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第七話 混乱

 朝日がイギリスの最新空母『ダイアナ』に潜り込んでいた頃、橘キアラは混乱するイギリス軍と『アールグレイ』の傭兵達を相手に攪乱を目的とした機動戦を展開していた。


「ふう……。」


 物陰に体を隠し、一呼吸置く。

 そんなことですら容易に行えないほどに橘は追い込まれつつあった。

 サン=ニコラ通りで陣地を構えていたイギリス軍の弾薬庫が火柱を上げたことを受け、増援が殺到。

 造園の中には『アールグレイ』の傭兵も混ざっていた。


「フォーメーションを維持!相手は一人だ!囲め!」

「うげ……。『カナリア』分隊も来てたの……?」


 『アールグレイ』所属の歩兵分隊『カナリア』は、索敵を得意とする部隊であり、同社に勤めていた頃はとても頼りになる戦友だったが……。


「今は敵同士だし……多分これ私だってバレてそう。」


 橘は手にしたMac10の残弾とマガジンの数を手早く確認する。


「囲まれたら負けだし……逃げよっと!」


 声のした方向に弾をばら撒いて牽制し、橘は再び駆け出す。


「いたっ!あそこ!」

「やっぱりキアラね!追うわよ!見失ったら面倒なんだから!」


 『カナリア』の分隊長マリナ・クルーゼは、手にしたMP5でキアラの背中を撃つが、遮蔽物を利用しながら逃走する橘には当たらず、金属が跳ねるだけの虚しい音だけが返ってきた。

 肩まで伸ばした緋色の髪が四方八方に振り回してマリナは橘の後を追いかけ、その後ろを『カナリア』の分隊員が続く。


「待て!!」

「待たない!」

「聞いてねぇんだよこの淫売!!『アールグレイ』出て行ってどこほっつき歩いてるかと思えばこんなとこで男共誑かしてたか!」

「ちょっと!私が誰にでも股開くみたいに言うのやめてよ!そっちこそいい加減ボーイフレンドの一人でも出来たのかしら?毎晩通い詰めてたレンジ君とは進展あったんですかぁ?あっ、レンジ君からしたらキープなんだっけぇ?」

「何でそれ知ってんだ!この牛女ゴラァ!!」


 50発入り弾倉を差し込み、マリナの持つMP5が火を噴く。


「隊長落ち着いて!いつかいい人見つかるから!」

「いつかっていつだよ!?いつまで経っても現れないんだよ!もう30手前なのに……!いつまで企業戦士してりゃいいんだアタシはぁ!?」


 泣いてるのか怒っているのか哀しんでいるのか分からない混ざり合った人智を越えた表情で短機関銃(サブマシンガン)の弾をぶち撒けるマリナの姿にやや引きつつ、橘は合流地点を目指して走り続ける。


「ん?もしもーし?」

『目的は達成した。離脱するぞ。』

「りょーかい!っと言いたいけどちょっと補足されちゃって……。」

『了解。葵に援護させる。』


 谷間から取り出したトランシーバーでの通信を終え、元の位置戻す。


「おい!今の通信相手男か!?」

「ん?そーだよ!『ユニコーン(ウチ)』の社長!」

「はぁ!?ふっざけんな!紹介しろ!」

「えー?やだよー!それにマリナって多分社長のタイプじゃないしー!」

「なっ!?じゃ、じゃあ……どんなのがタイプなんだよ!?」

「そりゃ()()が大きい女でしょ。」


 走りながら自身の豊満な胸を寄せて強調する橘にマリナの表情が更に険しくなる。


「それは……アタシに対する……宣戦布告かゴラァボケェ!!」


 マリナの緋色の髪が逆巻き荒ぶるが、橘はそんな事もお構いなしに更に速度を上げ、フレシネ橋に差し掛かる。


『ジャンプ!』

「!」


 無線に従い、橘が跳ねるのと同時にフレシネ橋が爆発し、二つに折れる。


「きゃああああああ!!」

「な、何!?」


 爆風に煽られ、橘が吹き飛ばされる。


「オーライ!」


 そこへ、装甲車の上に乗った朝日がタイミングよく橘を受け止めて回収する。


「出せ!葵!」

「了っ解!!」


 渡辺が一気にアクセルを噴かし、一気に追手との距離を引き離す。

 破壊された橋の向こうで『カナリア』の面々は立ち尽くしていた。


「今のって……!」

背景(バックグラウンド)……!」

「隊長!!」


 マリナは走り去る朝日達を茫然と見送る。


「追いますか?」

「……あぁぁぁ!もうっ!」


 マリナは髪を乱暴に掻きむしって踵を返す。


「どうせこれ以上は追えないわ!司令部(うえ)に報告上げておきなさい!」

「よろしいのですか?」

「背景が出張ってきたならとっくに態勢取られてるわ。追ってもこっちが戦死(ロスト)するだけよ。ていうか追う足が無い。取り敢えずこっちの被害状況と合わせて報告よろしく。」


 マリナはそう言い捨てると港の方を見る。


「尤も……向こうもこっちの報告聞く余裕無いでしょうけどね。」


 マリナが見た方向では、イギリス海軍の駆逐艦と正規空母が現在進行形で轟沈していた。


「あーあー……。こりゃしばらくイギリス(こっち)は動けないわね。」


 そう言っている間にイギリス海軍の駆逐艦は海の底に沈み、正規空母は艦底からひび割れ、三分の一がへし折れ始めていた。


『マリナ。』

「あ?」


 腰から提げていた無線機から名を呼ばれ、雑に返事を返す。


『私の見間違いじゃなければ軍の艦が沈んでるように見えるけど?』

「奇遇ね。司令。私にもそう見えるわ。」

『何があった?』

「……」

『どうした?』

「背景の仕業よ。」

『……そう。』

「どうする?彼、もう逃げちゃったけど。」

『ボートを出す。それに乗って私のデスクに来なさい。』


 無線機越しでも相手の機嫌が悪いのはマリナにも分かった。


『良いわね?』

「……了解。」


 通信を終え、胸ポケットからタバコを取り出し、火をつける。


「……良い男捕まえたわね。キアラ。」

 人物紹介

 マリナ・クルーゼ(載せたら殺す)


 大手PMC『アールグレイ』所属『カナリア』歩兵分隊の分隊長

 元は軍の特殊部隊所属のアメリカ人で『アールグレイ』からスカウトされ、実績を積んで現在の地位にいる

 主に索敵偵察等の任務を担当しているが、時には要人警護等の任務も行っている

 社内における業務成績は平均的だが、堅実な仕事から比較的評価は高い

 かなり結婚願望が強く、度々婚活パーティーに参加しているが、悉く惨敗

 「女らしく無い」と言い放った輩は漏れなく血祭りに上げてる。

 使用火器はMP5

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