制御
初めてレスリーと会った日から、私の周りで小さな変化が起きた。ひとつは皆が私の名前を呼んでくれるようになったことだ。
「ヒマリ様、レスリー様が本日もいらっしゃいました」
「ありがとう、クロエ!」
彼女に呼ばれて応接室へ向かえば、いつものようにレスリーが待っていた。
「レスリー! こんにちは。今日もありがとう」
「こんにちは、ヒマリ。今日も頑張ろうね」
「うん!」
そうして私たちは両手をつなぐ。お互いに触れた途端、かつて修道院の中庭でクロエと試したときと同じように、青白い輝きがふわりと立ち上る。
霧のように広がったそれが、光を反射してきらきらと輝く。スノーパウダーが舞い散るみたいに綺麗で、とても温かい。
「今日も調子がいいみたいね、ヒマリ」
輝きを目線で追いながらレスリーが呟く。この光の量で、その日の具合がわかる。たとえば夜更かししてちょっと寝不足だったり風邪気味だったりすると、光の広がりが弱いのだ。それは私であってもレスリーであっても、だ。
出会ったばかりのあの日、聖力や神力の制御を行うのはお互い初めてだったにも関わらず、手を触れ合った瞬間、何かが起こっていることを感じた。たちまち青白い光がふわりと舞い上がり、その場で見ていたクロエたちも驚きの声をあげていた。
レスリーの指先から何か温かいものが流れてきて、私の指先もじんじんと熱くなる。かつてクロエと試したときと同じものが、何倍にもなって流れ込んできたような感覚だった。
「これが聖力……? すごい」
「レスリー様? 何かわかるんですか?」
「えぇ。私の指先で不思議な力が渦巻いているのをを感じます。ヒマリ様はどうですか?」
「私も指先があったかいです。あと、なんだか身体が軽くなった気がします。なんでだろう、足が地につかないでいるみたいな」
私たちが会話を交わしている間も、青白い光を纏った霧がどんどん立ち上っていた。やがてそれはうっすらと青みを強くしていく。
「これは、聖女様の色です……。文献には聖女様は青い光を纏っているとあります。魔道士たちのローブや魔法騎士のマントは、その色を模して作られているんです」
同席していたエラ先生が呆然と呟いた言葉に、胸がぐっと熱くなる。このまま制御がうまくいけば、私は誰かを傷つけることなく自由に外を歩ける。
初日の訓練は十分ほどで終えた。私もレスリーも体力に不安があったためだ。相談の上、レスリーには週に三日修道院を訪ねてもらい、制御の手伝いを続けてもらうことになった。敷地の外で控えていたフェリクスにもそのように報告され、魔塔の許可もおりた。
以来、レスリーは練習の日、ここを訪ねてきてくれる。仲良くなった私たちは、お互いを呼び捨てしあうようになった。クロエにも混ざってほしかったのだけど、彼女には固辞されてしまった。
「私の立場は聖女様の側仕えです。本来なら王族でいらっしゃいますレスリー様ともこのように親しくさせていただける立場ではありません。どうかご容赦ください」
修道院には修道院の規律がある。私も無理を通すことはやめた。




