにも関わらず、半分血が繋がった兄に対し怒りを覚え、私のことを嗜めたりしなかった。


 二人は信用できる。この世界で、いや、前の世界も併せて、こんなに心を許せる人に出会えたのは久々だ。だから伝えておきたいと思った。


 そうして話し始めたのは、あの日あったこと。


 突然部屋を訪れた王太子の手を跳ね除けた私が彼に怪我をさせてしまい、苛立った彼が、聖力と神力を混ぜ合わせる方法と称して私を襲おうとした話。思い出したくないその記憶を、彼女たちに包み隠さず打ち明けた。取り乱したり泣いたりするのではと思ったが、意外と冷静に話し終えることができた。


「……そんなわけで、もう彼の力を借りることはできなくなっちゃって。怪我をさせてしまう可能性が出てきたからか、国王陛下に頼むのも無理じゃないかって話になって。回り回って、聖力の制御なんて危険な仕事を2人には頼むことになった理由が、こういうことなの。あ、でも、ここでクロエやレスリーに会えたから結果的にはラッキーだったなって私は思ってるけど、でも、2人には迷惑をかけちゃったね」


 申し訳なく思っているのに、泣きたくなるのを耐えようとすれば、なぜか顔が笑ってしまう。


 これじゃ反省の色なんて伝わらないなと焦っていると、「ヒマリ様!」と声がして、隣にいたクロエが私を抱きしめてくれた。


 礼儀作法が染み付いている彼女がこんな行動をとるのは珍しいことだ。


「クロエ……」

「申し訳ございません、私が……っ、私が悪いのです。ヒマリ様にそんな思いをさせるなんて……」

「え、ちょっと待って、クロエは別に何も悪くないと思うよ?」

「いいえ、私は長い間、ハーラン王太子殿下の婚約者でした。王族の婚約者という立場は、相手の誤った言動をお諌めする役割もあるのです。けれど私は、殿下が他の女性とトラブルを起こしたり、身分の低い者を蔑んだりする態度を、嗜めてはきませんでした。殿下が誰かと醜聞を起こしても、私はまるで他人事にように思っておりましたし、殿下が誰かに無体を働いても、後でその者や家門へのフォローをすることで収めてまいりました。婚約者として正しい行いをするよりも、殿下の自由にさせておく方が楽だったのです。私は、王太子妃教育さえ完璧にこなしていれば十分と、自身の役目から逃げていました」

「クロエさんは悪くないわ。すべてハーラン王太子の所業よ」


 静かに話を聞いていたレスリーもそう口を挟んだ。私もその通りだと思う。だがクロエは私を抱きしめたまま、首を振るばかりだった。


「あの頃、私がもっと殿下に寄り添い、かの人が為政者として正しい振る舞いを身につけることをお助けしていれば、ヒマリ様がそうした理不尽な目に遭われることもなかったはずで……」

「いえ、クロエさんの力を持ってしても、あの馬鹿は治らなかったわよ」

「バ……っ!?」


 いつもきりりとしながらも、選ぶ言葉は間違わない美少女から信じられない単語が飛び出して、目を丸くした。驚いたのはクロエも同じのようで、私の肩に手を回したままびくりと顔を上げた。


 うん、美人は泣きながら口をぽかんと開けた状態でも間抜けに見えないんだなと、妙な感想を抱くだけの余裕が、私にも戻ってきていた。それにしてもクロエは柔らかくてあったかい。上背があるものの、ほっそりとしているせいかあまり大きな感じがしなくて、よく大柄な男の人相手に抱く威圧感をまったく感じさせなかった。


「ヒマリもクロエさんも、あの馬鹿の被害者よ。すべての責任はあの馬鹿と、それを野放しにしてきた王家にあるのであって、二人が悪いことなんて何もない」


 馬鹿馬鹿と連呼するレスリーの口調は落ち着いているようにみえて、その実怒りを孕んでいた。滲み出る感情を制御しようと抑えているあたりは、やはり継承権はなくとも王族なのだと思わせる。


「王家に連なる者として、二人に心から謝罪を。もちろん謝って許されることではないとわかっているわ。婚約者として縛りつつ、自身の責任のすり替えを行おうとした王太子とそれを許した王妃の所業も、尊き聖女である以前にひとりのうら若き乙女であるヒマリに無体を働いたことも。わたくしに力があったら、絶対に断罪してみせるのに……」

「レスリー、ありがとう。でもあんまり言うとあなたの立場にも関わっちゃうから」


 国の権力者である王妃や王太子を名指しで批判することの恐ろしさは、外部の人間である私にもわかること。とりわけレスリーの微妙な立場では、命すらも危険に晒す可能性がある。この部屋には私たちしかいないが、魔法がある国だ。どこで誰がどのような手段で聞いているとも限らない。


 いつもは礼儀正しく、必ず一線を引いてくるクロエが私を抱きしめるという行動をとったことや、レスリーの怒りを滲ませた態度を見て、私はもうひとつの覚悟をした。


「実は、2人にまだ、言ってなかったことがもうひとつあるの。私の……前にいた世界で起きたこと」


 王太子の所業は確かに恐ろしかった。その前の、アウリクス大魔道士が他意なく手を伸ばしてきたときも、その手から逃れようとしたくらいには怖かった。


 だがそれは、私が以前体験したことが下地になっているからだと、わかっている。


 ゲント先生とエラ先生はお医者様だ。だから気づいていることだろう。無闇に私に近づいてこようとしないのがその証拠だ。私にこの女子修道院への引っ越しを勧めてくれたのも、裏で彼が手を回してくれたからだろうと思っている。


 ここにはクロエとレスリーしかいない。二人ならきっと大丈夫だと思った。王太子に関するあの話も、軽蔑することなく聞いてくれたし、一緒に怒ってくれた。


 打ち明けるなら今しかない。


「私が以前住んでいた世界は、日本という国なの。私はそこで高校卒業を控えたある日、たぶん死んだんだと思う。死んだ理由は、私が……自ら死を選んだから」


 そして、私の昔語りが始まった。





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