第六話 vsリンデバルド
連チャン投稿です。
リンデバルドの銃口が火を噴いたのが先か、或いは朝日が詰め寄ったのが先だったのか、頬に弾を掠めながら朝日はリンデバルドに肉薄し、その手首を捻りながら天井にカチ上げる。
「グッ!」
リンデバルドは関節を極められた痛みに顔を歪ませながらも朝日の空いた胴に前蹴りを叩き込みながら後ろに下がる。
「うぶっ!?」
胃の中からせり上がるものを無理矢理飲み込み、朝日は袖から抜いたナイフを投げつけてリンデバルドに牽制を差し込む。
放たれたナイフは、リンデバルドの眉間に真っ直ぐ飛んでいくが、リンデバルドは全力で首を曲げてこれを回避、するどころかすれ違う瞬間にナイフの柄を捉えて掴み、刃先を朝日に向けてそのまま振り下ろす。
朝日は振り下ろされる刃を右手で軽くいなしつつ、リンデバルドの左手首の関節を握って捻る。
「またっ……!」
拘束から抜け出そうとナイフを離して振り解こうとするリンデバルドだが、それより早く朝日が動いた。
拘束から抜け出そうとするリンデバルドの左足の後ろに自身の足を差し込み、つっかえ棒のようにし、空いた左手でリンデバルドの顎を掴んで上体を後ろに押し込み、仰け反らせた。
「うおおお!?」
リンデバルドの体は後ろに下がろうとするが、朝日の足が引っ掛かり、背中から地面に叩きつけられた。
「うぶっ!」
肺の空気を無理矢理吐き出され、のたうつリンデバルドの顎を爪先で軽く蹴飛ばす。
脳を揺らされたリンデバルドはそのまま意識を失い、銃を落とした。
「ふう……。」
不意の交戦を終えた朝日はゆっくり息を吐く。
リンデバルドの落としたマカロフを拾い上げて弾倉を抜き、中の弾を捨ててチャンバー内の弾も抜く。
「何と言うか……相変わらずだな。」
リンデバルドのマカロフには、萌えキャラのイラストがプリントされており、槓桿を引くとキャラクターの衣服がはだける仕様になっており、グリップには、殆ど裸のキャラクターが描かれているが、弾倉を装填すると、衣服が着せられる仕様になっていた。
「芸が細かいな……。」
鹵獲しようか迷ったが、女性陣に見つかった時のリスクが大きいと考え、朝日はマカロフを気絶したリンデバルドの近くに置いた。
「さて……今の騒ぎでひとが来る。さっさと戻るか。」
朝日はリンデバルドに背を向け、来た道を引き返そうと一歩目を踏み出した。
その瞬間、気絶していた筈のリンデバルドが起き上がり、マカロフのグリップで朝日の後頭部を殴りつけた。
「がっ!?」
異変に気付き、回避を試みていた朝日だが、間に合わず、右側頭部に攻撃を受けてしまい、地面に倒れ伏す。
「おいおい。もう帰るのかよ。もう少しゆっくりしていけ。」
「くそっ……!頑丈だな!」
確実に意識ごと顎を蹴り抜かれた筈のリンデバルドは下顎に血を垂らしながら笑みを浮かべる。
「いいさ。とことんやろうか。」
側頭部から流血しながら朝日も構えをとる。
「行くぞっ!トモヤ!!」
「さっさと来いよ。リンデバルド!」
最短距離を最速で二人の傭兵は駆け抜ける。
僅か15メートルの距離は、一瞬で縮まり、傭兵二人は拳を振るう。
「ぶっ!」
交差する二人の拳は、やはり体格で勝るリンデバルドに軍配が上がる。
鼻先に炸裂する鉄の匂いと鋭い激痛が朝日の鼻腔を貫く。
大きく仰け反る朝日にリンデバルドが追撃をかけるべく空いた腕で拳を突き出す。
だが、朝日はこれに対応する。
痛みで霞む視界の中にあってその動きは正確にリンデバルドの腕を絡め取り、リンデバルドの体を背負い投げで地面に叩きつける。
「がはっ!」
仰向けに転がされたリンデバルドは、叩きつけられた衝撃と痛みに堪えながら全力で横に転がる。
リンデバルドがいた場所に朝日の踏みつけが入るが、既にリンデバルドはそこにはいない。
踏みつけの為に重心が前に出た朝日の足をリンデバルドは倒れた状態から掬い上げ、朝日は頭から地面に倒れる。
幸い、落下の寸前に手で後頭部を庇ったことでダメージを最小限に抑えるが、両手が塞がってしまい、リンデバルドのマウントを許してしまう。
「うおおおおおお!!」
リンデバルドの猛攻で朝日の顔面が1.5倍くらい顔が腫れ上がっていく。
「終わりだ!!」
止めと言わんばかりにリンデバルドの振り上げた拳が朝日の顔面に深くめり込む。
鼻血と鼻水が混ざり合った粘性の強い体液がリンデバルドの拳にべったりと張り付き、線を引く。
「はぁ……はぁ……。」
朝日を叩きのめしたリンデバルドは、覚束無い足取りで朝日から離れ、座り込んだ。
「はぁ……参ったね……。」
そこに勝者としての余韻が……
「日本人の頭ん中はイカれてんのか?」
リンデバルドの脇腹から大量の血が流れ、地面を濡らしていた。
出血箇所には、深々とナイフの刃先が横向きに突き刺さっていた。
「あの時……俺の連打が一瞬止まったあの時か。」
顔面が凹んで腫れ上がった朝日がヨタヨタと立ち上がった。
「プッ!あー痛ぇ……。」
殴られた顔を抑えながら立ち上がったリンデバルドの前に立つ。
「悪ぃ。頑丈さと我慢強さには自信があんのよ。」
「はぁ……はぁ……。知ってるさ。」
「抜くぞ。」
「優しく頼む……。」
脇腹に突き刺さったナイフを朝日はゆっくりと丁寧にリンデバルドの脇腹から引き抜く。
「あと3分後にここ吹っ飛ぶからそれまでに逃げるこったな。」
リンデバルドに止血剤を放り投げ、足を引き摺りながら朝日は艦底を後にする。
「ふぅ……。この状態で走れってアイツ存外鬼畜だな。」
懐から取り出した葉巻に火をつけてリンデバルドは紫煙を吐き出しながらくつくつと笑っていた。
「あー……どうしよ。マジで生きて帰れるかな……。」
タイムリミットは短い。
「……潮時かね。」
今際の際を悟り、全てを諦めたリンデバルドの胸元が細かく震える。
携帯の通知が来たことを知らせるものだった。
「何だよ……こんな時に。」
通知の内容を開く。
「……魔法少女マジカル⭐︎きらりん第3期制作決定!?嘘だろっ!ファ◯ク!2期終了からもう10年経つんだぞ!?てことは、伝説の始祖編アニメ化するってこと!?」
端末を閉じ、簡素に止血を終えたリンデバルドは急いで立ち上がった。
「こんなとこでくたばってる場合じゃねぇ!!」
そう言ってリンデバルドは、艦底からの脱出を目指して駆け出したのだった。
「トモヤ……今回はお前の勝ちだ。だが、次はこうはいかねぇ……!アニメ見終わって円盤とグッズ揃えたらすぐに戻って叩きのめしてやる!それまで首洗って待って……」
そこで新たに携帯に通知が届く。
「……なんてことだ……!!アニ&アネ映画化!?」
リンデバルドの足の回転が更に速くなり、加速する。
取り敢えずもう向こう1年くらいは、予定が埋まりそうだ、とリンデバルドはニヤけながら爆発が起こり、沈みゆく『ダイアナ』を駆け抜けて行った。
人物紹介
リンデバルド・ヤマト(32)
大手PMC『アールグレイ』所属の傭兵
かつてはSAS(英国特殊空挺部隊)の山岳小隊に所属しており、高いサバイバル能力と斥候能力を活かした潜入任務や小規模拠点の制圧任務等を行っている
社内における業務成績も常に上位にいるが、夏と冬のコミケに参加する、と言う理由で大量に休暇を取ることから査定をマイナスされるが、本人的には特に気にしていない
帰化して日本国籍を保有している元イギリス人
重度のアニオタで日本語もアニメで覚えた程
アニメが好きすぎて国籍も変え、使用言語の殆ども日本語に変え、苗字まで変えてしまった
朝日友也とは『アールグレイ』時代から何度か共同で仕事をしており、その腕に対し尊敬すら抱いている
過去にインドでの作戦行動中に朝日に救われた過去があるが、朝日本人は覚えてない。というか知らない
そんな訳で朝日の『アールグレイ』退社に一番腹を立てていた