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第五話 急襲

 エリゼ宮殿からカレーまではおよそ300キロメートル。車で3時間程走れば着くが、現在は非常時かつ、朝日が運転しているのは軍用の装甲車である。

 多少の障害物は踏み越え、破壊して突き進み、結局2時間掛からない程度の時間をかけてカレーへと到着した。


「あちゃー……。」

「悲観的観測、当たっちゃいましたね。」

「あっ、沈む。」


 ユニコーン隊が目にしたのは既に陥落し、燃え盛る炎に巻かれたカレーだった。

 港にはイギリス艦が我が物顔で停泊し、港から少し離れた浅瀬には、真っ二つにされたフランスの駆逐艦やミサイル艦が浮遊しているか、現在進行形で沈む姿があった。


「どうします?フランス軍もすでに撤退済み、傭兵連中も流石に正規軍相手に真正面からやり合う気はないみたいですよ。」

「取り敢えずはいつも通りにやろう。キアラ、車両から武器降ろして。」

「はーい!」

「葵は今回は待機。車両をいつでも回せるようにしといて。あと無線機準備。最悪ピックアップしてもらうから。」

「了解。」


 装甲車から各々の武器、弾薬、装具を手早く降ろした三人は手早く装備を整える。


「キアラはサン=ニコラ通り、俺はモスク通りから侵入する。葵はフェルデブ橋付近で潜伏。目的はイギリス側の遅滞及び撹乱だ。」

「目標は?」

「敵主力艦の破壊ないし、撤退させる。若しくは戦線からの長期離脱を辞させる妨害工作及び破壊工作。例えば敵司令官の撃破。」

「了解!」


 つらつらと作戦計画が上がり、即座に実行されようとしている。

 そんな光景に連絡役として付いて来させられていたカレイドの部下ルシアンは信じられないものを見る目でユニコーン隊を見ていた。


「(敵主力艦の破壊?敵司令官の撃破?敵の支配領域内で?たった一個組で?バカなのか?このアジアン達はバカなのか?)」


 しかし、そんな彼の心の内など知ったことではない、と三人は各々準備を始める。


「ルシアンさん。移動します。中に。」

「えっ!?あっ……はい。」


 渡辺は、カレイドとの連絡役ルシアン・ヘルメスを装甲車に収容すると静かに潜伏地域へと走り去った。


「んじゃ、行ってきまーす。のギュッ!」

「はいはい。気を付けて。ぎゅっ。」


 渡辺を見送った朝日と橘は、別行動の前の抱擁をし合い、別々の道へと駆け出す。


「まだまだ子供ね〜。」


 おおよそワイヤーでもないと出来ないような動きで住宅の壁を駆け上がる橘は、先程の抱擁で耳だけ赤くなっていた朝日の顔を思い出してニマニマする。


「いつも戦争が終わったら気絶するまでヤッてるのに未だにオッパイが体に触れるのは慣れないのかな?」


 朝日がこの場にいたら弁明と抗議が出るが、悲しいかな彼は別ルートで動いているのだ。


「また終わったら、めちゃくちゃにして覚えさせるか。女の子の体は怖くないよー。って」


 そう言って橘は腰のホルスターからマズルにサイレンサーの付いたMac10を引き抜いてサン=ニコラ通りの監視塔の一つ目掛けて屋根伝いに駆け出した。


「ッ!?てきしゅ……ガッ!?」


 警告を発しようとした見張りの兵をドロップキックで口を封じ、動けなくするとそのまま梯子を滑って降りて行き敵陣地内に入り込む。

 近場にいたイギリス兵が橘に気付くより早く組み付き、引き倒して殴りつけて意識を飛ばしていく。

相手が気絶したら他の標的を見つけて襲い、また気絶させる。

 組み付くより先に発見されたらMac10の45ミリ弾を敵の全身に浴びせて無力感していく。

 物が倒れる音、物を殴る音、砕ける音、液体が飛び散る音、連続する気の抜けた炭酸のような音。

 陣地内に響く異様な音の繰り返しにイギリス側が気付き、応戦の構えをする頃には、橘は陣地内から抜け出しており、次の陣地へと向かう。

 そして、その道中に手にした発破機を捻る。

 橘の後方50メートルで天を衝く火柱が上がる。

 轟音と爆風の正体は、橘が離脱時に設置したTNTが弾薬庫に引火したものだった。

 サン=ニコラ通りに限らず、カレーを占領していたイギリス側は、その火柱を見て漸く、自分達が攻撃されていたことを認識するのだった。


「おいおい……。」


 一方その頃、モスク通りの路地裏から火柱を眺める朝日は、橘が派手に暴れていることを悟ってため息をついた。


「まあ、これでイギリス側の動きは掴みやすくなったけどさ……。」


 モスク通り沿いに路地を歩いて着実に港へと近付いていく。

 敵はあまりいなかったのは、今頃サン=ニコラ通りで暴れている敵に釘付けになっているからだろう。

 コンテナ群を抜け、港に辿り着いた朝日は、停泊しているイギリスの駆逐艦の方へと駆け寄る。


「ノックしてもしもーし、と。」


 黒のチョークのような物を取り出して人一人が余裕で入る程のサークルを駆逐艦に描き、導爆線をサークルに這わせてマジックテープで貼り付け固定する。

 その後、導爆線に火をつけるとジュッという音と共に眩い光が走ったら駆逐艦に穴が空いた。


「お邪魔しまーす。」


 穴から駆逐艦に忍び込み、艦底に向かう。狙いは艦の轟沈。

 敵はまだ侵入されたことに気付いていなかった。

 朝日は目ぼしい場所にC4を取り付けると元の道を通って別の艦へと走った。


「次は大物だな。」


 目をつけたのはイギリスの最新空母『ダイアナ』だった。

 同じ要領で艦に穴を空け、艦底に向かって駆け出した。

 空母を喰ったとなれば、イギリス側の損失は計り知れないものになる。

 当然、それはイギリス側も百も承知。

 艦内には、専門の警備隊が隈なく警戒していた。


「……」


 警備隊の目を盗み、少しずつ艦底に近付き、艦底に進むための扉に手をかけた。


「っ!!」


 反射的に手を引っ込めて全力で右に飛ぶ。通路の壁に激突しながらも構わずに朝日は背後を振り向いた。


「チッ……避けたか。」


 先程まで無人だった通路の先に人影が一つ。

 薄暗い通路を通って誰かが近付いてくる。


「ここで網張ってた甲斐があったというものだよ。トモヤ。」

「……リンデバルドか。」


 スキンヘッドにサングラス。そして……やや肌色の多い萌えキャラがデカデカとあしらわれた革ジャンを着た浅黒い肌をした傭兵に朝日は見覚えしかなかった。


「ほう……覚えててくれたのか。」

「忘れる方が難くない?」


 『アールグレイ』所属時代は決して少なくない数の戦場を乗り越えた戦友。

 名をリンデバルド・ヤマト。

 身長2メートルを超えるラガーマンのような体つきのこの傭兵は、日本のオタク文化が高じて苗字(ファミリーネーム)まで変えてしまった色々な意味で忘れられない男である。


「お前が『アールグレイ』を抜けたって聞いた時は程度の悪いジョークかと思ったが……。」

上司(うえ)に嫌われてね。」

「マジだったのか……。」

「ああ。今は独立して『ユニコーン』の社長兼隊長だ。」

「そうか……。」


 朝日の現在の事情を聞いたリンデバルドはほんの少し肩を落とした。


「日本支社も馬鹿な真似をしたもんだ。」

「どうだろ。清々してるかもよ。凄い嫌われてたし。」

「……悔いがないならそれでいいさ。」

「そろそろやろうか。俺も暇じゃない。」

「そうだな。俺だってそうさ。」


 会話が切り上げられたのと同時に、二人の傭兵が薄暗い艦底で激突を開始した。

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