本気を出したクロウド
クロウドは二人のオークの前に立つと、彼らに剣を向けた。
「おいクソガキ、お前一人で俺たちと戦うって? ははっ、クッソ面白いなお前」
「面白え。俺が相手してやるよ。手を出すなよゴルドン」
ゴルドンは無言で手を払って彼に返事をする。
それを見たジェイクは斧で思い切りクロウドを切りかかる。
クロウドは素早く横に動き、その攻撃を回避した。
(この斬撃が当たれば間違いなく致命傷になる。避けながら相手の動きをよく見ろ。頭の中でこいつの動きをトレースするんだ)
クロウドは意識を集中させて、ジェイクの斬撃をかわすことに専念する。
「ヒュー。ガキのくせになかなかやるじゃねえの。でも、それがいつまで持つかなあ!」
ジェイクは何度もクロウドを斧で攻撃する。クロウドはなんとかその攻撃を回避している。
(よし、こいつの動きが大分掴めてきたぞ。次は僕の番だ!)
相手の攻撃に慣れてきたところで、クロウドはジェイクを剣で切りつける。
しかし、体格の差は歴然で、ジェイクに剣を斧で受け止められて、そのまま吹っ飛ばされてしまった。
「軽い、軽いよなあ、ボウズ。身体が軽いんだよお。吹っ飛べやオラァァァ!」
「ぐぅっ!」
吹っ飛ばされながらも受け身を取り、口から血を流しながら無言で立ち上がるクロウド。
「…………」
彼の眼が鋭くジェイクを睨みつける。
そして、クロウドが次の攻撃のモーションに入る。
「何度やっても無駄だよぉボウズ。また吹っ飛ばして……」
タァン。
乾いた音が響いた後、ジェイクの視界からクロウドが消えた。次に彼がクロウドを見た時、ジェイクの喉元には、クロウドの剣が突き立てられていた。
(えっ!)
ゴルドンは一瞬の光景に目を疑った。
次の瞬間、ゴルドンの首にも、クロウドの刃が突き刺さった。
(攻撃のリズムが少しだけずれた! 裏拍子を使ったんだわ!)
アロウラはクロウドの動きに驚愕していながらも、冷静にその動きを分析していた。
全ての攻撃モーションには、固有のリズムが存在する。
このリズムを半拍子分後ろにずらすことで、相手にとって想定外の動きとなり、反応できなくなる。
これが裏拍子の動きである。
クロウドはジェイクを攻撃する直前に、つま先で素早く地面を蹴って音を鳴らしていた。
彼は、つま先で地面を強くタップすることで攻撃のリズムを変えて、また、タップした時に出る音で相手の注意を一瞬だけ足元に引きつけた。
クロウドはこの技で攻撃のリズムを半拍子だけ遅らせていたのだ。
そこから一気にスピードをあげて最高速度で攻撃することで、音に気を取られていたジェイクに反応する時間すら与えなかった。クロウドは、確実に獲物をしとめるために、彼等の急所である首を剣で突き刺した。
(裏拍子で攻撃したのもすごいけど、もっとすごいのは、まったく躊躇せずに敵の首に剣を突き立てたこと。スクネ、あなたがこの年でこんなことが出来るのは、私たちを守るっていう強い意志と覚悟があるからでしょう? やっぱりあなたはアンナの子供なのね)
アンナは、余計な血の匂いを消すために、オークの亡骸を炎の魔法で焼いている。
そして、クロウドの全身にかかった返り血を水の魔法で優しく洗い流した。
「よくやったわクロウド。あなた、やれば出来るじゃないの。見直したわ」
「ありがとう。僕だけでなんとかアンナのこと、守れたよ。アロウラもね」
クロウドは二人ににっこりと微笑んだ。
(あの時のスクネの眼、ゾクゾクするくらいかっこよかった。どうしよう。アンナと同じくらい好きになりそう。まだ子供なのに)
アロウラは、胸の鼓動が高まるのを感じていた。
「さあ、新たな魔物が集まってくる前に、さっさとここを離れるわよ」
三人は森を抜け街へと向かっていく。
森の外には、彼女たちの想像した以上に荒廃した世界が広がっていた。




